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鉱物 「カプセルと魔導通信」 【挿絵あり】

こうーぶつ 「守護の貴石(キデモナス・コズミマ)の原料、魔導士(ミゼン)の贈り物」

 


 辺境のフロトポロスの伯爵邸の広い敷地の中の、庭園の隅っこにも王都の王城ほどではないが小さな四阿(あずまや)があった。

 普段はほとんど誰も足を運ぶことがなかったが、そこは今シズルが唯一ひとりになれるお気に入りの場所()()()


 

 自分の部屋に居ても、何故かマナーというものを何処かに忘れてきたような連中が、四六時中ずかずか許可なく入り込んできてシズルを辟易とさせていた。

 その()()()()が今も四阿の前で腕組みをして、じっとシズルの方を見ていたが、彼女はその視線をまるっと無視して図書館から持ち込んだ分厚い図鑑や、何かの使用説明書のようなものとにらめっこをしていた。


 


「シズル、()に入れてくれよ」


 

 四阿の柱の手前でデュオがシズルに、四阿の中へ入るための許可を求めている。


 

 シズルは今四阿の建物ごと『カプセル』に入って周囲から隔離された状態でいたが、空間は隔離できても空気を振動させる(こえ)はどうにもできずに、さっきから何度も同じことを繰り返しているデュオの申し出を知らん顔で無視していた。

 次は防音対策を何か考えなければと内心で溜息を吐きながら、シズルはお手製の翻訳辞書の隅っこに鉛筆で『()防音』と母国語(にほんご)でメモ書きをした。


 


 シズルは現在自分にも使える、魔導通信(エピキノニア)に代わる別の通信手段を創り出せないかと思案中だった。


 通話さえできれば映像は特に必要ないので、SF映画や特撮、或いはマンガに出てくるバッジやイヤホン型の通信機のような、身につけられて小さくて扱いやすいものを考えていたが、そういったものを異能で創り出すことは可能かもしれなかったが、今のシズルの力ではその物質を恒久的に持続させることはできなかった。



 いろいろ頭を悩ませているうちに、この世界には魔力を使えれば誰でも使用できるカンテラや、防御魔法を籠めておける魔導士のローブの銀糸刺繍や、その銀糸を()き込んで作った銀紙のような『魔道具』的なものがいろいろと存在するのを思い出し、もしかしたらこの世界にある既存の魔道具のようなものに、シズルが創り出したものの()()()()()()()して保存し、新しい道具ができるのではないかと思いついた。

 そこでそれに相応しいものが何かないものかと、いろいろ探しているところだったのだ。


 


 この世界には速達便(もど)きの『魔導書簡(エピストレ)』や、相手の立体映像が立ち上がる、SF映画のホログラムもびっくりの『魔導通信(エピキノニア)』なる通信手段があったが、それは双方ともに魔力の強い貴族や魔導士が使う通信手段で魔力の消費も激しいものらしく、貴族といえど特に必要のない時には使うことはなく、市井(しせい)に暮らす一般人と同じように普通に郵便で手紙のやり取りをしていた。

 シズルも『混ざりもの』になったことで強い魔物の魔力を得ることになり、発信側でどういう呪文や手順がいるのかはさっぱりわからないものの、魔導通信の『受信』はできるようになった。


 ・・・というか、半ば強制的に受信させられることになってしまっていたが、この一見すこぶる便利に思える魔導通信は、相手の都合など考えず所構わず一方通行で出現し、しかも着信拒否ができない曲者(くせもの)で、魔力が強く他人に無頓着な魔導士は結構気軽にほいほい使用する傾向があった。


 現に今も。


 

「シズル、今いいかね?」


 

「・・・ちっともよくないです」


 

 シズルの異能で造られた結界のような『カプセル』は、シズル以外の干渉は受け付けないはずで、現にデュオは入ることができず四阿の外側に立ったままだったが、この世界最強の『魔導士(ミゼン)』はその範疇ではないらしい。


 

 長身痩躯で長い銀の髪、青と緑の左右違う色の目を持つ、年齢不詳の魔導士の頂点のミゼンは、今は手のひらサイズの半透明の魔導通信(ホログラム)で、四阿のベンチテーブルの上にいつものようにいきなり現れると、周囲をぐるりと見回して感心したようにシズルに話しかけてきた。


 


「これはまた面白いものだ。結界(フラグマ)とは少し違うようだが?」


 

 シズルが短髪で、以前にも増して少年のように変化していてもミゼンがさして気にも留めないのは、彼自身も『(ミゼン)』に成った時にその姿を変化させた経験から、姿かたちが変わってもそのものの本質は変わらないと身を()って知っているからだろう。


 


「私は『カプセル』と呼んでます。物理的な強度のあるものをイメージしているので、ベールのような柔軟性のある魔力の『間仕切り(けっかい)』とは違ってもっと硬質な感じだと思いますよ」


 

「おいシズル! ミゼンを中に入れるんなら俺も入れろ」


 

 シズルが『カプセル』内に突然現れたミゼンの魔導通信と親しげに会話を始めると、デュオがまた一段と騒ぎ始めた。


 

「私が入れたんじゃなくて強制的(かって)に現れたんですけど」


 

 デュオの焦りを含んだ声に、ミゼンが今『カプセル』の中に居るのは不可抗力で、シズルの自発的な行為ではないと溜息混じりに抗議したが、その会話のやり取りで四阿の外にデュオが居ることに気がついたミゼンの魔導通信が、苛ついて嫉妬の炎を燃やしている男に()()()()と大量の油を注ぐような言葉を発した。


 

「おや、デュオ。そこにいるのか? なんだ君も()()()()来ればいいだろう」



(はい)れりゃ苦労しねぇ!」


 

 のんびりしたミゼンの問いかけにデュオが噛み付いたが、当のミゼンは顎に手を当て少し考えた後、シズルにも思いもよらなかったことをデュオに提案した。



「・・・ふむ。おそらく実体のない『魔導通信』だから可能なのだと思うが、試してみたかね」


 

「えっ」


 

「なんだと?」


 

 そこまで深く考えていなかったシズルは、魔導通信は『()()』というだけあって、音と同じく空間を伝わる電波的な何かなのだろうかと今更ながら考え直したが、考えただけでは何の解決にもならなかった。 


 

「スティリテ・ミア・イコーナ・スト・シズル・ト・ディアフォレティコクコズモ」


 

 デュオが唱えた次の瞬間、ミゼンの話した通りベンチテーブルの上に手のひらサイズのデュオが出現してしまった。

 魔導通信の発動呪文を初めて知ることはできたが、シズルには相変わらずさっぱり仕組みはわからないし、そのまま頭を抱えることになってしまった。


 

「「 おお、なるほどな 」」


 

 デュオの声が『カプセル』の中と外で()()()()。最悪である。



「「 面白いがまどろっこしいな。おいシズル、やっぱり直接中に入れてくれよ。なあ 」」 



「なんて事してくれちゃってるんですか、ミゼンさん」



「何かまずかったかね?」



 浮世離れした魔導士の頂点の『(ミゼン)』は、口を尖らせて抗議するシズルにも鷹揚と対応している。

 対策事項が増えてしまったシズルはミゼンの聡明さを恨んだが、今はそれどころではなく『カプセル』の内と外で早く中に入れろと()()()()デュオが騒いでいて、いつもは静かな四阿がとても騒々しい。


 シズルが観念して『カプセル』を消すと、デュオが笑いながら四阿の中に入り込み、自分の魔導通信を終了させるとシズルの隣にどっかり腰を下ろした。


 


「なんで隣に座るんです? 反対側が空いてるでしょう」


 

 おひとり様を邪魔された挙句、肩が触れるほど近くに座られたシズルが仏頂面で抗議したが、デュオは自分の希望(のぞみ)を譲らなかった。


 

「俺は()()に座りたい。それとミゼンはシズルに何の用だ。お前まだシズルを弟子に勧誘してんのか? いい加減諦めろ」


 

「もちろん勧誘も諦めてはいないが、それとは別にシズルの『まじない』の話を聞いて、どういったものにどれくらいの効力があるのか是非ともこの目で見てみたいと思ったのだ。それにこの『カプセル』とやらにも興味がある。デュオ、君はちっとも話を聞かせてくれないではないか、私とてシズルの異能には興味があるのだ」


 

 自分をそっちのけで言い合いを始めた、ふたりの魔導士にシズルは深い溜息を吐いた。


 デュオとミゼンはお互い『番号持ち』になる前からの知り合いで、以前はふたりで魔道探究のため世界を巡る旅をしていたほど仲が良く、元は貴族だったらしいミゼンだが貴族嫌いで魔導士嫌いの平民のデュオが、王城で唯一信頼し心を許していた人物がこのミゼンだった。



「シズルの能力に興味があんなら、(いおり)に籠ってねぇで(たま)には俗世(こっち)に出て来いよ」


 

 デュオの言葉に小さなミゼンが笑ったように見えたが、彼はそれには答えずに()()()ベンチテーブルに広げられた図鑑を見てシズルに問いかけた。


 

「それでシズルは何を調べているんだね?」


 

「魔力を籠められるものを探してるんです。魔導士のローブの刺繍に使われる銀糸を加工した銀紙はありますが、あれでは常時持ち歩くには耐久性に少し不安があるし、私の考えているものとは相性が悪そうなので、他にも同様の機能を持った何かがないか探しているんです」


 

「なんだ、それなら『護り石(アポーヴィタ)』があるぜ」


 

「アポーヴィタ?」



「正しくは『守護の貴石(キデモナス・コズミマ)』といって、貴族が銀糸のローブの代わりに装飾品として身につけている宝玉だ。石によって守護の効果が様々にあるので色々な種類の石が使われるが、それを加工した時に出る破片や屑石(くずいし)が『護り石(アポーヴィタ)』として市井に出回っているのだ」


 

 シズルの疑問を受け、ミゼンがデュオの話した『護り石』についての補足説明をした。 



「パワーストーン的なものですかね。でもジークハルト様やシルがそういった物を身につけてるところを見たことはないですけど」


 

 シズルの世界のパワーストーンというのは、単なる貴石や半貴石のアクセサリーだが、その石を身に付けるとその石の持つ特別な力でさまざまな良い結果がもたらされると言われ、それを信じている人々も結構いる。科学的な根拠が何もないために疑似科学かただの気休めのお守りと同じレベルだが、こちらの世界では本当に力を発揮する本物の力ある貴石(パワーストーン)なのだろう。


 


「普通はピアスや指輪なんかが多いが、あのふたりは表面からじゃ見えないし、長めの首飾りにでもして身につけてんじゃないか? そういやあんまり目立たないが、ベルトの飾り石のひとつにも『守護の貴石』が使ってあったな」


 

 おしゃれには疎いが、魔術に関連することには目敏(めざと)い魔導士のデュオがそう説明したのを聞いて、彼らと結構長いこと一緒に生活しているはずのシズルは本当に驚いた。


 

「えっ?! そんな隠れたおしゃれを楽しむような洒落者(しゃれもの)のようなことをしてるなんて、全然気がつきませんでした」


 

 ぱっと見優男(やさおとこ)のシルベスタならいざ知らず、質実剛健の見本のようなジークハルトがこれ見よがしにチャラチャラと装飾品をつけている姿は想像できないが、正装の時の上等だが装飾品は何もなかった墨色の上衣の裏地が、鮮やかな真空色(まそらいろ)だったことを思い出したシズルは、やはり腐っても貴族の端くれであの大男も洗練された部分もあるのかと、ジークハルト本人が聴いたら鷲掴み(アイアンクロー)の刑を受けること間違いなしの、大層失礼なことを考えていた。


 


「でも(ちまた)に出回ってる『護り石』はいろんな種類の『守護の貴石』の細かい破片を(にかわ)で固めたものだからな。平民の魔力なら大丈夫だろうが、シズルの力を込めたら砕けちまうかもしれないぞ?」


 

「じゃあその破片の本体の『守護の貴石』というのはどうすれば手に入るんでしょうか」


 

「何かの実験に使うなら私が用意しよう。どういった種類の鉱物(いし)が入り用なのかね?」


 

「そうですね、魔術的なことはさっぱりわからないんですが、魔導通信の簡易版的なものが何かできないか考えてるんです。実用品なので希少性とかは必要ないので、割と手に入れやすいものがいいです」


 

「ふむ、ならば『ハラジーアス』か『トゥルマリーニス』あたりがいいかもしれないな。了解した、では早速手配してそちらに送ろう。結果を楽しみに待つよシズル」


 

 そういうとミゼンの魔導通信は、ベンチテーブルからふっと消えた。良いものが手に入りそうでほくほく顔のシズルとは対照的にデュオは不満顔で、ベンチテーブルに片肘で頬杖をついてシズルの顔を覗き込んでいる。


 

「なんだよシズル、言えば俺が用意してやったのに」



 そう言いながら自然に伸びてきたデュオの手をするりと(かわ)し、シズルは分厚い図鑑を抱えて立ち上がった。

 さすが、と感心するべきかどうかわからないが、花冠(はなかんむり)の一件からこっち、好色漢(すけこまし)の色男はシズルの隙あらば、実にさりげない仕草であちこち触ろうとするので油断も隙もないのだった。



「宝石じゃあるまいし実験に使う希少性のない石ころなんて、誰が用意したって同じなんだからいいじゃないですか。それよりどんなものが出来上がるか今から楽しみです」


 

 ミゼンの申し出に気楽に答えたシズルだったが、後日送られてきたものを見て、文字通り腰を抜かしそうになることは想像していなかった。


 


 


 


 数日後、何故か王都のミゼンから、転移陣使用の先触れが来て辺境の転移陣が作動した。


 シズルはミゼンとのやりとりを領主兼雇い主のジークハルトに報告していたが、国王付き魔導士であるミゼンが()()()、届け物と一緒に現れるのかと驚いたジークハルト以下、シズルたち大人組メンバーは邸の転移の間で待ち構えていた。

 しかし作動後の転移陣の中に人影はなく、その代わりに転移陣に現れたものを見たジークハルトが呆れた声を出した。


 


「・・・何だこれは」


 

 ジークハルトにそう問われても、シズルはあんぐり口を開けたまま何も答えることができなかった。ミゼンからの先触れがあった時点で、先日の守護の貴石の件だとは思っていたが、まさか石そのものだけを転移陣を使って送ってくるとは思っていなかったのだ。しかも『石』というからせいぜいビー玉や碁石(ごいし)のようなものをシズルは想像していたのだが、ミゼンから届けられた石はまさに()()()()()()という感じの大きな石の(かたまり)だった。


 言葉もなく呆然としているシズルの隣で、デュオは送られてきたものを平然と品定めしている。


 


「へえ、なかなかいい石だな」



 それは薄紫の結晶の柱がいくつも突き出した雲丹(うに)のような形のひと抱えもありそうなでかい代物(しろもの)で、おまけに美術館や大金持ちの(とこ)()にでも鎮座していそうなほどとても()()()()しく、シズルはその値段を想像して気が遠くなった。


 こんなものを実験と称して、ほいほい入手できる魔導士の懐具合に感嘆したシズルは、あらためて庶民と魔導士というものとの金銭感覚の違いを実感することとなった。


 


「これをどうしろと」


 

 転移陣のど真ん中に鎮座している、自己主張も(はなは)だしい薄紫の鉱物(いし)の前でシズルは途方に暮れていた。




挿絵(By みてみん)

 


 





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