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ALL!  作者: 美緒
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「大変、申し訳ありませんでしたっ!!」


 黒髪の後頭部と背中のみが見える。正しく土下座している人を眺めながら、私は混乱していた。

 確か、「明日は一週間振りの休みだひゃっほう! 何しようかなぁ♪」とかバカみたいなテンションで考えながら眠りについた筈。それなのに、気が付いたら真っ白な世界にポツンと立ち、突然現れた男の人(多分)に土下座され。


 一体何があった?


 ……とは思うけど、何となくテンプレ臭を感じてうんざりしてしまう。

 これってあれじゃね?

 所謂、神様の手違いで私が死んじゃって、それに気付いた神様が大慌てで謝罪しに来たってやつ。

 真っ白な世界が死後の世界というか神様の領域ってのがテンプレなら、謝罪もテンプレだよね?

 ただ、神様なわりに黒髪ってのが解せぬ。これもテンプレ通りいくなら、金髪とか銀髪とかじゃない?

 そんな事を考えていたら、土下座していた男性が顔を上げた。あ、黒髪黒目のイケメン(正しく美形)が何故かポカンとしてる。


「よく分かりましたね」


 何が、と聞き返さなくても分かった。この人、私の思考を読んだね。これもテンプレだなぁ。流石は神と言うべき?


「えっと……正しくは、僕はこの世界の神ではなく、遊びに来ていた異世界の神です」


 遊びにって(笑)

 それで遊びに来ていただけの神様が何したの。何故私が死ぬ羽目になったの。


「そ、それは……」


 言い難そうに口ごもる神様。その視線はあっちにふらふら、こっちにふらふらしている。

 ファーストコンタクトが土下座な所為か、段々残念に見えてきた。

 これってもしかして、何もない所でこけてしまったドジッ子属性の所為で、手に持っていた物が運悪く下界に落ちて、それがたまたま家の中に居た筈の私に直撃しちゃったとかいうやつかな?


「うええええっ!?」


 …………。

 うん。本物の残念系神だったようだ。


「残念系って……酷いです」


 本気で凹んでいるようだけど、その残念仕様の所為で私ここに居るんだよね? 死んじゃったんだよね?


「うぐっ」


 言葉に詰まり項垂れる神様。何だろう、こう……『いじって』オーラが出ている気がする。


「出してない! そんなオーラ出してないよ!?」


 必死になって首を振って否定するけど、それがまた更に『いじって欲しい』感じに見えてしまう。


「……イジメっ子ですか、貴女……」


 イジメてはいないよ。いじってはいるけど。


「はあ……」


 いまだに正座したままだった神様は両手を地面(?)に着き項垂れる。哀愁漂ってる? いや、気の所為でしょう。

 さてと。いい加減、いじるのも面倒になってきたので、


「酷い……」


 うるさい。一応、少しは付き合ってあげたんだから、それで良しとしといてよ。


「……」


 それで? 私はこれからどうなるの?


「あ、それは。流石に僕の不注意でしたので、此方の世界の神に説教されまして」


 説教って(笑)

 同じ神様でも、上下関係があるようだ。


「当然です。歴史の古い、もしくはきちんと発展した世界に導く事の出来た神は、それだけで立場が上になっていくんです。この世界は、所々に問題はあるものの、世界としては発展している方なので神の立場が僕より上になっている訳でして」


 うん。それで? 上役に説教(笑)されてどうする事にしたの?


「はい。僕の力では上の世界に転生させる事は難しく、此方の世界の神も僕の尻拭いの為、貴女を蘇生または此方の世界に再転生させるのを拒否しまして……」


 うわ。神って言っても俗物だね。

 利益がなければ自分の世界の人間が死んだのに力貸さないって何よそれ。最低じゃん。


「……」


 否定しないって事は、貴方もそう思ってるって事だね(笑)


「ハッ! イエイエ、滅相モナイデス」


 片言(笑)

 まあ、それは兎も角として。拒否されたって事は、私この世界に転生出来ないんでしょ? どうするの?


「はい。それで、貴方さえ良ければ、僕の守護する世界に転生しませんか?」


 ええー。ドジっ子神様の世界に?


「うう……」


 落ち込んだよ。これで神様って大丈夫かね?

 とか思ったけど、よく考えてみるとこれって、どう考えてもテンプレだよね! 異世界転生だよ異世界転生。この神様の世界とやらが剣と魔法のファンタジー世界で、チート貰ったら完璧だね!


「良く分かりましたね。僕の守護する世界は、此方の世界の人々が言う『剣と魔法のファンタジー世界』です。此方の世界とは違いまだ未熟なので命の危険が伴います。そこで、特殊技能……えっと、チート? をお渡ししての転生になります。ただ……神直々に渡す以上、かなり強力なので『1つだけ』になってしまいますが」


 えー。ケチだねー。


「そう言わないで下さい。特殊技能は、それだけで世界をひっくり返してしまう力を持つ事もあるんです。それは必ずしも良い方に行くとは限らないんですから」


 まあ、世界を守護する神様としては、危険かもしれない力を野放しには出来ないか。


「はい。ただ貴女は……此方の世界の住んでいた国の傾向から、基本的には平和主義っぽいので、力を与えても悪い事には使わないだろうと判断しました。なので、1つではありますが、望みの力をお渡しします」


 何でも良いの?


「はい」


 真剣に私を見詰める神様。そのピンと張り詰めた空気感の中に、先程の残念さは微塵もない。

 いつもそんな感じでいれば、『カッコイイ神様』って皆に思われるんじゃないの?


 ……。あ、ダメだ。褒めた途端、顔に締まりがなくなった。残念!


「……」


 再度落ち込んでしまった。うん。もう放っておこう。


 さてと。剣と魔法のファンタジー世界に転生……これまた王道なテンプレだね。

 現代人の私がそんな世界で普通に生活出来るか分からないけど、これを拒否ったら魂の死を迎えそう。何かそれって気に入らないし、王道テンプレを楽しんでも罰は当たらないだろうから転生する方向で良いとして。

 問題は、貰える事になったチート。1つだけという事だし、どうすれば良いだろう?

 そもそも、どんな力があれば異世界でも普通……とはいかなくても、ちゃんと生きられるだろう?

 戦う力? いやいやいや。血とかのスプラッタ系はノーサンキューだから。

 魔法? うーん……それが普通にある世界なら、必ず持ってるだろうから態々(わざわざ)お願いする必要ないよね。

 じゃあ、R指定とか……ヤバいモノになりそうだからパス。

 ああ、どうしよう?


「あ、忘れてました」


 考え込んでいたら、いつの間にか復活したみたい。神様が私を覗き込んでた。


「生きていくためには知識が必要ですから、転生する時に僕の世界で生きていく上で必要な知識は全部あげます。後は、アフターケアとして僕の加護。それから、此方の世界の知識も残します。知識チートっぽいですが、ただ『知っている』だけなので、役に立つかは微妙です。だから問題ないです。貴女の意識も必要でしたら残します。ただ、貴女自身の事(・・・・・・)は申し訳ないですが全て消させて頂きます」


 私自身の事って……つまり、此方の世界で生きてきた時間や思い出、繋がりとか?


「はい。()(さら)な状態で転生を迎える事になります」


 まあ……それは良いよ。流石に、家族とか友達とかとの思い出を持ったまま転生するのはツライ。


「はい……申し訳ないです……」


 うん。それはもう良いから。取り返す事の出来ないモノに関して謝り続けられるのも余り気分良くない。


「……」


 取り敢えず今は、何事も前向きに考える方が有意義でしょ。

 という訳で、チート!

 ねえ、貴方……って、そう言えば名前を尋ねるの忘れてた! 何て呼べばいいの?


「あ、僕はカイシスと言います。どうぞ『カイ』とでも呼んで下さい」


 神様を愛称で呼んじゃって良いの?


「はい。貴方には僕の加護を与えますから、気さくに呼んで貰えた方が僕としては嬉しいです」


 なるほど。じゃあ、カイと呼ばせて貰う。


「はい!」


 で、カイの世界って、ステータスとか存在するの?


「はい。自分のステータスでしたら、『ステータス』と心の中で唱えるだけで確認出来ます。ただし、他人のステータスを確認する事は基本的に出来ません」


 基本的にって事は、出来る人もいるって事?


「はい。『看破』という技能を持っている人だけが確認出来ます。それでも、特殊技能や加護は確認出来ませんが」


 じゃあ、私がチートやカイの加護を貰ってもバレないって事?


「そうです。あ、自分のステータスでしたら、特殊技能や加護の確認もきちんと出来ますからね」


 なるほど。それも踏まえて何にするか考えてみよう。


「そうして下さい」


 カイはそう言うと、真っ白な世界に真っ白なテーブルとソファを何処からともなく取り出して置き、これまた何処からともなくティーセットを出してお茶の準備をし出す。


「立って考えるのも疲れるでしょうから、座ってのんびり考えて下さい」


 パッと自分を見ると身体があるようには見えない――何となく、意識だけが浮いている感じだ――から、肉体的に疲れるって事はない。こればっかりはもう、感覚の問題なのかもしれない。

 私はカイの好意に甘えソファに移動し座る。うん、身体の感覚はないのに座る感覚がある不思議。

 お茶に口――これも感覚がある――を付ける。ちゃんと味がする。美味しい。凄い。

 感心していると、カイがニコニコしながら私の正面に座った。本格的に休憩しつつ会話する態勢と言う感じか。

 どうせだから、不思議体験をめいいっぱい遣ろうという訳で、私はカイと会話してみる事にする。


「魔法って、どんな感じ?」


 おおー。口を開いた感覚に合わせて声が出ている。これが私の声かー。


「どんな感じと言っても……説明が難しいです。簡単な呪文を転生の際に知識としてお渡ししますので、実際に使ってみて下さい」

「あれ? 呪文が必須なの?」

「はい。ただ、魔法系のチート能力があれば、無詠唱も可能になります」


 なるほど。魔法系のチートを貰うと厨二的な事は避けられる、と。


「武術系のチートって何があるの?」

「そうですね……どんな武器でも使える様になるとか、絶対防御とか、ひとつの武器に対しての天賦の才とかですね」


 攻撃特化か防御特化かって感じかな。


「あ、言葉とかはどうなるの?」

「僕の世界は基本共通語がありますので問題ないです。貴方の意識がある状態での転生の場合、周囲の言葉が解る様にしておきますね。後は……言語系のチートがあれば、他種族の固有言語も解るとか、魔物とも会話可能とか、失われた言語すら読み解けるとか出来ますね」

「他種族とか魔物とか居るんだ」

「はい。貴方が知っている『剣と魔法のファンタジー世界』とほぼ同じだと思って大丈夫です」


 ものの見事なテンプレって事ね。


 ふむ……。私の知る『剣と魔法のファンタジー世界』とほぼ同じなら、どんなチートにするか考えるのは楽かな?

 あると便利そうな力を考えてみよう。


「焦らなくて良いですよ。この世界は時間の概念がありませんから」


 ほんっとーにテンプレだなぁ。

 それならじっくり考えてって、あー……。


「……私の考え、読めないというか読まないようにする事は可能?」

「ん? 知られたくないですか?」

「うん。チートについて考える間は、出来れば知られたくないかな、と」

「分かりました。ちょっと待ってくださいね」


 そう言うと、カイは突然指輪を取り出し、私の指(?)にはめた。


「……何、これ」

「思考を遮断する物です。これで、僕が貴女の考えを読む事が出来なくなりました」

「そう……」


 何となくの感覚で、左手の薬指な気がするんだけど……。

 チラッとカイを見ると、ニコニコしながら私を見ていた。他意……ないよね? 死者に指輪をはめてほにゃららって無しだよね?

 余計な事に悩んでも仕方ない。無いって思っておこう。


 さて、チート。どうしよう?

 物語なんかだと、どんな能力でも主人公が無双しちゃっている。それを見る限り、どんな力も使い方次第何だろうとは思うけど……。物語の主人公達は、最初からチートを与えられている状態だ。自分で選べるとなると色々話は別だろう。選択次第で、後悔する可能性もある。

 こういう時、チュートリアルみたいにちょっとだけ体験できたりすると便利なんだけど……流石に無理だろう。

 ううう。本当にどうしようかな……。


 って、さっきからこう、思考が堂々巡りになってるな~。

 何か上手い解決策、どっかにないかな?

 あれ? そう言えば……こういう時に使えるトンチだか何だかなかったっけ? どんな話だったか良くは覚えていないけど……これ、使える気がする……。

 もう面倒だから押し切っちゃえ!


「カイ」


 私が呼び掛けると、のんびりお茶を飲んでいたカイが顔を上げ微笑んできた。


「あ、決まりました?」

「うん」

「では、どんな力ですか?」


 のほーんと尋ねてくるカイに、私は頬の感覚を総動員してにっこり微笑み。


「――『ALL(オール)』ってチートを1つ、宜しく!」

「……は?」

「だから、『ALL』」

「……って、いやいやいや、それ、1つじゃないよね!?」

「え? いや、間違いなく『ALL』という名のチート、1つだよ」

「……全部(ALL)……」


 呆然と呟き、次いでカイは頭を抱えた。


「え? これってあり!? 確かに、『ALL』と言ってしまえば1つだけど、でもこれ全部って事だよね!?」


 丁寧語が崩れてる。これが素かな?

 私が黙って眺めていると、カイはガバッと顔を上げ、


「本気!?」

「当然」

「でも僕、1つって言ったよね!?」

「だから、間違いなく1つでしょ」

「……」


 パクパクと口が開閉している。どうも、何を言って良いか分からないようだ。


「ああ、そうか……『一は全、全は一』の考え方か……」


 何故か遠い目をしてカイが呟く。


「え?」

「此方の世界に遊びに来て知ったんだけど……『全』と『一』は同じである――つまり、最も大きいものと最も小さなものは同じという考え方があるんだよ」

「ん? じゃあ、『ALL』チートは1つでオッケーって事?」

「……知ってて言った訳じゃない、と」


 はーっと溜め息を零し、カイは苦笑すると頷いた。


「最初に『全部』はダメだと言わなかった僕の落ち度です。今回は仕方ないでしょう」


 あ、丁寧語に戻った。思考を立て直す事が出来たようだ。

 ただこういう言い方をしたって事は、もし次があったら釘を刺される事になるんだろうね。……次の人、ご愁傷さまです。

 私がそんな事を考えていると、カイがスッと立ち上がり、私の手(?)から指輪を抜く。


「これで決まりましたね。転生の準備に入って大丈夫ですか?」

「うん」


 何故かこっちの世界に全く未練が湧かないので、サクッと転生させちゃって下さいな。

 私の思考にカイは苦笑しながらも、私の額に手をかざし。


「あ、生まれる場所を選べませんが構いませんか?」


 また言い忘れてたの?


「はい……すみません」


 いや、良いよ。もう、忘れるのがカイだと思う事にする。


「その認識、嬉しくないです……」


 認識を改めるなんて、転生しちゃったらもう無理でしょ。


「いいえ。そんな事ないですよ。転生先は僕の守護する世界です。そして、貴女は僕の加護を持って転生するから、心の中で呼び掛けてくれさえすれば、僕は貴女と会話する事が可能です。何かありましたら、遠慮なく呼び掛けて下さい」

「え、いいの?」

「はい。もうこうなったら、とことんまで面倒見ますよ」


 笑いながら言われたその言葉と共に、私の視界が揺らめき出す。

 何か、『面倒見る』と言われたからか、少しだけあった不安がスッと消えていった。


「良かったです」


 もうカイの顔は見えなくなっているのに、優しく微笑んでくれたのが分かった。

 うん、ありがとう。


「――では、また」


 え?

 そのセリフ、この瞬間に言うべき事じゃないよね?


 私のその疑問はカイに届かなかったのか答えはなかった――。











 自分の世界に魂を送り届けた後、カイシスは1つ息を吐き苦笑する。


「あー……言えないよなぁ……」


 頭を掻きつつ、少し遠い目をする。


「彼女が死んでしまった理由、本当は僕のドジの所為じゃないと知ったら……彼女は何て言っただろう」


 彼女は『転んで、手に持っていた物が下界に落ちて、偶然直撃した』と判断したようだが、実際は違う。


「ううううう……」


 真っ赤になって頭を抱え(うずくま)るカイシス。


「バレたらマズイ。バレちゃいけない」


 そう、彼女にだけは知られてはいけない。まさか――。


「神が人間に一目惚れって、まずいだろ……」


 偶然見掛け、見惚れているうちに、手の力が緩み物を落としてしまったなど――恥ずかしくて言えない。

 しかも、あの、妙にはっきり物を言う――考える?――性格すらツボだったなど言えない。


「……あの世界なら、僕が降りられる場所が存在するからまた会う事は出来るけど……彼女は、来てくれるかな……」


 真っ白な世界に頼りなげな呟きが響き、送ったばかりの面影を想い、カイシスの顔は更に紅くなるのだった。

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