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死神冒険者の終末旅行紀  作者: サフラン斎藤
一章-死が全てを分かつまで
3/11

フラン2

 「お腹すいた」

 一週間に数回、フランはどうしようもない空腹に襲われる。身を蝕む虫を飼うような痛みはもはや日常だ。

 本に記された英知が言うには胃が自らを消化しているとのこと。なんと恐ろしい。


 私は内側から消えてしまうのではないか。


 フランの目が視界の隅でちらつく影を捉える。フランはそれを、漆黒の影を死だと思った。

 影の揺らぎを見て不思議と安堵する。あれはまだ遠い。私を掴まない。

 どれだけ辛い日もお腹に手を添えて休めば乗り越えられる。乗り越えたときにはいつも影が跡形もなく消えていた。

 ある日、フランはエドウィン神父に声をかけられた。曰く、元気にお過ごしでしょうかと。

 神父様は孤児達に好かれているし、神父様は女児が好きだ。いやはや度し難い。

 夜中に時折、神父様の部屋の方から嬌声が聞こえる。よもや、次は私の番かと内心冷や汗を掻くフランも表向きは平静を保っていた。

 そもそも、この孤児院の管理者層はどうかしている者ばかりだ。唯一の使用人である老人に水を汲んでこいと言われて渡されたのは穴空きのバケツだし、やたらと生命力の強い虫や獣のいる森を突っ切って、命からがら往復した帰りにそこら中から罵声が飛んだときにはほの暗い殺意が湧いたものだ。

 挙げ句の果てには、孤児院の近くに別の水場があったという結末が追い打ちしてくれる。くそくらえ。

 「フラン、君の生活に些か不可解な点がありましてね。こうして呼び出したのですが、あなたに心当たりはありますか」

 疑問の体を装った断言がフランを意識の内から現実へと呼び戻す。なまじ優しい声色が皮膚の裏側をなぞるようで寒気に震えた。

 しばしの黙考。エドウィン神父の意図がいま一つ読めない。書庫で本に学んだ話術の未熟さを痛感する。

 悪意ではない、はずだ。エドウィン神父とフランの力関係を鑑みれば、まどろっこしいやり方は意味をなさない。なぜなら、そんなことをする前に放逐するなり、立場を盾に脅せば済む話だから。

 「私が霞を食べて生きているという噂の件ですか」

 順当なところで、院内の悪質な噂への対処。そう思い、フランは言葉のボールを投げる。

 あいつが餓えないのはあいつが悪いことをしているからだ。まことしやかに囁かれる噂は実に根拠がない。けれども、ここでフランがお部屋組であることが足を引っ張る。

 悪そうな人間が悪事を行う。感情を納得させる理屈が無責任に噂を煽り立てていた。

 「そうだな。関係していないとは言えない」

 愉快気に笑うエドウィン神父。頬に刻まれた皴はいかにも人の悪い笑みを演出した。 きっと彼はこちらが本質なのだろう。質問を重ねようとしたフランを手で制して上機嫌に話を進める。

 「君が餓えない理由はおそらく、魔術によるものだ。少なくとも私はそのように判断している。そして、状況から推察するに君が受けている魔術の恩恵は光の加護の可能性が高い。故に先人として少しばかりの助言をね」



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