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死神冒険者の終末旅行紀  作者: サフラン斎藤
一章-死が全てを分かつまで
9/11

フラン7

 「影はまだ私を掴まない。そう、私は」

 ばたばたと犠牲が重なる一方で、フランの前に漆黒の影は姿を現さなかった。フランはリーバイスのことはイレギュラーだったのだろうか、と首を捻って考える。

 悩む彼女の痩せ細った小さな手の内には弓矢があり、強く握り過ぎたそれはひしゃげ、指は真っ白に色を失っていた。


 「我、溢れる慈愛と共に魔力を結び、ここに界を設ける」

 呪を唱えたエドウィン神父の大魔法結界が院を背に集めた戦力に向かい発動する。

 大魔法は別名概念魔法と呼ばれ、個人の素養に大きく沿った常識外れの効果を及ぼすものと知られている。

 有名な例は炎剣などか。あまりに多くの魔法師が再現するようになってからは、大魔法の資格を剥奪されたが、通常魔法扱いの現在も魔法剣の魔力構成に一つとして同じものはない。

 大魔法結界。聖書に記される楽園を生み出した神の御技をモチーフに編み出された大魔法。

 エドウィン神父の解釈では広範囲の身体強化と浄化及び治癒、体力魔力の回復を継続する魔法だ。

 あくまでエドウィンの解釈なので、身体強化はエドウィンが基準であるし、体力魔力の回復も同様に発現される。結果、界の範囲にいるエドウィンに劣る魔法対象は(この場合、院の子供達)体力魔力が減らないという状況が維持されることになる。また、高濃度の魔力散布の影響で魔法対象を除いた生物の魔法発現力を著しく削ぐ副次効果があった。

 当然ながら必要な魔力量も莫大で、魔法対象の数に比例して消費が増えるため、エドウィンにとって中々切りにくい札でもある。

 まだ覚えたての頃には、何人を、誰を、魔法対象にするかで内輪で相当揉めたことがある。

 弱い奴を強化した方が効率がいいだの。上がった魔力で殲滅を狙った方がかえって被害は少ないだのと。あまりに腹が立ったので、エドウィン自らの手で仲間にはお帰り願った。尤も、暖かな帰り道など望めもしない戦場では概ね帰る場所は土に限られたのだが。

 「放てっ」

 益体もない記憶を振り切ったエドウィン神父の一言で、大魔法結界による魔力の補充を前提とした火炎魔術の飽和攻撃を開始する。

 たとえ倒しきれなくとも、撃ち尽くすまでは近付けない火力が孤児院の小さな戦士達から迸る。余波で小動物を餌に育った魔草は塵に、森のすべての住民を区別せずに養う恵みの大木が灰に。

 一部逃れた魔物をフランが弓で射った。狼のような姿の魔物の魔力が少ないところ、もしくは関節を重点的に魔力を込めた矢が順繰りに穿つ。指、前脚、膝、離れて目、股関節、口。最後は駄目押しに腹へと。

 意図を過たずに放たれたそれは魔物の活動を段々と弱めて行き、水の加護持ちの水氷魔術が発現するまでの足止めを果たした。

 「唸れ、水氷」

 空気中からかき集めた水分を冷却し、鋭利な先端を晒した氷柱が魔物の赤く染まった部位を容赦なく貫く。

 僅かに身震いするも、刺さった氷柱は抜けない。魔物が手を拱いている間にもいくつかの氷柱は奥へ奥へと頭を沈めていた。

 やがて、完全に沈まり切った氷柱が魔力を放出する。魔力暴走の応用である。反発するエネルギーが光を伴い、魔物の内臓を千々に引き裂く。

 「・・・・・・・・・・・・しぶとい」

 魔物が魔力で無理矢理に繋げた身体で駆け、規模の大きい氷柱を発現した魔術師の首を狙う軌道を描いた。



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