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短編のやつ。

おっさん、勇者パーティー、捨てられメドレー

作者: KKSY

 栄光騎士団団長の俺が、国防を蔑ろにしてまで勇者パーティーに入ったのは王命だったからだ。


 神託を授かった枢機卿がどこぞの田舎村から女神の加護を受けた少女を引っ張ってきた。


 彼女は勇者、と呼ばれる存在だった。


 古いお伽噺だ。魔大陸に全を統べる王が誕生した時、闇を祓う光が生まれる。

 所詮、古い言い伝えだと思っていた。事実、連れてこられた少女は剣を持った事もないド素人で、とても戦いに出せるものじゃなかった。


 そこで、団長の俺が指南役に抜擢された。


 当然、否を唱えたさ。騎士団の事はどうするんだ、と。

 そうしたら枢機卿の奴、国の事よりも女神の御言葉こそが最優先である! とか抜かしやがった。

 国王陛下も同意して、もう何も言えなくなった。


 仕方なく、副団長を団長代理にし、人格的に、そして人望の厚い者を副団長代理にした。

 俺が居なくても騎士団が問題なく回るように計らい、引き継ぎを全て終え、勇者と共に旅へ出た。


 物事を学ぶに旅はうってつけの環境だ。


 世界を巡り、見聞を広め、現地で指導する事が出来る。

 数々の問題は確かに少女の糧となり、日々の指南も身に付いた頃にはすっかり頼りになる勇者様だった。


 広い視野を持ち、様々な意見に耳を傾け自分なりの見解を述べる。


 嬉しかった。とても嬉しかったのだ。

 少女の成長が自分の事のようで、彼女が何かを成し遂げる度に年甲斐もなく歓喜した。


 だからこそ、悔しかったのだ。


 旅の道中、勇者に仲間が出来た。

 とある村の幼馴染み。

 とある国の聖女。

 とある学園の賢者。

 とある武芸大会のチャンピオン。

 とある大富豪。


 勇者パーティーが全員揃った頃には、もう俺が居る必要はなくなっていた。


 少女は十分に強くなった。俺ではもう手も足も出ない。久々に模擬戦をしたら右腕を折られてしまった。彼女は申し訳なさそうにし、そして泣いていた。

 泣くなと言うと、彼女は更にわんわんと泣いた。


 しばらく日を跨ぎ、魔大陸の王が活発に行動を始めた。


 魔大陸からは瘴気が漂い、女神の加護のない者では近付けなかった。

 そして、女神の加護で守れる人員には限りがあった。


 俺は魔大陸攻略メンバーから辞退した。

 歳ってのもある。けれど、俺は栄光騎士団の団長なのだ。


 俺は世界を護る。だからお前は魔王を倒せ、これは俺達みんなの戦いだ。

 そう言うと、彼女は涙ぐんで、「はい!」と張りのある声で力強く応えた。


 俺は騎士団に戻り、指揮を執った。

 世界中を勇者と共に旅したお陰か、各国の騎士団が俺を総指揮官として認めてくれた。


 俄然、やる気が出た。


 魔大陸から溢れる魔物との戦いは、半年に及んだ。

 騎士団がバラバラに動いていたら既に全滅していたであろう戦いが幾度も繰り返され、こちらはもう疲労困憊だった。

 武器も、食糧も、人員も、何もかもが不足していた。


 みんなが絶望に飲まれかけた時、魔大陸から光の柱が迸った。


 透かさず、俺はみんなを鼓舞した。


 あの娘がやってくれたのだと、根拠もなく思った。

 それだけ、迸った光の柱は温かく、安心できるものだった。


 俺達は折れた剣を持ち、無ければ拳大の石を握り、茫然自失とする魔物へと飛び掛かった。


 勿論、勝ったからといって犠牲が無かった訳ではない。背中を預けた副団長は戦死し、各国の騎士達も何百と死なせてしまった。

 けれど勝った。あの少女がやってくれたのだ。


 満面の笑みで、ふらつきながら戻ってきた少女を出迎えようと両手を広げ、彼女を突き飛ばした。

 勇者を虎視眈々と狙う魔族に気付いたからだ。


 そして、魔族の凶刃は、少女ではなく俺の胸へと吸い込まれた。


 目が覚める。どうやら気を失っていたらしい。


 どこかぼんやりとする頭で現状を理解しようと、視界を巡らせる。

 何故か、俺は騎士達に囲まれて、勇者に膝枕されているようだ。

 みんな、不思議と悲しげな様子だ。


 起き上がろうとして、体の感覚がない事に気付いた。

 極度に痺れさせた時のような感覚の無さだ。


 見れば、胸部からは刃物が突き立っている。それで思い出した。

 俺は、少女を庇ったのだ。


 そうか。俺は、助からないのか。……そうか。


 走馬灯ではないけれど、掠れた声で、彼女と出会った頃の事から語った。


 あの時は、とか。その時は、とか。そんなちょっとした、ひどくくだらないこと。

 もっと他に色々遭った筈だが、自然と思い浮かぶのはそんな何気無い場面ばかりで、きっと、思い出、というものなのだろう。


 彼女は涙に濡れた声で相槌をうち、涙を懸命に堪えていたが、結局流していた。

 相変わらずの泣き虫で、ちょっと安心した。


 もう、時間はない。

 最後に何を言おうかと悩み、やはりこれだろうと、微笑みを浮かべた。


「――――」


 そうして、俺は静かに息を引き取った。

 「」内はお好きにどうぞ。

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