第42話 人間じゃない証明
マクスウェルは公女の長い髪を一本つまみ、勢いよく引っ張った。
「髪の毛が…抜けない…?」
メイド長の言葉通り、髪の毛は抜けず勢いよく髪を引っ張られた公女は椅子から引きずり落とされる格好になった。
「その通りです。ホムンクルスは代謝をしない。故に、髪は生えたまま、どんなに引っ張っても抜けません」
マクスウェルは椅子から落ちた公女の体を抱え、また椅子に座らせた。
『公女をそのままそっくりコピーしたホムンクルス…こんなものどうやって作るんだ?』
「そうですね。コピーしたい本人の肉体の一部、それこそ髪の毛一本でもあれば作ることができます。多分私にも作ることができるでしょう」
そう言うと、マクスウェルはじゅうたんに這いつくばる形になった。
『マクスウェル…何をしているんだ…?』
「いえ、私も公女様の姿をしたホムンクルスが一体欲しくなったので、髪の毛を探しているのですよ」
『お前最悪だな…。だが…この部屋にはほこり一つ落ちていない。丁寧に掃除されているようだし無駄だと思うぞ』
「ちくしょうだれがこんなことを…」
『そりゃ掃除をするのはメイドだろう…そこにメイド長がいるしな。…いや、待てよ…』
ノートは自分で言って、何か気が付いたように顎に手羽先をつけた。
『マクスウェル、ホムンクルスは髪の毛があればすぐに作れるのか?』
「いえ、髪の毛を解析して設計図を作り、その後肉体を培養しますからそれなりに時間はかかりますよ」
『なるほどな。そうなると、犯人が絞れてきたと思わないか?』
「どういうことです?」
『ホムンクルスを作るのに時間がかかるなら、ホムンクルスが作られたのは公女がすり替えられるより前の話になる。誘拐前に作っておかないとすり替えできないからな。失踪事件になる』
「そうですね。失踪したらもっと大騒ぎになっているでしょう」
『なら、犯人は公女のホムンクルスを作るために、すり替える前に「公女の肉体の一部」を入手しなければならない。すると、犯人は自ずと「公女の肉体の一部を入手できる人間」に絞り込まれる』
「なるほど…」
『公女の肉体の一部を入手できる人間なんて限られている』
「公女様の部屋を掃除するメイドということですね!すばらしい!」
『その可能性が高いな。もちろん他の可能性も潰しきれるものじゃないが…ハニム公国の優秀な警備をかいくぐって公女の肉体の一部を回収し、後日誘拐してすり替えるなんて部外者にとってはそう簡単なことじゃない』
「ふふふ…ノートさん、あなたはすばらしい。メイド長さん!よろしいですか!」
マクスウェルは薄笑いを浮かべながらメイド長を呼ぶ。
「はい…なんでしょう?」
「公女様の部屋を掃除するメイドを全員集めてください!」
「は、はい、承知しました…」
「服は脱いで裸で!」
「は…?」
『脱がせる必要はないだろ…』
「うーん…じゃあ下着姿でもいいですよ…」
『お前その手口は無茶な要求をのませるために、先にもっと無茶な要求をしてハードルを下げる交渉の手口みたいだな…』
*
一時間ほど後、公城の中庭にて。メイド長により、公女の部屋を掃除するメイドが集められ、マクスウェルとノートの前に並べられた。もちろん、下着姿で、というマクスウェルの要求は却下された。
「マクスウェル様。お嬢様の部屋を掃除する役目のメイドはこの四名です。お嬢様をお世話するのですから、一流のメイドを揃えております」
「四名…四人かぁ…。どう思います、ノートさん」
『うーん…とりあえずコメントは差し控えておこう…』
「メイド長さん、とりあえず一人一人自己紹介してもらっても良いですか?」
メイド長はマクスウェルの言葉にうなずき、左端のメイドに目配せで指示をした。
「えっと、公女様付けでメイドをしておりますリルです」
黒髪ロングヘアーのいかにもメイド、といった出で立ちの女の子が初めに挨拶をした。
「うnうn、オーソドックスなメイドですねぇ。いい、実にいい」
『うわぁ…なんかいやらしい口調になってるぞこいつ…』
「あの…何か…?」
「うn、じゃあスリーサイズを教えてもらおうか」
「あの…スリーサイズ、ですか…?」
『お前そのモノクルでわかるんじゃないのか』
「わかってませんね、ノートさん。恥ずかしがる女の子に言わせるのが良いんですよ。はい、じゃあ言ってみましょう」
「えっと…76・59・74です…」
「うnうn、正直ですねぇ。実にいいと思います」
『……』
「それでは次の方、自己紹介どうぞ」
「急に集められたと思ったらセクハラかよ…。あたしはメイ。これでいいか?」
次に、リルの隣の鮮やかな橙色の髪の毛を後ろでまとめた上背のあるメイドが自己紹介をする。
「うーん、口の利き方がなってない粗暴な口調…。いや、こういう子の躾をするのもありといえばあり…いやむしろ実に良いとは思いませんか、ノートさん」
『…知らん…』
「こう『ご主人様に向かってなんだその口の利き方は!教育してやる!』『ああ!申し訳ございませんご主人様!お許しください!』とかそんなやり取り、いいと思いますよ僕は」
『……』
ノートは軽い頭痛に襲われた。
「それではメイちゃん、スリーサイズをどうぞ」
「…82・65・83」
「ぷっ」
「なっ、何がおかしいんだこの野郎!」
「ノートさん、過少申告ですよ。大きい胸を恥ずかしいと思ってるところがまたかわいいと思いませんか?」
『めんどくさい…こいつめんどくさい…』
「良い物が見られました。さて次の方」
「はわわ、私ですかぁ~?」
薄い金髪の小柄なメイドが口に手をあて、慌てるようなしぐさをしている。
『……』
「……自己紹介をお願いできますか?」
「はわわ、私はジュンといいます」
「……」
『おいマクスウェル。俺はあいつが怪しいと思うぞ。現実世界に「はわわ」とか言うメイドは居ないだろう。典型的な創作世界のメイドでキャラ作ってますって感じだ。お前も内心そう思っているだろう』
「……スリーサイズを」
マクスウェルはノートの言葉は聞こえなかったことにした。
「はい、72・55・75です~」
「…どうも」
『さっきまでのテンションはどうした…』
「何というかわびさびがね…ないんですよ…恥じらいとか感情の起伏とか…わかりませんか?」
『どうでもいい…』
「それでは次の方お願いします」
「ウホッ」
「ウホッって言った」
『ウホッって言った』
「ノートさん」
『なんだ、マクスウェル』
「あれはゴリラですよね」
『俺はゴリラだと思う』
マクスウェルとノートの目の前にはヘッドドレスで飾られた黒々としたゴリラが控えていた。
「彼女はゴリラのメイドです。きれい好きでよく行き届いた掃除をしてくれるのでとても助かっています」
メイド長は困惑するマクスウェルとノートにそう説明した。
「結構です、どうも」
「スリーサイズはよろしいのですか?」
マクスウェルのアナライズモノクルによると、ざっくりと170・150・160だそうだった。




