4
ポチリと拍手等、ありがとうございます。
かなり気紛れ更新になるかと思いますが、ぼちぼち進めていこうと思います。
あっという間に月日は流れ、私は3歳になった。
は〜……ホント、早いわ。
この3年、あまりにも普通に過ぎちゃって、誰かに何か聞かれても、特筆する様な事って何にもなかったんだよね~としか言えない。
私の記憶によると、異世界転生しちゃった人達の話って、赤ん坊とか幼少期ってサラッと過ぎていくのがテンプレなんだよね。本当に何にもないの? って思っていたんだけど……本当に何にもなかった。
偶然この森に来た冒険者が黒髪黒目の私を見て殺そうとしてきたり、生け捕りにして奴隷として売ろうとしたり、母さんの子供達――義兄や義姉達が私を妙に甘やかしたりした程度。あはは~。ホント、何にもなかったわ。
……テンプレ、恐るべし。
まあ、それはおいといて。
物心つく前から森に住み、魔法を自重せずに使いまくり生活していた為、野生児とはいかないけれどそれなりにアウトドア出来ちゃいますよな子供へと順調に成長してしまった。
魔法で飛び回っていた場所も今では歩く――というより走って移動し、狩りもお手の物。イメージで弓を自作し鳥とか豚もどきとか牛もどきとか獲って調理まで出来ちゃう自分に感心する。
獲物の解体……もう、最初の頃はチート万歳。今は慣れた……というより、ならざるを得なかったという方が正しい。若干遠い目になる……。
うん。カイ、知識をありがとう。そして、ここでもチート万歳! ALLチートを願った私、よくやったと思う!
料理といえば、この森って、食材や調味料の宝庫でもあった。
肉は勿論、野菜や川魚、謎な卵、岩塩、コショウ、オリーブオイル、砂糖とかとか。パンのタネの実なんてのもあって、タネの外殻を剥くと発酵したパンのタネが出てきた時は、ファンタジーだなぁとシミジミ実感した。
あ! 記憶にある醤油や味噌や米も欲しかったから探してみたんだけど、そこはしっかりテンプレが大活躍。それらしいものは森の中になかった。ううう……私の中の知識がそれを恋しがっている。
まあ、今のところはまだそこまで欲望が強くはないけれど、もう少し大きくなって自由に動き回れるようになったら……探しに出ようかと計画はしている。
カイから貰った知識の中に似た様な物があるからね。食べてみたい。成長するには食大事。美味しい物は人生を豊かにする。
そんな私の現在のステータスがコレ。
名前:??? 年齢:3歳 性別:女 レベル/偽装レベル:∞/10
種族:人間 職業:???
称号:主神の愛し子(他人閲覧不可)、転生者(他人閲覧不可)、森羅万象の天才(他人閲覧不可)、食の探究者
HP/最大HP:∞/∞ 偽装HP/偽装最大HP:85/85 MP/最大MP:∞/∞ 偽装MP/偽装最大MP:100/100
スキル:ALL(他人閲覧不可) 特記事項:神の寵愛(他人閲覧不可)、偽装値が鑑定で表示(他人閲覧不可)
体力/偽装値:∞/50 魔力/偽装値:∞/70 知力/偽装値:∞/70 筋力/偽装値:∞/50 耐久力/偽装値:∞/50
敏捷/偽装値:∞/100 精神力/偽装値:∞/120
偽装だけど、3歳でレベルが10になっているのは、まあ、住んでいる場所が場所なだけに戦闘を結構行っているから。時々、カイに頼まれて、知能のない害獣系の魔物殲滅とか、冒険者を返討ち、とかね。
他のステータスも軒並み標準値になっているのはレベルと同じ理由。その中でも魔法関連が他よりやや高い値になっているのは……私の完全なる趣味。魔法をガンガン使っているから、偽装だけどアップした。
カイ曰く、3歳児でこの(偽装)ステータスは高過ぎるけれど、魔の森で生活しているから有りかな、だって。カイ的に有りなら問題ない。うん、いいよね?
それから、称号『食の探究者』が増えている。意味は読んで字の如く。食べ物に関して色々調べたり、実験したり、分析したり、極めようとしていたら増えた。
この称号が増えた時に聞いたカイの妙に乾いた笑いが忘れられない。……3歳で称号が増えるのは変らしい。しかも、探究とか言っている時点で高位――普通よりかなり取得しにくい――称号。カイ……うん、気にするな!(笑)
ALLチート持ちだから、称号も取得しやすいと思っておこうよ。
とまあ。生まれた直後は結構大変な目に遭っちゃったけど、今は異世界ライフを楽しんでいる。
あのまま、捨てられる事なくあの家で生活していたらと思うとゾッとする。うん。私は魔の森生活が合っていたんだよ、きっと。能力もガンガンアップ出来るしね!
そうこういっているうちに出掛ける準備は整った。じゃあ、今日の食糧調達に行ってみよう!
『少し良いですか』
「――カイ? どうかした?」
普通の3歳児なら滑舌が悪いだろうけれど、その辺は流石魔法のある世界。魔法の補助(&チート)のお蔭で普通に話せるようになっている。
最も、カイに言わせると、これって私だけらしいけど。まあ、3歳児が流暢に魔法を使い、言葉を話していたら普通は怖いよね……。ここには私しか居ないから、全く問題ないけどね!
それは兎も角として、こんな朝からカイが話し掛けてくるのは珍しい。意識をカイに向けると、笑う様な気配がした。
『そろそろ、レイナリアに会いに行ってみない?』
「えっ!?」
レイナリア――3年前、母さんを私の所に派遣(?)して、保護(??)してくれた女神様。
そして! 私に温泉の事を教えてくれた恩人!!
「会いに行って良いの!?」
『君は既に魔の森を走り回って――というより飛び回っているから、行くまでにバテるなんて事もないだろうから問題ないよ。レイナリアの方も、今の時期なら時間があるから大丈夫だって言ってたし』
よ、漸く、許可が出た!
カイに『今、魔法で行っている行動を自力で出来るようになれば問題ないと思います』と言われてから苦節3年(言い過ぎ)! 身体強化系の魔法すら使わず走り回っていた日々が功を奏した。
ただ気になる事が1つ。
「……レイナリアの神殿に行くまでに、バテるの? 地図を見る限り、そこまで離れている様には見えないんだけど……」
素朴な疑問にカイが笑う。
『神々の神殿は、近くて遠い場所にあるんだよ。関係ない者に気軽に来られても困るからね』
それは、分からなくはないけど……?
『行けば分かるよ、僕の言った意味が』
カイが再び笑う。もう。一体何なの。
不満気に空中を睨むが、カイの笑い声は止まない。
『君の事だから、今直ぐに行くんだろう? いってらっしゃい。気を付けて――というより、頑張ってね』
「えっ!?」
そこでカイの声が途切れる。
ちょっ? また意味深に会話を止めないでよ! 転生時のあの意味深な『では、また』を思い出しちゃったじゃない!!
あれも意味深だったけど、今回も気になる! 頑張ってって何? 頑張らなくちゃ、レイナリアの所に行けないの!?
まあ、今回の『気になる』に限っては行ってみれば分かるけど……。
カイと会話する様になって3年。
少しずつ、もしかしてカイって結構イイ性格してるんじゃないかと思い始めている。こう――すっごく意味深な事を言う事が多いんだよ、カイって。『今は言えない』とか『いずれ分かる』とかとか! 気になるっての!!
「まあカイも、主神なんて立場上、色々制約なんかがあるんだろうけど……それでも気になるものは気になるよ」
ブツブツ言いながらも、今日の目的地を変更する。食料調達に行くつもりだったけど、レイナリアの神殿に行ってみよう!
あ、手ぶらじゃない方が良いかな? でも、何を持っていけば? この魔の森の中の物は全部、レイナリア管轄の物だから、お土産にするには不向きだよね。
うーん……そうだ! 創造魔法で何か創っちゃえば良いんだ!
直ぐには何が良いか分からないから、行く道すがら、何にしようか考えよう。うんそうしよう。
ウキウキしながら出発したけど……。
カイの言った意味を理解したのは、私がいまだ行った事のない未開の地に足を踏み入れて直ぐだった。
「あ、出発した」
彼女との会話を終わらせ、その行動を見守っていたカイシスの顔に優し気な微笑みが浮かぶ。
流石に、出鼻をくじく様な事を言う訳にはいかず、曖昧に『頑張って』で会話を終わらせてしまったが……それが功を奏したのか、彼女のやる気に火を付けたようだ。随分と力強く、上機嫌に出発している。
「負けず嫌いな所も可愛いなぁ……」
カイシスの笑みが蕩けていく。つまり、傍から見ると。
「貴方は変態ですか、カイシス様。主神が変態なんて嫌ですよ」
たまたまカイシスの部屋に遣って来たレイナリアが、その顔を見た途端に毒を吐く。
カイシスのそのとろとろに蕩けまくった笑顔。流石に最近は見慣れてきたが、やはり昔の事があるから気色が悪いと感じてしまう部分もある。
そんな思いを言葉に乗せると、どうしても毒になってしまう。
自室の中ではあるが主神の部屋である以上、何時、誰が遣って来るか分からない。笑うのは良いが、ある程度は自重してくれとレイナリアは思ってしまう。
ただ1人に対してだけ、でれでれな主神……頭が痛くなってくる。
「レ、レイナリア。入るならノックくらいしてくれ」
「しました。何度も何度もノックしましたが返事がなかった為、何かあったのかと思い、入ってきただけです」
まさか彼女の姿を眺めてにやけているとは思いませんでしたと、溜め息交じりに言われてしまえば、実際に彼女の姿を見て心が弾んでいたカイシスに反論する事は出来ない。
「……最近、君達の僕に対する態度って、随分とおざなりになったよね」
「まさかそんな。主神であるカイシス様を、わたくし達はいつでも尊敬してますよ」
淡々とした表情と声で返され、カイシスはどこがだと言いたくなるが、言ったが最後、どの様な反撃をくらうか分からない為、迂闊な事は言えない。
取り敢えず現状を打破しようと、カイシスはレイナリアを見た。
「まあ、良いや。それで、レイナリア。僕に何か用かい?」
カイシスの誤魔化す様な問い掛けに、ここへ来た本来の目的を思い出したレイナリアはこほんと一つ咳払いする。
「カイシス様にお聞きしたい事と、確認したい事があります」
「うん」
よく知る『主神の顔』になったカイシスへレイナリアはきちんと礼を取り、口を開いた。
「まず、彼女はいつ頃、わたくしの神殿に来れそうですか?」
「うん? 今向かっているよ」
「……は?」
ポカンとするレイナリアに、カイシスは自分の世界を見る事が出来る鏡を示す。
そこには、レイナリアの神殿がある方へ一直線に走っている彼女の姿が映っていた。
「……向かっている、最中ですか……」
「そう。まあ、神殿に続く地域には入った事がないから、辿り着くのに時間は掛かるだろうけど……今日中には着くと思うよ?」
「……」
どれ程溺愛していても、自分の力で成し遂げなければいけない物事の時は決して手を貸さない。
彼女を見詰める瞳は優しいのに、必要な部分ではきちんと主神らしい態度を取るカイシスに、レイナリアは自然と頭が下がった。
「では、お願いがございます」
「何?」
カイシスの瞳が彼女からレイナリアに移る。
レイナリアはその漆黒の瞳を真っ直ぐに見詰め、はっきりと口にした。
「わたくしから彼女へ、守りを与える許可を下さい」
「……え?」
カイシスの瞳が大きく見開かれる。
レイナリアが前回、自分の眷属を一人の為に遣わしただけでも異例なのに、守りを与える?
「……本気で、彼女に関わる気か」
「はい」
揺らぎなく断言するレイナリアに、カイシスは溜め息と吐いた。
「彼女に干渉する事は許さんぞ」
「分かっております。カイシス様の加護がある以上、わたくしが何かをする事は出来ません。ですが、彼女には少しでも多くの『守り』が必要ではありませんか?」
「……それは……」
「どうかわたくしに、彼女を守る一翼を担わせて下さい」
あの世界では既に忘れ去られた主神の加護の証を持つ彼女。
今後、その身にどんな困難か降りかかるのか、レイナリアにすら分からない。
だが、分からないからと言って、見なかった振りなど出来ない。
彼女をカイシスの元へと導く。そう決めたからこそ、自分の守りを彼女に与え、運命を切り開く一助にしたいと思った。
「……どう、守るつもりだ」
カイシスの厳しい眼差しを真っ直ぐに受け止め、レイナリアは考えていた事を告げる。
その提案を聞き、カイシスはゆっくり瞑目すると。
「……好きにしろ」
「ありがとうございます」
頭を下げるレイナリアを見ながら、『彼女が喜ぶだろうなぁ』等と、カイシスはちょっとズレた事を考えるのだった。
主人公に名前が付く日はくるのだろうか……?