ランチタイムそのに2
思えば何故ティナがそんなに海賊になりたがっているのか知らなかった。興味が無かったとも言える。こちらは元海賊、下手に関わって正体がバレるのは今後の生活の為に避けたい。面倒事に巻き込まれては厄介であったし、そもそもそちらを気にしている余裕は最近まで無かった。
とはいえ、今も必要以上に関わりたくないとウィルソンが思っているなら、ジョシュアもそうしたいと考えていた。だから勘違いをされているならそのまま貫き通せばいい。
「ここに海賊が来たって話は本当か?」
だと言うのに、なぜこうも面倒事は続くのだろう。
ティナの話を聞いているうちに、店のドアが開かれた。客かと思い身体をそちらへ向ければ、雨に濡れるのも構わず来たのであろう男が3人ほど入ってきた。身形はお世辞にも綺麗と言えず、剣や銃といったものも隠さず持ち歩いている。そして先程の台詞だ。ヘンリーさんたちと同業の方ですかなんてことは聞かずとも分かった。
「あなたたち、昨日島に着いた海賊衆よね?」
意外にも食いついたのはティナだった。穏やかでない空気を感じた常連の人たちはそそくさとランチ代を払い店を後にしていったのに、彼女だけはその場に残っていたのである。
「なんだ、変わり者のお嬢ちゃんか」
そしてあろうことか彼女は彼らと顔見知りだったのだ。というのも、昨日頼み込んで断られた海賊衆がそこだったらしい。なんとか彼女に取り次いでもらって帰ってもらえないだろうかと思っていたがそこまでの仲では無いようだ。
「あそこの海賊衆、商船には停泊料を取らねえんだ。おかしな話だろう」
「なんだっけ、海の交通料、礼銭?は徴収しているんでしょう?」
「それは俺らも払ってる」
実際物資調達で他の海賊船がこの島に寄ることはよくある話だ。その時停泊料も少なからず貰っていることは知っていた。
話を聞くとこの海賊衆は、礼銭を払った上で停泊料も取られていることが解せないらしい。しかもそれがその人たちにとって安くないらしく、これでは物資調達もままならないと言う。
海賊といえば、いつ敵になるとも知れない無法者たちだ。多めに支払わせることで必要最低限の買い物だけに済ませ、武器の調達は出来ないようにしているのだと昔彼らから聞いたことがある。この町が戦場にならないようにしていると思えば、町民としては大いにその考えに賛成だ。
そして恐らくそのことは最初に海賊衆に伝えている筈だ。「敵意が無いことを目に見える形で示してもらう」だとか、そんなようなことを言って。意図を伝えないまま「俺らにだけ金を多く取るなんて差別だ」と言われ銃を向けられては意味が無い。海賊相手に差別もなにもないが。
「有り金伝えて調達したい物資のリストを見せたら2割減額してもらえたが、それでもギリギリだ。そのまま島に帰っても何も出来ない」
つまりまた減額の相談をしたいということらしい。そういうことなら、とジョシュアは立ち上がり少し距離を縮めた。
「生憎今日は彼らが店に来る予定はないんですが」
今日はお帰り頂けないかとあくまで優しく言うと、海賊衆は首を横に振った。
「いやあ、そこは重要じゃない」
重たい金属音が目の前で響く。男の手にあるものの銃口は、まっすぐにティナに向けられていた。
「…なるほど。ここにいる者を人質に取り、彼らの金を巻き上げる、と」
「ご明察」
しかし顔見知りを人質にするなら彼女は関係が無いし意味が無い。ヘンリー海賊衆は彼女に会ったことがあるかもしれないが、懇意にしている飲食店の店員を人質にする方が何倍もメリットがあると言える。
「ああ、いやな。ついでにこの店の金も貰おうと思ったわけだよ」お前らが海賊衆に泣きつきゃ上等、店が荒れてりゃあ嫌でも気付く。
「…それはまた、凄く海賊的な考え方をしていることで」
「お褒めに預かり光栄だな」
軽口を叩いているが男に隙は無かった。ティナは銃口に気を向けているうちに背後を取られたらしく、後ろ手に拘束されていた。身を捩っているが女性ではまるで相手になっていない。
そして困ったことにこちらが金を渡しても、海賊衆に報告に行っても、どちらにしても店は壊されるそうだ。相手は武器を持っていて、人質も取られている。
完全に不利な状況で、何か手を打たなければと考えていると「お前ら、俺のいる前で誰を人質に取って、誰を脅してやがる」なんて恐ろしく低い声が店に響いたのだ。