ランチタイムそのに
◇◇◇
なんで話してくれなかったのよ!いつもより遅い時間に店を開けて暫く、騒々しくドアを開けて入ってきた客に開口一番そう言われた。昼時になると必ず来る常連に、いつものようにトマトを抜くか抜かないかで言い合っていた矢先である。
なんのことかと一瞬ばかり考えたが、それは彼女が「海賊衆がここに来たなら私に言ってくれてもいいじゃない!」と文句を言ったことで分かった。
「おいおい、八つ当たりは宜しくないなあ!」
「そもそもヘンリー海賊衆には一度振られているだろう、ティナ!」
言い訳でもしようかと思っていたら常連客がまたいつものように彼女をからかう。ティナはふくれっ面で常連客を睨むと反対側のテーブル席に座った。この近辺の海を縄張りとしている海賊衆にはティナも早い段階でトライしていて、やはり断られていることは町でも周知のことだ。
ティナは過去に別の海賊衆に何度も頼み込んで、襲われかけたことがある。海賊が女性を襲うというと選択肢は一つだろう。詳しくは2人も聞いていない為どう切り抜けたかも分からないが、それからは一度断られればあっさり引くようになった彼女が珍しく再トライしようとしていることに少なからず驚いていた。
「断られた船にもう一度頼みに行くなんて、どんな心境の変化?」
水を注ぎにテーブルに行くと、ティナは未だにふくれっ面でテーブルに肘ついて座っている。
外は雨で、常連以外に客はまばらだ。エプロンまでは外さないが、ジョシュアは反対の椅子に座って話を促した。
「…聞いたの。あそこは子どもを船員として乗せていたって」
なるほど、ひとつ頷く。つまりはそれなら女の自分も乗せてもらえるんじゃないかと考えたのだろう。
「その子どもは男の子だったんじゃないの」
「でも子どもは子どもでしょう」女子どもは乗せないようにしているって言ってる海賊がおかしな話じゃない。
彼女の言い分はもっともだった。男であろうが子どもであることは変わらず、それなら成人女性の方が出来る仕事は多い筈と思ったに違いない。ティナならそう考えるだろうな、とジョシュアが思っていると「それ誰から聞いた話だ」とウィルソンが別のテーブルに料理を運ぶついでに聞いてきた。
「多分その海賊衆の人」
「多分、ってなんだそりゃあ」
「だって「あいつも大きくなったもんだよなあ、うちの海賊衆にいた頃なんかあんなちっこいガキだったってのに」って言っていたのを聞いただけだもの」
話を聞いて項垂れる。あの人たちは不用心にそこら辺で身内のことを話しすぎだ。しかもどうやら彼女の開けている店で話していたというから更に頭を抱える羽目になった。恐らく海賊衆側は一度断っているのは覚えているだろうが、聞き耳立てられているとは思っていなかったのだろう。
どうなの、それ、海賊として。そう思わずにはいられなかった。そのうちうっかり名前を出してしまいそうで怖い。
「で、昨日来たんでしょう?この店に」なんで教えてくれなかったの。
話は戻り、またジョシュアは理不尽に怒られた。その手には関わらないようにしているウィルソンはさっさとキッチンへ戻っていく。
「ティナのところの果物を卸しているように、魚を卸してもらっているんだよ、そこの海賊衆に」
「ここ最近構えたばかりの只の飲食店が海賊衆に魚を卸してもらうなんて変よ」
鋭いところを突かれて口を噤む。確かにこの海で漁をしているのは海賊衆だけじゃない。海賊衆は遠方へ行くことのある上乗りを主としているため海を空けることがまちまちだ。その間の海の見張りも兼ねて漁業を許可したのが始まりで、その後町民と話し合いお互いが公平に利益を得られるよういつでも漁が出来るようになった。
つまり不定期に戻ってくる海賊衆に頼むより町民から卸してもらう方が、飲食店としては安定して食材を調達出来るため良い筈なのだ。
なんて言おう。そう頭をフルに回転させ上手い言い訳を考えているジョシュアを見て、ティナは何か閃いたようにテーブルを叩いた。「分かった」その次に出る言葉を待つ。
「この店、お酒があるからでしょう」
思わず椅子から転げ落ちた。
「こんな田舎の港町じゃ居酒屋なんて無いし、みんな夜にはお店を閉めちゃうから」唯一お酒のある、夜に開けてくれる店に懇意にするのも納得よね。
「ティナ、お前大物になるぞ」
キッチンから顔を覗かせたウィルソンが至極真面目な顔でそう言った。てんで的外れなことを言っているのにティナ自身はそれが答えだとばかりに頷いている。
確かに彼女は海賊でなくとも大物になれるかもしれない、ひっそりとジョシュアはそう思った。