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ALL!  作者: 美緒
3/5

 ピンチ系のテンプレかと思った真っ白いオオカミは、私が捨てられたコルトーの魔の森に神殿を構える運命の女神レイナリアの眷属でした、まる。


 いや、もう。ほんっとーにビックリしたよ。

 やばっ、どうしよう!? と考えていた所に、掛けられた声。


『貴女が、主神様の愛し子ですか?』


 ぐるるぅという音と共に聞こえてきたのは少し年を取った感じの女性の声。

 は? と思ったね。これ、誰の声? って。

 空中に浮いたままキョロキョロと自分を動かしていたら、目の前のオオカミから溜め息が。

 へ? オオカミって溜め息吐くの!?


(わらわ)は運命の女神レイナリア様の眷属。レイナリア様の命に従い、主神様の愛し子を探しに来ました。貴女が、愛し子ですか?』


 ぐるるぅという鳴き声……ってか、オオカミがしゃべったよ……。

 異世界だなぁと、妙な事で感心したけれど……あれ? オオカミの言葉が解るのって、もしかして言語チートのお蔭?

 確かカイが、言語系のチートがあれば、他種族の固有言語も解るとか、魔物とも会話可能とか、失われた言語すら読み解けるとか言ってたよね。これがそうかー。

 と、異世界感満載な現状に理解が及んだ所で困ったぞ。赤ん坊って……まだ話せないよね? 聞かれている事に答えられないよね?

 あ、でも、チートで何とか出来ない?


 ……出来るみたい。


 という訳で、早速、言語系チートに含まれる以心伝心――つまり、以前の世界で言うテレパシーを使ってみる。


(称号に、主神の愛し子って書かれてはいるけれど……私の事なの?)


 いや、うん。そのレイナリアやオオカミの言う『主神様の愛し子』が、称号のそれと同じなら私の事な可能性はある。

 でも、本当にそれで合っているか分からないから問い掛けてみたんだけれど……。


 今度はオオカミがキョトンとして周囲を見回している。

 ……私が声を飛ばしたとは思っていないようだ。

 え? あれ? 話し掛けてきたのはオオカミが先だよね? もしかして、返事があるとは思ってなかったの?

 若干呆れつつ、もう一度心の中に話し掛ける。


(どこ見てるの? 私は目の前に居るでしょう。空に浮かんでいる)


 オオカミが驚いた様に私を凝視してくる。穴開きそー。


『貴女……妾の言葉が分かるのですか? 言葉を飛ばせるのですか?』


 ああ、うん。私のチートを知らなければ、そんな疑問が浮かぶのは当然かー。

 首のすわっていない生後数時間な私は迂闊に頷けないから、自分の体を上下に浮き沈みさせ。


(カイに、不思議な力を貰ったから分かる)


 チートとかスキルって言っても理解出来ないだろうから言葉を置き換えてみる。

 オオカミはなるほどと頷き、私に少しだけ近付く。


『主神様を愛称で呼ぶとは……貴女が主神様の愛し子で間違いないようですね。レイナリア様の命に従い、貴女を保護します。貴女が自分の力で生きていけるようになるまで、共に暮らしましょう』


 ――保護者ゲットです。


 そんな訳で運命の女神の眷属である真っ白いオオカミに保護された私だけど……。

 うん。これって保護って言うの?

 いやだってね。母さん(一応、保護者だからこう呼ぶ。まあ、母と言うより祖母っぽい年齢な気がするけど)は、私に寝床を与えただけなんだよ。

 まあ、寒くて凍えられては困るからと、寝る時なんかはそのワンコみたいにちょっと硬いけどもふっとした毛皮を布団代わりにさせてくれはするけれど……ホント、それだけ。

 肉食なオオカミに食事の世話をされても困るから良いけどさぁ……私がどこに出掛けようと放置ってあり?

 本来なら守られるべき赤ん坊なんだけど?

 こんな所が人間とオオカミの差なのかな~?


 そんな訳で。

 マジで魔法を自重していたら生きていけないから、以前の知識を利用してこの世界にないみたいだけど便利な魔法を次々と編み出してみた。


 生きていく上で必要なのは衣食住。

 このうち住については、一応、母さんが提供してくれているから良いとして。

 寝る所? それは追々何とかする。

 次に食。これはカイに貰った知識を検索すると、森に豊富にあるのが分かったから成長に合わせてどうとでもなる……と思う。

 問題は衣! 服だよ服!!

 捨てられた時のままでいるなんて無理! あれって、申し訳程度のボロ布なんだもん。役に立たないって。

 そんな訳で登場するのが創造魔法。そう。無いなら作っちゃえという単純な話。

 この世界にある布地について知識を探ると、異世界だけど前の世界と似た様な布がある。絹とか木綿とかいった自然由来の物が。

 ふむ……見た目は(・・・・)その生地を使った動きやすい服にして、魔改造しておこう。

 え、何するのかって? いや、汚れ防止とか伸縮自在とか破損自動修復とか? 便利そうな魔法を付与しようかな、と。本当に、ALLチートって便利だよね!


 とまあ、何かあれば魔法でちょちょいと何とかしつつ生活すること数カ月。

 私は今、とてつもない問題に直面していた。


(お風呂入りたい……)


 そう! お風呂が無いの!!

 え? 汚い!? 違っ! ちゃんと水浴びとか、魔法で綺麗にしてるよ!?

 って、そんな事よりもお風呂!

 前の世界の知識の中に、毎日の様にお風呂に入るのが当たり前、みたいなものがある。

 国によって違うとかの知識も存在しているけれど、()はそれが常識みたいな感じだ。お風呂にゆっくり浸かるのは至福だ~と、私の中の何かが言っている。

 そんな至福を味わいたいのに、お風呂が作れないの!!

 いや、その言い方は語弊がある。そう。実は既に実験済み。

 最初は、湯船を作って、そこにお湯を張ろうとしていたんだけど……。


 湯船を作った瞬間、崩れ去った。


 何で!? と思って、もう一度挑戦したけど結果は同じ。

 知識を検索したけどその理由は分からず。

 仕方ないから、地面に直接穴を掘ってお湯を入れようと思って、魔法でポンと穴を掘り。


 また崩れ――というか、掘った途端に埋め戻された……。


 何なんだよー! と思って母さんに泣きついたら意外なお言葉が。

 このコルトーの魔の森は女神の力により『異物』は即刻排除される仕様らしい。

 つまり、私が作った湯船やお風呂用の穴は『異物』に認定され消えたのだろう、と。


 ――え!? 私の作った服とか布団とかは排除されてないんだけど!?


 母さん曰く。私が生きていくのに必要だろうからと女神が『異物認定』から除外したのではないかという事で。


 ……お風呂……お風呂も私が生きていく為には必要なんだよ~~~~~っ!!


 お風呂、プリーズっ!!!


『――温泉ならありますよ?』


 突然、知っている『声』が頭の中に振ってきた。

 これって……カイ?


『はい。貴女の持つ【神託】の力を使い、【僕の加護】を道しるべにして直接話し掛けています』


 ……ALLチート、何でもありだね。


『まあ、ALL(全て)ですから……』


 カイが苦笑しているようだ。まあ、ズルって言えばズルいから仕方ないか。


『……』


 それよりも、温泉あるの? ここに?


『あ、はい、ありますよ。レイナリアの森には少し温めの源泉が湧いています。その近くに天然温泉が――』


 場所はどこっ!?


 カイの言葉に被せる様にして思わず心の中で叫ぶ。

 天然温泉だよ、天然温泉! これは行くしかないでしょう!!


『……獣が全く近付かない場所だから大丈夫、かな……えっと、貴女の知識の中にその場所までの地図を追加します』


 カイがそう言うと、頭の中にこの森の地図が浮かび上がる。

 大部分は真っ黒な空白地帯だけど、母さんの寝床を中心に、私が移動した事のある範囲が細かく埋まっている。あ、食べ物がどこにあるかまで詳細に書かれている。これ便利。

 私の行動範囲の外。少しだけ奥地に、前の世界で言う温泉マークが表示された。


『そのマークがある場所が天然温泉です。少し奥地ですが、今の貴女なら問題なく往復できますよ』


 あ、ありがとうカイ!!


『どういたしまして。でも、お礼ならレイナリアに』


 え?


『基本的に、其々の神の神殿がある魔の森の内部まで、いくら主神とはいっても僕は干渉していません。貴女がお風呂に入りたがっているのを知ってレイナリアにどうにか出来ないか聞いたら、彼女が温泉の場所とその地図を僕にくれました。僕は、彼女が教えてくれた物を貴女に伝えただけです』


 ああ……『守られている』と、この時実感した。

 カイもそうだけど……母さんを寄越してくれた運命の女神レイナリアにも。


 ねえ、カイ。レイナリアにもお礼言いたいけど、どうすれば良い?


『それでしたら、その森の奥地にあるレイナリアの神殿に向かって下さい。場所は地図に載せておきます。神殿は、神が唯一降臨出来る場所。神殿の中に入れば、レイナリアと直接会えます』


 ……会ってもらえる?


『ええ。問題ありません。レイナリアも喜ぶと思いますよ』


 ……うん! じゃあ、会いに行く!


『あ、でも、今すぐは無理ですよ?』


 えー何で?


『今の貴女はまだ自力で動く事のかなわない赤ん坊です。まあ、ハイハイは出来るようになったみたいですが……。いくらチートを持っていても、体に掛かる負荷はどうしようもありません。貴女の疲れやすさ(・・・・・)は赤ん坊と同じ。つまり、そのくらいの体力しかないという事と同義です。魔の森の奥地に向かうにはまだ早いです』


 ……成長すれば大丈夫?


『そうですね……今、魔法で行っている行動を自力で出来るようになれば問題ないと思います』


 あー……移動と食糧調達……。


『ええ。それが魔法を使わず出来るようになれば、相当の体力が付いたと言えますから』


 まあ、確かにそうだね~。

 うん。早く自分で出来るように頑張る! そしてレイナリアにお礼を言いに行く!

 カイ! レイナリアに少し待たせるけど、必ず会いに行くって伝えておいて!


『分かりました』


 あ、それから……


『はい?』


 うん、それ。


『それ?』


 そう。その丁寧な話し方。


『え?』


 何か、一線引かれている様で寂しいから普通に話して?


『!?』


 ALLチート頂戴って言った時、話し方が崩れたでしょう? あっちが素だよね?


『まあ……そう、ですが……』


 素の方が、私も話しやすいし、話し掛けやすいから、そうして?


『……話し掛け……』


 え? もしかして、こちらからは話し掛けられないの!?


『い、いえいえいえいえ、大丈夫です。話し掛けられます』


 じゃあ、大丈夫だね。素の方で宜しく!


『……分かり、じゃ、なくて、分かった。……これで良いか、な?』


 オッケー! じゃあ、これからはそれで!


『はい』


 嬉しいなぁ……会話できる人が居るって。


『え?』


 だって母さんって、こっちが話題振らないと話してくれないんだもん。


『えっと……僕から話し掛けて、良いと?』


 当然でしょ! 私が起きている時ならどんどん話し掛けてよ!


『いや、一応タイミングは見るけど……』


 カイらしい(笑)

 あのね、私が言葉を覚える手助けだと思って、気軽に話し掛けてよ。


『そうだね……では、貴女が話せるようになったら、僕と練習がてらたくさん話そう』


 うん。じゃあカイ。これからも宜しくね?


『勿論』


 えへへ。では、温泉行ってくるねー!


『いってらっしゃい。大丈夫だとは思うけれど、気を付けて』


 はーい。


 素のカイとの会話と天然温泉に浮かれながら、私は今まで行った事のない地域に向かった。


 結論。

 は~……やっぱり温泉は気持ち良い~! さいっこー! これから毎日来る! 絶対来る! 











「寂しい……話し掛けやすい……嬉しい……」


 彼女との会話を終わらせ、最後の言葉を反芻しながらカイシスの顔に笑みが浮かぶ。

 まさかそんな事を言ってもらえるとは思ってもみなかった。思ってもみなかったからこそ、ついつい顔が綻んでしまう。


 ふと顔を上げると、彼女が凄い速さで一方向に飛んでいくのが見えた。

 温泉へと急いでいるのだろうが……こんな速さで飛ぶくらいお風呂に入りたかったんだなぁと微笑ましく感じる。

 喜んでもらえて良かったと思いながら、鏡の映像を切る。赤ん坊とはいえ、お風呂を覗くのはマナー違反だろう。


「ああ、そうだ……」


 彼女との会話を全て思い返しながらカイシスは呟く。

 そうだそうだ。お礼を言う為、レイナリアに会いに行くと言っていたんだった。

 カイシスは神専用の通信機(みたいなもの)に手を振れ、レイナリアに繋ぐ。

 レイナリアは自分の部屋に居たらしく、直ぐに出た。


『カイシス様? どうかなさいましたか?』

「ああ」


 カイシスは先程の彼女との会話をレイナリアに伝える。

 レイナリアは驚いた様に目を見開いた後、破顔した。


『良い方ですね』

「ああ」


 彼女が褒められ、カイシスが嬉しそうに頷く。


『流石は、主神様が見初めた方です』

「――っ!!」


 にこやかに発せられた言葉に、意表を突かれた形となったカイシスは取り繕う事が出来ず真っ赤となり、挙動不審となる。

 そんな珍しい――しかし、彼女の事を知ってからは普通になってきた主神の姿をレイナリアは微笑まし気に見詰め、決意を込めた声で断言する。


『――彼女は必ず、カイシス様の神殿へ行きます』

「レイナリア?」

『わたくしにお礼を言う為だけに会いに来ると言う方です。カイシス様とも顔を合わせて話したい事がたくさんあると思います』

「……」

『だからカイシス様。彼女に言いたい大切な事は、その時まで取っておいてくださいね?』

「レイナリア……」

『カイシス様に会ったら、彼女は絶対に笑顔で話し掛けてくれます』

「……ああ、そうだね。――ありがとう、レイナリア」

『……カイシス様が幸せになる事を、わたくし達はいつも願っていますわ』


 その言葉を最後に通信が切れる。

 真っ暗となった通信機を見詰めながらカイシスは呟く。


「彼女に、言いたい事……」


 それは数え切れないほどある。

 でも、その中でも大切なのは、謝罪と――――


 己の口を片手でふさぎ、カイシスはその場に座り込む。

 こんな、波乱としか言えない始まりを与えてしまった自分だけれど……伝えても、良いのだろうか?


「――君が、好き、で……」


 頭を抱える。


「うわーーーー。目の前に居ないのに言えない! 言えないよ!? 本番なんてもっと無理じゃない!!?」


 自分の神殿に来る頃には、彼女は素晴らしい女性になっている事間違いなしだろう。

 今ですら愛し過ぎて言葉に出来ないというのに、成長した『彼女』を前にしたら……。


「無理無理無理! え、何? もしかして僕は、彼女が来るまでに覚悟決めなきゃダメ!? 勇気出す練習でもする!?」


 パニックを起こしてしまい支離滅裂な事を言うカイシスに突っ込む者は誰も居ない。

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