ランチタイム
―その一、何人も女子供を船に乗せてはならない。
―その二、自分の分け前が一定金額を満たすまでは船を降りることは許されない。
―その三、役職に関わらず船員一人ひとりに一票の権利を有し、大事な取り決めの際その一票を使用することができる。
―その四、金を賭けての賭博を全面禁ずる。
これを破った場合の罰はその程度により変動する。ただし厳罰は免れない。
◇◇◇
日差しの強く焼けるような季節に関わらず、港町にはからりと涼やかな風が吹いていた。朝と言うには少し遅い時間に目が覚めて、窓を開ければ心地よく風が頬を撫でる。それを堪能していると、突然穏やかな風とは到底言えない圧が自分の頭に降りかかって、閉じかけた目はすぐに開けられた。
「おはようジョー!朝飯出来たぞ」そう言ってフライパンを自分の鼻のすぐ先に突き出すその人をきつく見る。こちらは睨んでいるというのに少しも怯む素振りを見せず、それどころか片眉上げて笑ってすらいた。してやったり、そんな顔だ。
「もうハナッタレの子どもじゃないのに、頭なんか撫でないでよ兄さん!」
そもそもキッチンは向こうの部屋だというのにここまでフライパンを持ってきたのか、この人の行動はまるで理解が出来ない。しかしその反応すら彼には面白いらしく、「兄さんからしたらお前はいつまでもハナッタレの子どもだなあ」なんて笑って結局乱暴に頭を撫でてきた。
ひとしきり髪をぐちゃぐちゃにすると満足したようにポンと手を置いて、慣れたようにベッドの方へ歩いていく。
「ほら、行くぞ。食ったら店開けるから」
立て掛けてあった腰の高さまである木の棒を、こちらを見もせず投げて寄越す。まっすぐに飛んできたそれを受け取ってドアの方へと身体を向けた。
「今日の賄いはなに?」
「お前は朝飯食う前に昼飯の話か」今日はヘンリーたちが来るから、海鮮丼辺りだろうよ。
そういつものようにいつもの会話をして、受け取った木の棒を支えに部屋を出た。いつものように、この右足は動いてくれようとしないらしい。
「おおいジョシュア、日替わり定食2つ!1つは、」
「大盛り、でしょ。分かってるって!」
「なージョーからもウィルソンに言っておいてくれよ!俺トマト嫌いだからサラダにつけるなって!」
「わはは、兄さんに直接言えたら特別に抜いておくよ!」
「言えないからジョーに頼んでいるんだろ!」
海沿いの道に狭い飲食店を構えて5年が経つ。昔から料理が上手く、人付き合いの好きなウィルソンのおかげで店はすぐに軌道に乗った。ジョシュア自身も明るい性格で接客に慣れるのは早く、今日も腰に巻かれているくたびれたエプロンが二人に合わせて忙しそうに揺れている。
とはいえ、ジョシュアの可動範囲は狭い。杖が無くても歩けはするが、どうしても引き摺ってしまう右足ではメニューの聞き取りと勘定くらいしか出来ず、料理を作って運ぶまではウィルソンが行っていた。どう見ても二人ではやりにくい環境であり、以前見かねた客がここで働こうかと名乗り出てくれたこともある。しかしこれがちょうどいいのだと二人して断ったのだ。
それから、客側がカウンターまでご飯を取りに行きジョシュアのいる場所で会計をするようになって、次第にレストランという店構えから大衆食堂のようになっていった。町の人はそれでも食べに来てくれるから、優しいな、と思う。
「ジョー、今日のおススメは?」
「白身魚!さっき新鮮なのをヘンリーさんたちが届けてくれてね、お刺身も良いけどフライもおススメだなあ」
ジョシュアはテーブルを拭きながら「兄さんの作る揚げ物は一等美味しいんだ!」と言う。それを見て客は呆れたような顔をしていた。
「帰ってきたのかあの人たち」
「今朝ね。夜には飲みにここへ来ると思うよ」
「…前から思っていたがお前ら、相変わらず呑気な性格してるな。最近この町に来たっても、普通驚くとかするだろ」
ヘンリーって言えばこの近隣の海を治めている海賊だぞ。
客がそう言うと、店の扉が突然乱暴に開いた。
初めて書きます。
どうぞお手柔らかに…