1話
初投稿です。
Q:先生と生徒の恋についてどう思いますか?
A:両者が幸せならそれで構わないと思います。
Q:では、先生と恋をしてみたいと思いますか?
A:叶わない恋なんてしたくありません。
ご協力ありがとうございました。それでは____。
インターネットで小説を読んでいると、筆者からの問いかけだろうか、幾つかの質問コーナーを見つけた。その質問の上には、筆者の直筆サイン色紙が抽選で当たると、デカデカと広告されていた。もちろん、当たるとは思っていないが、ほんのわずかな希望を込めて質問に答えた。高校1年の春、まだ桜が舞っていた時期の話である。
私、一ノ瀬遙は年頃の娘としては落ち着きすぎていると言われることがある。故に教師や親戚からの評判はいいが、家族からは心配されることが多い。原因は両親が共働きで家をあけることが多いことにあるのだが…心配しているところに水を差すほど子供ではない。
そんな評価を受ける私でも、女子だし、春から高校生となったのだ。キュンキュンしたりドキドキしたいし、恋愛だってしたい。まぁ、少し前に答えたアンケートのようにリスキーな恋でなく、ごく普通の恋愛がしたいとは思うけれど。無論、小説や物語での身分差の恋は大好きである。確かその作者のシリーズを読み始めたのは、生徒と恋をする男性教師の心の葛藤を描いたものだったと思う。男性の心情や、学校の描写が妙にリアルであったことから察するに、作者は男性で、職業は教師だろう。作者の体験談なのだろうか、報われない思いにハラハラしながら読んだものだ。
「はるかー?起きないと遅刻するわよ!」
下のリビングから私を呼ぶ母の声がする。なんだ、帰っていたのか…と思いながら読んでいた本に栞を挟み、渋々ベッドから抜け出す。
「おはよう、母さん」
慣れない手つきで料理をする母に声をかけると、ビクッと肩をすくめながら振り向き、笑顔で「おはよう」と言われた。もともと母と父が2人で住んでいた時も料理や家事は父の担当だったと聞いていたが、まさかここまでとは…。バラバラの大きさで切られたきゅうりを見つめながらため息をつく。
「時間ないから変わるよ。手ぇ切ったらダメなんでしょ?」
「ありがとう遙。でも大丈夫よ、母さんに任せなさい」
たまには母親らしいことをしたいから、という母の要望を無下にするわけにもいかず、キッチンを出て、学校に向かう準備をする。ちらりと時計を確認すると、針は家を出る20分前を指していた。しまった…朝から本を読むのはやめよう、せっかく早くに起きたのに無駄になってしまう。
「いただきます」
母が作ってくれた朝食を、半ば飲むようにして掻き込む。ごめん母さん、本当に時間ないんだ。今度は一緒に作ろうね…などと心の中で詫び、通学用のカバンをひっつかんで玄関まで走る。
「ごちそうさま!美味しかったよ。いってきます!」
「いってらしゃい、気をつけるのよ〜」
後ろから母さんの声が聞こえる。幸い、駅から家は近く、電車に乗りおくれるようなことはなかった。通勤ラッシュであるこの時間帯、駆け込んで乗車した私は周りの大人から白い目で見られた。すいません、と小さく謝りながら息を整える。もちろん座れるはずもなく、ドア付近の手すりにつかまり、電車に揺られる。最寄り駅までは1時間近くかかるから、朝読んでいた本をカバンから取り出し邪魔にならないよう気をつけながら読む。
乗車してから15分ぐらい経ち、少し車内の人数が減った頃、背後に妙な気配を感じた。主にスカート。手ではないからまだ我慢できるが、気持ち悪いものは気持ち悪い。次の駅に着いた時に引きずり下ろすか…なんて考えていると、私が気づいていないとでも思ったのだろうか、あろうことか痴漢はスカートの中に手を侵入させた。この状況はなんとかしないといけない…でも、乗客が見て見ぬ振りをしている以上、助けを求めることはできないだろう。最悪なことに、次の駅までは10分かかる。これが小説なら、イケメンなお兄さんが颯爽と助けてくれるのに…はぁとため息をつき、男のものであろう手をきゅっとつねる。爪を立てることは忘れない。
「大丈夫か?」
痴漢の男が立っているところとは反対の方向から、耳触りの良い、少し低めの男性の声が聞こえた。見ていたのなら早く助けてもらいたかったのだが…あと大丈夫じゃない。声を出すのははばかられたので、首を2、3回横に振った。すると、男性はスカートの中の男の手を上にあげ、ニヤリと笑った。
「この人痴漢です」
と、よく通る声で言った。私はスカートをパンパンっと払い、痴漢の男の足をぐっと踏みつけた。ひっと小さく悲鳴が聞こえたが、無視をして助けてくださった男性に向き直る。
「ありがとうございました。助かりました。」
「…あぁ、気にしないで。それより君、東野高校の生徒さんだよね?」
いい人だと思ったが、今の発言で私の男性に対する警戒度が上がった。確かにうちの学校はそれなりに有名だが…いきなりすぎる、怪しい。
「ごめんごめん。俺、そこの教師になるんだけど…駅からの場所聞いてくるの忘れたんだ。」
あぁ、そういえば昨日のホームルームで先生が言っていたような気がする。…大丈夫なのか、この先生。とんだうっかりさんだけど…。
「わかりました。ご案内します」
「助かるよ」
これが後に私が恋に落ちる先生との出会いである。