日常×双子(後編)
前後編にしました。今回は甘くなる‥‥はず。
--ガチャ、とドアノブを回す。その扉はさっき理人が入っていった奥の部屋に繋がる扉。
私がこの部屋の扉を開ける理由‥‥それは、さゆ君の頼みたいことが"九条先輩をお願いします”だからだ。
「理人‥‥?」
遠慮がちに扉を開け、中をそっとのぞいた。この部屋には大きいソファーが1つとテーブルしか置かれていない。
部屋を使ったことはないが、よく"彼”がここを使っているのを見かける。
「りーひと」
「‥‥‥‥‥‥」
彼は1つしかないソファーに仰向けになり、顔には腕を乗せ‥‥その表情はよく見えない。そんな彼に近寄り名前を呼ぶが反応はなかった。
彼のこの様子には心当たりがある。
「私のことで何か言われたの?」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」
「あ、言われたんだ」
「‥‥‥‥言われたけど、言われてねぇ」
「え、なにそれ」
言われたけど、言われてねぇ‥‥ってどっちよ。
変な理人、と小さく呟く。その声に反応したのか彼はゆっくりと起き上がった。
「‥‥‥‥ん」
「んん?」
それは隣に座れということでしょうか。彼は隣の空いている場所を手で軽く叩いている。
まぁ、座るくらいなら‥‥と私は彼の隣に大人しく座った。
‥‥のが間違いだった。
「り、理人‥‥擽ったいから動かないで」
「‥‥うるせー。わざとだ」
そう言ってまた頭を動かすのもわざとだよね。理人さん?どうして私の膝に頭を乗せて寝てるんだ。
あれだよ、世間一般ではこれをひ、ひざま、
「お前の膝枕いいな」
「‥‥‥‥はい、理人さんアウトー。セクハラで訴えてやる」
膝枕をさらりと言うあたり理人は恋愛スキルが高いというかなんというか。
そもそも膝枕なんてしてあげたことないし‥‥あれ、今さらだけどこの状況かなり恥ずかしいよね。
「‥‥何で顔そむけるんだよ」
「いや‥‥特に理由はないけど‥‥」
顔赤くなってるから、なんて言えるわけもなく理人の視線から逃れようと顔をそむけた。
彼の不満そうな声が溜息に変わる。
「--‥‥杏花、」
「っ、」
彼の両手が伸び、私の両頬に添えられる。そのまま彼と向き合うように顔を合わせた。
"杏花”とまた名前を呼ばれ、心拍数が上がっていく。
「顔‥‥赤いな」
「そ、それは‥‥っ」
「それは?」
未だ理人の甘い声には慣れない。
その優しげな表情も、髪の毛を撫でる手つきにも‥‥。
「--‥‥杏花の顔を赤くさせている理由が、俺なら嬉しい」
「っ‥‥‥ぃ‥‥」
「ん?」
本当に嬉しそうな顔してさ。
‥‥‥‥そんな顔で、ほんとずるよ理人。
「理人ずるい‥‥」
「何がだよ?」
「それに最近の理人変だよ」
「はぁ‥‥?何が変なんだよ」
さっきまでの甘い雰囲気はどこに行ったのやら。私の言葉に理人が眉をひそめる。
「っ‥‥だ、だって‥‥なんだか理人優しいし、」
「は、」
「あと、声が甘い?というか‥‥うまく言えないけど、」
ドキドキする、と言えば彼は目を開かせる。「それって、」と言いかけた彼に扉の開く音が重なった。
---バンッ、
「九条先輩お仕事の時間でーす‥‥って、あぁぁッ!」
「紗夕なに叫んでんだよ‥‥あ、」
扉を開けて顔を出したのは双子で、彼らの視線の先はもちろん--‥‥
「九条先輩!杏花先輩の太ももを堪能するなんてズルイ、ぶっ‥‥」
「お前は生々しい言い方するなっての‥‥‥‥九条先輩、お仕事の時間忘れてませんよね?」
叫ぶようなさゆ君にりゆちゃんの張り手が顔面に‥‥それと天使の顔で笑みを浮かべているはずのりゆちゃん。「まさか生徒会長ともあろう方が仕事放棄なんてしませんよね」と副音声で聞こえてきそうな笑みだ。
「‥‥お前ら、あとで覚えておけよ」
「え?何のことでしょうか?」
理人とりゆちゃんの間では火花みたいなものが散り‥‥これも最近増えたことの1つ。
「杏花先輩!俺にも膝枕してくださいね?」
「「させるか」」
「っ、痛いんですけど!?」
ぎゃあぎゃあと騒がしい生徒会室。
そこに生徒会メンバーの1人である温厚な彼からお叱りを受けるのはまた別の話。