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死神冒険者の終末旅行紀  作者: サフラン斎藤
一章-死が全てを分かつまで
5/11

フラン4

 エドウィン神父による実地訓練もあってか魔力の操作になれた頃。フランはいつしか空腹を忘れ、漆黒の影から離れた。それからは味気ない日常だった。

 労働から解放されて持て余した暇を、全て本に注ぎ込み溺れて昼夜を過ごした。フランと孤児達の溝は深まって行くばかりであった。

 やがて食物も余るようになり、町からの援助の食物を換金し始めたときのこと。


 「おい、そんな奴となに話してる」


 院の主流を占める狩猟組の中でも際立って体格の良い男が割り込む。確か、彼は狩猟組の大きな班のリーダー格だとフランが脳内の記録を紐解いている間に取り引き相手を押し退けていた。

 腐敗する前にパンを売り捌きたいフランにとって大変不都合な行動である。ただでさえ、お部屋組の汚名が足を引っ張って取り引きを成立させるのが難しいというのに。どうか勘弁してくれないだろうか。

 「随分とご挨拶じゃないか。まあいい、取り引きにならないなら腐るからこのパンは要らないな」

 フランは様子見がてらにパンを投げ捨てる。すると、怪我などで狩猟組から脱落した者達がパンに群がった。男はそれをじっと眺めていた。

 これは、牽制にもならないようだ。男のなんら変わらない表情は想定内と言っている。

 町から流れてくるパンは足が早いものの、味はそこらの保存食とは比較にならず、嗜好品扱いで人気の取り引き材料だ。院にいる子供は皆、その価値を理解している。魔獣のいる森を突っ切って町へ仕入れに行き、転売を目論む連中もいるぐらいだ。

 「てめぇ、本当に霞でも食ってるのか?まるで人間に見えやしない」

 フランは内心男への評価を引き上げる。やはり、単純にお部屋組へのちょっかいを掛けにきた訳ではないらしい。

 いかにも怪しい人間から身内を隔離する。ふむ、群れの長として真っ当な行動原理だと思う。なにせ、町の援助のみで生計を立てているはずが、援助物資を横流ししているのだ。胡散臭いことこの上ない。

 その胡散臭いフランと言えば、夜にはエドウィン神父の私室に入り浸りときてる。まさに触らぬ神になんとやらだ。フランや男の世代で目先の効く者は既に院を出た後に意識を向けている。故に立ち位置の不明な存在は避けるのが処世術に成りつつあった。

 「私がなにを食べて生きているのか教えてもいい。だが、あまり言い触らされたら困る」

 「そんなもの、俺が知って得になるのかよ。俺は他人に養われている奴を信用しない」

 取り付く島もなさそうだ。なんだか悪人認定をされている気がしてならない。

 フランが世間体に悩んでいようが世界は回る。去り行く男の後ろ姿をぼんやりと眺めていると、うっすら漆黒の影が見えた。

 「・・・・・・・・・・・・どうして」

 黒い死が筋肉で盛り上がった男の肩に乗っている。そんなには近くない。けれど、決して遠くない距離に死が佇んでいた。



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