第69話 大会は甘くない
■ネギしばき合い武闘大会のルール
<基本ルール>
・予選は一対一のトーナメント方式で行われ、決勝は各予選ブロックの勝利者10名によるバトルロイヤルで競い、最後に残った1名を優勝者とする。
・出場選手は大会実行委員の用意したネギ三本を任意に選び戦う。
ただし、出場選手自前の農家で栽培したネギであれば代わりに使用して戦うことが認められる。
<敗北条件>
以下のいずれかの条件を満たした場合、敗北となる。
・出場選手の頭につけた紙風船を割られる。
・出場選手が用いる三本のネギが破壊される。
「破壊」とは、使用ネギの長さ1/3以上が何らかの原因で破損している状態を指す。
・武舞台の外に体の一部が接する。(場外負け)
・降参宣言をする。なお、出場選手が人語をしゃべれない場合は土下座でも降参とする。
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『なるほど、決勝がバトルロイヤルだから勝利条件ではなく、敗北条件が基本ルールなんだな』
ノートとサンゴはネギしばき合い大会の選手村に隔離されていた。大会の出場選手は敗退するまで八百長を防ぐために選手村に隔離される。サンゴは出場選手ではないが、ノートの保護者として同行している。ノートとサンゴは、大会が終わるまではこの選手村の中で生活し、優勝の栄誉を賭けて世界中から集まった猛者と戦いを繰り広げるのである。
「ノートさん、トーナメント表が発表されたみたいですよ!」
『結構…というか、かなり出場選手は多いんだな』
掲示板に張り出されたトーナメント表は自分の名前を探すのすら困難なほどに多くの選手の名前が列記されていた。幸いにして、ノートはすぐに自分の名前を見つけることができた。
『…俺はAブロックか。しかしブロックが10個にも分かれているのに5回も勝ち進まないと決勝には出られないのか』
「名前の隣に書いてある数字はなんでしょう…。ノートさんは990.0って書いてあります!」
『あれは…掛け率だな。予選トーナメントの優勝者を予想する賭けもこの大会のウリらしい』
当然ながら、ノートの掛け率990.0は全出場選手で最低クラスの設定である。
『しかし、倍率をみるに近くの山に有力な選手は居なさそうだ。Aブロックで図抜けているのは…掛け率2.0のジンという選手か…。それでもブロック内の別の山だから決勝まで本命のジンに当たることはないな。大会についてはよくわからないが運には恵まれているかもしれないな』
*
「はっはっは、ノートさんはツイてないですね」
ノートと別行動をとって街に滞在しているマクスウェルは、ネギしばき合い大会のガイドブックを見ながらそう言った。その発言に、
「どういうこと?」
とレンが意図を問いただす。
「ノートさんと同じAブロックの剣豪ジンは昨年決勝ラウンドに出場し、今年の優勝候補の筆頭だそうです。昨年は圧倒的な剣技で予選トーナメントを圧勝、決勝のバトルロイヤルでは開始直後に集中攻撃を受け脱落してしまったと書いてあります。剣豪ジンが居るせいでAブロックの選手の掛け率は総じて高めに設定されてしまっているみたいですね」
「…さっきお小遣いをノートに賭けてきちゃったんだけど…」
レンの顔が曇る。
「ノートさんが予選ブロックを通過すれば990倍ですから、ノートさんの健闘を祈るしかありませんね。それはそれとして、僕は剣豪ジンに賭けましょう」
「あなたって結構薄情よね」
「リアリストなのですよ。ただ、剣豪ジンの影に隠れているとはいえAブロックも猛者揃いのようです。入国の時に見たファイティングゴリラや万能ネギのヨサク、謎の農家エックスなど実績ある選手が揃っているとガイドブックにはあります」
「いやいや、さすがに農家には勝てるでしょ…」
レンがそんなツッコミを入れると、
「ふぉっふぉっふぉっ、お嬢さん方はネギしばき合い大会は初めてかのう」
道でたたずんでいた老人がレンとマクスウェルに話しかけてきた。
「お爺さん、大会に詳しいの?」
「レンさん、この方はどうやら…」
マクスウェルがガイドブックのページをパラパラめくり、レンに見せた。
「昨年優勝者ゴッド爺!?」
「いかにも、わしがゴッド爺じゃ。今年は大会の解説をするからよろしくのうお嬢さん方。この大会は単純な剣技だけでは通用しないのじゃ」
ゴッド爺の柔和な口調に反して目の奥に輝く鋭い光はまさしく歴戦の戦士の持つ眼光であった。レンはその鋭い視線に気圧され一瞬言葉を失う。
「ゴッド爺さん、単純な剣技だけでは通用しない、と言うのは?」
その点、物おじしないマクスウェルはゴッド爺に質問を返した。
「うむ。このネギしばき合い大会においては心・葱・体のバランスが重要なのじゃ。ゆめゆめ忘れるなかれ」
「さっぱりわからないので、もう少しわかるようにお願いします」
「ふむ、素人にはちと難しかったかもしれんのう。世界各地のネギ農家はこの大会に賭けておる。ネギに魅せられた彼らは大会のために特殊なネギを栽培することに心を燃やしておるのじゃ。心、すなわち情熱じゃ」
「特殊なネギ…?」
マクスウェルが引っかかったのはそのフレーズであった。
「うむ。名のあるネギ農家はこの大会のために鉄よりも硬いネギや鉄よりも比重の重いネギはもちろん、刃よりも鋭いネギ、蛇のように蠢き正確に相手の喉笛を食い破るネギなどなど、腕によりをかけ育てた戦闘ネギを持ち出してくるのじゃ」
「それは素晴らしいですね」
感心するマクスウェルとは対比的にレンは
「いや…ネギ農家なら食べられるネギを作りなさいよ…」
あきれ顔を浮かべている。
「ふぉっふぉっふぉっ、お主らの知り合いも参加するようじゃが、この大会は舐めてかかって優勝できるほど甘くはないぞい。大怪我をしないように応援を頑張ることじゃな」
「ゴッド爺さん、教えていただきありがとうございます。違った視点で大会を楽しむことができそうです」
マクスウェルはうやうやしくお辞儀をし、お礼を言った。
「ノート…勝つ、よね…」
大会の厳しさの一端を知ったレンは不安そうな表情を浮かべる。ノートが勝たねば彼女の財布は空になってしまうのだ。
「ところで…レンさんは占い師なのですから、ノートさんに賭ける前に占ってみれば良かったのでは?」
「あっ」
激闘のネギしばき合い大会の幕が開ける。




