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塔の上の悪役令嬢  作者: 相川イナホ
6/15

愛しきもの


 あれから…


 私が閉じ込められていた塔に弟とかつての級友達が訪ねてきてから、私の身体はどこかに運ばれてしまったようで、もうその『死』を晒さないですむかと思うと少しばかりほっとした気持ちになります。


 咲綻びはじめた薔薇の花のようだと言われた私の変わり果てた姿を騎士団長に同情されていたようですけれども、『死』というのはそういうものです。


 生きていた身体が生命維持の活動をやめてから直ぐに、この地に還るための変容がはじまるのは自然な事です。


 そこに恐れを懐くのは生あるものの宿命でしょうが、死んでしまった私にはかつての身体が自然に還ろうとする様はそれこそ自然な事で、みじめな事でも嘆くような事でもないのです。


 さて、呪いは解かれたようですが私はこの地に縛り付けられたままのようで、一向に成仏するような気配がしません。


 今までにも成仏させられる霊とかを見た事もないので、本当に魂が『あの世』だとか天国だとか地獄だとかにいくのか疑わしく感じている事が悪いのでしょうか?そもそも幽霊も私以外には見た事がないのですけれども。


 本当、他の皆さまは、亡くなった後どうしているんでしょうか?


 でも呪いが解かれたせいか、ほんの少し行動範囲が広くなったのはうれしい事です。






 たびたび私の姿を見て、卒倒する人が出たためか、弟一家は違う場所へ新しい領主館を建てて引っ越しをしたようです。

 どうやら王都方面のようですね。


 もう甥や姪の姿を愛でられず、寂しい事です。


 現在、この塔を含めた館は「侯爵令嬢の呪いの館」と言われているようですが、失礼な。


 私は呪ったりしませんよ。生きている人間と違ってね。


 ぷんぷん。




 私はかつての屋敷の中をゆったりと漂うように歩きます。

 春風のように、蜂の羽音のようにやさしく。


 太陽の下だってどうって事ないですよ?


 幽霊が陽の光が弱点だなんて迷信なのです。


 弟一家が去った屋敷の中も、庭は時々手入れのために人も来ますし、小鳥などが雛を孵したり猫がお散歩に立ち寄ったりします。

 時間の感覚があやふやなので私には暇という感覚もありません。


 ただあるがままに生ある者の姿を愛でる平和で安らかな時が続いていくだけです。


 そんな私にちょっとした魔法が使えるようになったのは神様からのプレゼントでしょうか?


 

 それは偶然でした。


 私が愛でて成長を楽しみにしている小鳥の巣が庭のモミの木にあるのですが

そこから雛が一羽落っこちてしまったのです。


 私は思わず「助けたい」と願いました。


 すると不思議なことにふんわりとした風がふいて雛を巣に戻したのです。


 偶然かしら、そう思っていた私は今度は私の誕生日に、かつての婚約者であった王子が贈ってくれた薔薇の木につぼみがついているのを見つけました。


 贈ってくれてから一度も花を咲かせてくれなかった木なので私はそのつぼみが咲いたところを是非見たいと願いました。


 するとなんていう事でしょう、幼子の瞼が眠りから覚めるように花びらが震えたと思ったら、咲いたのです。


 「まぁなんて綺麗なんでしょう」


 私は時間も忘れて見惚れました。

 ええ、時間の概念がそもそも曖昧なのですけど。


 どうもそれは生ある者には奇跡と呼ばれていたようで、普通の薔薇の倍以上の期間を咲き誇っていたようですけど。


 人間であることをやめて幽霊となった私に、世界はやさしくたくさんの愛をいただいているような気持ちがいたします。 

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