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死神冒険者の終末旅行紀  作者: サフラン斎藤
一章-死が全てを分かつまで
6/11

男による述懐

 どうして、死神が。

 気味の悪い女から解放されたと肩の力を抜いた瞬間、男の耳に隙間を縫うように言葉が滑り込んできた。途中で音量が下がったことからして、おそらく後半は無意識に口に上がったのだろう。

 死神?あの女、フランが言うといやに説得力が有りやがる。舌打ち混じりに男は不安を押し殺した。

 死体よりも青白い肌に、常に遠くに固定されている視線。男のみならず、院の大多数はフランがリビングデッドだと言っても信じるに違いない。

 まかり間違って、人間だったとしても。あれの瞳は他の人間と同じ景色を移していない。よりによって単独でこの魔の山を踏破した生物だ。化け物と言い換えてもいい。

 後から聞けば、手持ちは穴の空いたバケツだけだとか。いくら急に頼まれたとしても、普通は武器や食料ぐらい持って出掛ける。その上で数を集めるのが定石だ。この時点で男はフランを同族と見做すのを辞めた。

 男は化け物直々の死の宣告を無視することができず、次回の大規模狩猟を延期した。不満を述べる仲間を慰撫するために私財を投げ打つ真似さえも辞さなかった。

 結果から言えば男の選択は賢明だった。予定していた日に狩りに向かった他班の人員ははぐれ魔物に蹂躙され、数少ない生還者もしばらくは使い物にならない体で帰ってくる羽目になった。

 「そんな馬鹿な」

 はぐれ魔物は一般の魔物や魔獣とは断絶した高い魔力を誇り、知能も高い。彼らは独特の文化で生きていてめったに姿を晒さない。近くて遠い近隣種だ。

 有名なゴブリン、コボルト、加えてサイクロプス。魔獣と異なり、意思の疎通が行えるために王国が友好関係を築けた魔物は集落で纏まって暮らす性質を持っている。魔物の多くは人間を越えた身体能力を生まれながらに与えられているが、何事にも上には上がいるものだ。

 翻って、はぐれ魔物は量を質で凌駕する。伝説のドラゴンに匹敵しかねないものすらいるのだ。

 まさしく、食物連鎖の頂点である。食物連鎖の頂点であるからして、当然数が少ない。希少なはぐれ魔物がフランの言と重なる時期に森に訪れる?偶然だと片付けるには引っ掛かるものがある話だった。

 只の脅し文句じゃなかったのか。男はそれこそフランの息が掛かった暴漢に袋叩きにされるぐらいは覚悟していたが、現実はとかく救いようがない。きっと、あの女は淡々と事実を述べていただけなのだから。

 死神。陳腐な響きだ。ただただ生命を奪う神などつまらない。なにもせずとも、人は勝手に死ぬ。死神なんぞいてもいなくても変わらないではないか。なのに、なのにどうしてこんなにも怖い。

 もし、フランが本当に死神を見ていて死神の意図、もしくは行いが予測できるとしたら。それはフランが死神であるのと一体なにが違うのだろう。

 知らず知らずに男は自分の首を指で撫でていた。命を刈り取る鎌に首が落とされていないかを確認するかのように震えた指で。



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