若輩者ですが、何か?
さてと、本日の議題は…
「地区のゴミ置き場に、収集日以外の日に置いてあるゴミ袋の数をいかにして減らすか」か…。
これは簡単な様に見えて、なかなかの難題だ。
なぜなら人間は、自分が一番大事な生き物だからである。
ゴミは、臭う。しかも、場所をとる。人は、自分のテリトリーに不快な物がある場合、多くはそれを排除しようとする。
とりわけ、腐敗物は人間の身体にとって危険を及ぼす菌やガスを発生させる原因である。本能的に危険を察知し、回避するのだ。
それを見過ごす事ができる人間は、危機回避能力が低いか、よほど忍耐強いかのどちらかだ。
強敵に立ち向かう熱意がある者達は、コンポストや生ゴミ乾燥機等を導入し、腐敗臭と質量を抑えこむ事に成功するが、その数はまだまだ少ない。
よって、人々は不快な物体を収集日でないにもかかわらず、必然的に収集場に持って行ってしまうのだ。
人間の生存本能がもたらす揺るぎない結果であり、抑えがたい衝動なのである。
「…、さん、
…さん、田中さん!」
「はい。」
「何か意見はありますか?」
「そうですね。
ゴミ収集場に収集日以外にゴミを出すのは、人間の本能であり、この行為をやめろと言う事自体、無理な問題です。
ゴミ収集場に収集日以外にゴミを出す事で、1番の問題は何でしょうか。」
「…、
あ、
ゴミ置き場に、動物が来て荒らす事ですね…。」
「それでは、収集場を動物が入り込まないような強固な物に変更する、もしくは、自分でゴミをゴミ焼却場に運び込んでもらうしかありませんね。
1番低コストでかつ効果がありそうな案は、、監視カメラを設置することでしょうか。」
水を打ったような静けさー
「あ、申し訳ありません。
もうすぐ塾の始まる時間ですので、これで失礼させていただきます。
それではー 」
黒い学生服に身を包み、学生カバンを手にした青年は、傍らに置いていたヘルメットを被ると、一礼をして公民館の扉を閉めた。
シルバーの自転車に乗り、授業開始時間の迫る塾へ向かって颯爽と去っていく青年。
田中 一郎
16歳 高校一年生
彼は、花園町3丁目9班
班長
なのである、、、!
誰が呼んだか、その名も「高校生班長」、、、!
あれは、1か月前の出来事だった。
田中一郎が、地元の名門高校への進学が決定した夜、
彼の父親の転勤と、母親の妊娠が確定した。
田中一郎の1人暮らしも確定したのだ。
運悪く、地区の班長が、当番で回ってきてしまった。
「順番で回しているとはいえ、さすがに高校生は無理だろう。」
「かわりに誰か他の人がやってはどうか。」
「誰がやるのか」
「次の人に回したらどうか」
「うちは、子供がまだ小さいし」
「うちは、介護があるし」
「うちは、受験生がいるし」
「うちは、仕事が忙しいし」
様々な意見が交わされた。
しかし、
彼の凛とした眼差しと物言いに、見る者は心奪われたのである。
「私に任せてはいただけないでしょうか。
私のような若輩者に、班長という大役を任せるのは心許ないとお考えでしょうが、皆様のお役に立てるよう、尽力させていただく所存です。」
かくして、彼は高校生ながら、班長を務めることになったのである。