線香花火
花火が暗闇を照らす。
綺麗。
光は、君の笑顔と重なった。
消えないで。
終わりが来ることなんて、知っているけど。
「季節外れの花火もいいもんだな」
君はそう言った。
春の夜、桜は未だ咲かず。
夏が終わる頃、私たちはもう一緒にいないのだろう。
私たちを繋ぐものが失くなるのだから。
一つ違いの恋はきっと叶わない。
たった年が一つ離れているだけなのに。
沢山人がいるこの場所で、私にとっては君だけが輝いて。
伝えたいことは山ほどあるのに。
持っていた花火が消えて、不安になって、新しい花火に手を伸ばした。
どうか、君の笑顔をもっと照らして。
結ばれなかった二人の糸を燃やして。
跡が残らないように。
勢いよく。
最期の線香花火では燃やすことは出来ないだろうから。
線香花火に手を伸ばし、私は言う。
「線香花火は嫌い」
「そうか、綺麗だけどな」
「綺麗ですけど、ね」
綺麗すぎるから。
線香花火は何も燃やしてはくれない。
ただ、終わりを告げるだけ。
落ちる灯が、思い出を連れ去って。
もっと側にいたかったのに。
落ちて消えることは分かっていたのに。
なぜ灯をつけたのだろう。
でも、終わるとしても、
できるだけ長く、
一緒に居られる理由が欲しいと、
「先輩、大会頑張りましょうね」
思った。
「何だ急に」
小さな希望、最期が分かってる希望でも大切だった。
「まあ、頑張ろうな」
そして君も、線香花火に灯をつける。
その灯に何が込められているのか、私には一生分からないのだろう。