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私と召喚物

お久しぶりです。

これを描き終えたのは一月ほど前で、そこから今日まで色々あって連載の方が描けませんでした。

申し訳ありません。

連載の続きができるまでの中継ぎぐらいの感じで読んでください。


カーテンを締め切り、電気を消した真っ暗な空間に火の灯った五本の蝋燭が円形に連なっている。

俗に言う召喚の陣だ。

火の灯った蝋燭を頂点とした五芒星の真ん中に部屋と同様な暗さを持つ少女が立ち、何か呪文に似た台詞を口早に発する。

「〜以上の事と引き換えに私の願いを叶えて下さい」

呪文も大詰め。

最後の言葉を少女が口にする。

「私と家族になって!」

願いを言うや否や両手を天に掲げる。

それとほぼ同時、部屋一体に激しい旋風が起こり蝋燭の火が全て消えた。

ーーーー ーーーー ーーーー ーーーー ーーー

【サー…ガザンガザン】

暗闇から砂や瓦礫がれきの落ちる時に似た音が聞こえる。

私の召喚は成功したのだろうか?

不安で胸が一杯になる。

召喚に対する不安もあるがそれ以上に。

もう、一人は嫌だ。

私は重度のカルトマニアで学校では薄気味悪るがられ省かれ虐められる。

家に帰っても相談相手はいない。

家族がいないというわけではない。

父も母も勿論兄も皆元気だ。

けれど、私達の間にあるのは家族愛などと言う甘ったるいものではなく、互いで互いを嫌悪し合う、家族とは程遠い可笑しな関係だった。

兄はスポーツ一筋でスポーツの出来ない人間を見下し。

父は仕事以外眼中になくここ10年余り顔を合わせていない。

母は勉強の出来ない生物には興味の無い性格で早々に兄の教育を諦めていた。

その余波が私に来た。

母曰く、最も勉強の出来る生物にんげんは宇宙飛行士になるのだとか。

連日連夜、日々行われる母の勉強会のお陰で私は宇宙に興味を持ち、当然の如く宇宙人にも興味を持ち始めた。

そこからどんどん派生していき、やがて私の興味は[人知を超えた何か]になっていった。

その事に感づいた母は私にも見切りをつけた。

父に関しては仕事しか頭に無い真面目な人だという事で見合いをして式を挙げたそうだが、勤めていた会社とは名ばかりの三流企業で母は早い段階から熱が冷めていたそうだ。

【オオ…ゴガァ…】

突如、暗闇の中から聞こえた音とも取れぬその声は間違いなく私の求めていた存在からのものだった。

「あてて…」

先程の旋風で本棚まで飛ばされていた私は埃を払いながら立ち上がる。

「ケホケホ、んっんん!」

軽く咳払いし、カーテンの隙間から射す夕日を浴びている人らしき形をした土塊つちくれに私は挨拶をした。

「初めまして、私と家族になってくれる?」

ーーーー ーーーー ーーーー ーーーー ーーー

「もう!何回言えばわかるの⁉︎」

【ドレダケイワレテモワカラナイ】

「んも〜!」

この、人型の土塊…所謂ゴーレムを召喚してから早30分。

「だから、私の家族になってって言ってるの!」

【ダカラソレハデキナイ】

こんなやりとりをずっと繰り返していた。

(あーもう、イライラする!)

別に、本物の家族になれと言っているわけでは無いのだ。

ただ、形だけの、形式上の家族になれればいいのにこの土塊にはそれが分からないようだ。

【ソレヨリゴシュジン】

「何⁉︎」

それにしても私の召喚した土塊の声は頭に響く!

酷く重低音で二重にダブったかのようなこの声を聞くたび、脳天を鈍器で叩かれた時にも似た衝撃が走る。

【オコラナイデゴシュジン】

とも思えば急に塩らしくなる。

けど、確かに私の頭には血が昇っている。

「…はぁ」

2度深呼吸をし落ち着きを取り戻した私は土塊の言葉を聞いてやる事にした。

【ワタシニイミヲアタエテクダサイ】

「!」

この言葉を聞いた途端、下がり始めていた私の血圧が一気に上昇した。

「ふざけないで!もういい!あんたみたいな土塊にくれてやる意味なんて無いわ!」

【マッテゴシュジン】

「うるさい!」

言い放った私は土塊の言葉も聞かず勢いのまま部屋を出て行き、ダンダンダンダンと乱暴に家の階段を降りてそのまま暗くなり出した外へと飛びこんでいった。

ーーーー ーーーー ーーーー ーーーー ーーー

「はぁ…」

家を飛び出てから3度めの大きなため息。

私はなにをしているんだろうか。

結局召喚に成功したのだろうか。

いや、召喚そのものには成功した。

これは間違いない。

ただ、重要なのは内容だ。

私が欲しかったのはどんな命令でも従順に従う何かだ。

私があの土塊を召喚するのに用いた手引書に書いてあったのは確か…

ーー長さの均等な蝋燭5本ないし6本で魔法陣を作る。(この時必ず用いた蝋燭全てに火を灯しておくこと)

ーー呪文の詠唱。これは召喚したいものによって変わるので詳しくはp36をよく読むように。

ただし、【ランダム要素】を含んでも良いなら以下の詠唱をするべし。

「………」

なるほど、謎が解けた。

「しっかり手引書読めばよかったぁぁ!」

つまり、私はランダム召喚に成功したわけだ!

どうりでソシャゲなら真っ先にノーマルになりそうなゴーレムが召喚されるわけだ!

満月に向かって狼が如く叫ぶ。

「確立絞りやがったなちくしょぉぉ!」

一通りの不満を吐き出した私は歩みを止め、荒くなった息を整える事にした。

「すー、はぁ」

ようやく脳にも酸素が行き渡り正常な思考が行える様になる。

「なんだか、あの土塊には悪いことしちゃったな」

冷静に考えてみれば私のした事はクズ中のクズだ。

突然呼び出し、自分の求めたものではなかったから怒鳴り散らし、酷い言葉を浴びせた。

どう見ても悪いのは私だ。

(謝れば許してくれるかな)

「とりあえず、帰りに何か買っていくか」

そう思いはっ、と気付く

「土塊って何食べるんだろう、お花とかに挿してある栄養剤とかかな?」

そんな物がコンビニなんかに売っているのだろうか、と考えているその時だった。

【ゴシュジン】

頭に響く重なり合ったかの様な重低音の声。

さっき私が召喚した土塊だ。

土塊は器用に音を立てず私に走り寄ってきた。

「何?土塊がまだ何か用でもあるの?」

少し前に反省したのにコレだ。

こんなので本当に謝れるのだろうか?

気をつけて話さなければ。

【ワタシガゴシュジンカラモラッタキオクノイチブガミエタ】

記憶の一部?

「ああ、あんたを召喚する時に使った私の記憶ね」

〈人知を超えたものを召喚・使役するには相応の代償を払わなければいけない。〉

この事実は様々な二次創作物が広がる上で有名になった。

無論、私の行った召喚にも代償があり、そのうちの1つが〈記憶の分け与え〉だった。

文字通り、自分の持つ記憶の一部を召喚時の媒体に用いることをいう。

こうする事で、召喚物と召喚者の意識疎通をスムーズかつ単純に行うことが出来るそうだ。

で、この土塊が言う様に媒体に使った記憶が召喚物にも見える事があるらしい。

「そう。でも別に言わなくて良いわよ」

【ケドゴシュジン】

「そんな記憶は見たっ!…くない」

危ない、ついつい口調を強くしてしまった。できるだけ土塊に対して優しくしなければ。

【ワカッタゴシュジンガソコマデイウノナラ】

「⁉︎そ、そう。物分りが良いのね」

あっさりと話が済んで驚いた。

てっきりこの土塊は『デモイワセテ』とかゴネるのかと思った。

【ソレデゴシュジンドコニムカッテルノ】

「え?ああ、そうあんたって何食べるの?」

当初の目的を思い出した。

変なものをあげて気を使わせるより、こうやって聞いたほうが良いわよね。

【ワタシハトクニナニモタベナイ】

「あら、そうなの?」

物で釣る作戦失敗か。

【デモシイテイエバ】

申し訳無さそうに話しだす土塊。

間の取り方が上手いのかつい聞き入ってしまう。

【ゴシュジンノココロカラノエガオカナ】

気のせいか口早に聞こえた重低音による二重奏。

私の心からの笑顔が一番いい?

この土塊は体型に似合わず面白いことを言う。

「そう。なら、暫くお腹がいっぱいになる事はないわよ?」

土塊は歩くのをやめる。

【ソレハナゼ】

私は土塊の少し前を歩き言ってやった。

「今はまだ笑えそうにないからよ!あんたのおかげでね?」

私は土塊に顔を向けず月を見たまま言った。

【ソウカ】

悲しげに言うと土塊は歩き出し。

【デモナゼダカ】

「ん?」

【スコシダケミタサレタキブンニナッタ】

「きっと、満月のせいね」

【ソレハアリエ…】

「あり得るのよ」

【ソウカ】

「やっぱり物分りが良いのね」

月明かりの下、くだらない話をする私と土塊。

なんだかこういうの初めてな…

【マタミタサレタキブンニナッタ】

「うるさい」

そのまま私達は帰路に着くことにした。

ーーーー ーーーー ーーーー ーーーー ーーー

【ヘヤヲカタズケルカゴシュジン】

私の部屋に着くや否やいきなりの発言に面食らった。

この土塊は本当に土塊なのだろうか。

私の知るゴーレムは知能と呼べるものはなく、ただ気ままに破壊を愉しむ物質で、こんなにも気の利く生ぶ…つ?とは思いもしなかった。

【ゴシュジン】

「へ?ああ、そうねそれじゃあお願いしてもいいかな?」

【ショウチシタアサマデニハオワス】

土塊はまるで執事の様にうやうやしく頭を下げると早速掃除に取り掛かった。

どこからともなく箒を取り出し部屋の隅の召喚の時の風で舞い上がった埃を器用に掃き、本棚が倒れそこから溢れた本があれば拾い上げ私の机の上に置く。勿論、その間も片手で埃などを掃く手は休めていない。

「うぅむ…」

目の前では巨躯な土塊が器用に掃除をしている。

見れば見るほど湧き上がるこの違和感は何だろうか。

表現するならば猟奇的殺人犯が犬や猫などといった小動物を可愛がるところを見ている様な。

または、歴戦の勇士が木の棒を持った村の悪ガキらに袋叩きにされている光景を見ているかの様な。

【…ュジン】

いかんとも形容しがたいこの気持ちは何というのだろうか。

【ゴシュジン】

「え、あ、な、なに?」

【ゴシュジンハナゼワタシニアンナコトヲ】

土塊は掃除したまま私に尋ねてきた。

あんな事、と言うのは家族になってと願った事だろう。

そんなのは決まっている。

「私にはみんなの言う普通と言うものが分からないの。だから、誰もが持っていて当然の普通、家族が欲しかった。それだけよ」

そう私は、私には縁遠い普通が欲しかった。

家庭では家族との談笑が絶えず、時折言い合いなどをする温かく優しい普通が。

学校では決して多くはなくてもいい、数人、何なら1人でもいい届かない彼の人への想いを打ち明けられるそんな友人のいる普通が。

それを手に入れる足がかりとしてこの土塊を召喚した。

【ホントウニソレダケ】

試すかの様に問うその言葉を聞き私はどきりとした。

【ゴシュジンガホントウニホシイノハソンナカワッテシマウモノジャナイ】

「なにを言って…っ!」

この土塊はなにを考えているんだ。

私が言っているのだから欲しいものに間違いは無いはずだ。

それをこの土塊は…!

【ワタシガオモウニゴシュジンノノゾムモノハメニミエルモノデハナイハズダソレハモットアイマイデワカラナクテフカシギナモノダ】

土塊は今までに無いほど長く饒舌に言葉を繋いだ。

何故だか分からないけど土塊の言う事には説得力があった。

けれど。

「あんたみたいな土塊に意見なんかされたく無いわね。そもそも私の願いがなんで他人に間違ってるって言われなきゃならないの?」

そうだ、さっきも思った様にこれは私の願いなのだから。

多少言葉が強くなってしまったけれど今はそんな事はどうでもいい。

気が収まるどころか1秒経つごとにイライラが増してくる。

きっと眠いせいもあるのだろう。

「ふん!」

踏ん切りをつけるべくイライラを簡単に吐き出した私は未だ掃除をしつづけている土塊をよそにベッドの上へ横になった。

薄い布団で身体を覆うと急に眠気が押し寄ってきた。

「ふ…あぁ」

自然と吐き出た欠伸を聞くといよいよ本格的にね、む…く……

【オヤスミゴシュジン】

眠気に攫われる中聞こえてきたのは低い重低音な土塊の声だった。

何故だかその声は頭を打つ事は無かった。

ーーーー ーーーー ーーーー ーーーー ーーー

朝起きると眼前に広がるのは綺麗に整頓された本棚に埃一つ塵一つ無い床、それに以前よりも片付いた机だった。

けれどそこに土塊は居なかった。

最初私はどこかに出かけているものだと思った。

でもそれは机の上にあった紙切れのお陰でありえない事と知った。

『昨日の出来事は全て一夜の夢。ご主人の人生の中にある一つの誤差にしか過ぎません。でも、それで気付いてくれれば。

ご主人の記憶を分け与えられた土塊より。』

「なにこれ」

思考がついてこなかった。

何故あの土塊はこんなにも私の事を気にかけているのか、何故こんなにも私の部屋を綺麗にしてくれたのか。それに。

「文字が書けるだけじゃなくて、カタコト以外も使えるのね」

その事に気付いた途端、昨晩の出来事が遠いものに感じられた。

キュウゥ。

胸が苦しい。

突然の苦しみに一瞬過呼吸に陥ってしまった。

どうしてこんなに胸が苦しくなるのだろう。

どうしてこんなにも哀しいのだろう。

ただ土塊がいないだけなのに。

「…あ」

答えは突如頭の中に流れ込んできた。

私には足らなかったんだ。

物心ついた頃から崩れていた家庭でその原因を作った人間に育てられた為かは分からない。

もしかしたら、学校でクラスメイトにイジメを受けたからかも分からない。

多分私には感情が足らなかったんだ。

いや、正確には知らなかったのかもしれない。

何かを失う事を。

「ああ…そうか、そうだったんだ」

土塊の言っていた曖昧で不可思議なものって言うのは感情の事だったんだ。

確かに感情ほど、どこにあってどうあるのか解らないものはない。

最初から無いものと思っていた私には土塊の言う答えが分かるわけもなく、記憶を分け与えられたあいつには解ったこと。

となればやはり感情のうちの何かしかない。

「そっか、あんたは私の心の隙間を埋める感情になってくれたのね」

自然と口がついた言葉は、今私の最も合点のいく答えだった。

「ありがとう」

私の心は今までになく満たされている。

そしてきっとどこかにいるであろう土塊のお腹もしっかりと満ちている事だろう。

「ありがとう」

私は小さな声でもう一度だけ感情を紡いだ。



END


人外と人との間に生まれるものについて描きたいなーとは前々から思っていました。

このタイプのは初めてなので出来はひどいと思いますが、楽しんで読んで頂けてたら幸いです。

ありがとうございました。

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