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塔の上の悪役令嬢  作者: 相川イナホ
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誰のためにもならぬ


「貴族の家にはよくある事だな…」

 騎士団長としての苦い経験からキリアはそう言ってフィリップを慰めた。


 騎士団長として職務をこなす上で、家の方針に逆らったり、放蕩を繰り返したりそういう者を家族や家臣が思いあぐねて殺してしまうケースを取り扱った事がある。


 そういう時は暗黙の了解で「事故死」や「病死」として処理するケースも出てくる。

 そしてそれは彼の裁量に任されているのだ。

 その立場を重い物として受け止めているが、いささか「死」というものに慣れすぎてしまった事に呆れる自分もいた。


 「…病死だと、貴族院には報告しておこう」


 戦争がもう何十年と起きていないこのご時世で、騎士団長の仕事は治安維持などにウェートが置かれている。

 元王太子の婚約者が通常ではない死に方をしたと報告したとて、世論を混乱させるだけで誰の得にもならないとそう判断する。


 「葬儀は我々だけで執り行おう。どうせ誰もこないだろうが。いかなレイシアだといえども、亡くなってしまったのだ。いかな被害を受けた我々でももう、これ以上貶める気は起きないからな」


 ベットの上の小さな身体を顎でしゃくる。

 王国の社交界の花のつぼみよ、咲き誇るのが楽しみよと褒めたたえられた面影も見つけられぬほど、その色は変色し皮はしなび干からびてしまった。

 その姿が彼女に下った最大の罰の気がして、騎士団長であるキリアは彼女を赦そうと決めた。



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 「そうか、レイシアもとんだ置き土産を残してくれたねぇ」


 報告を聞いた王子はかつての婚約者のなれの果ての顛末を聞いて、そうつぶやいた。


「…と言われますと?」


 次期の宰相と呼び声の高いグレン・ゲノバは主の案外と明るい声に怪訝に聞き返した。


「クリスだよ。彼が使えなくなるとウチの戦力的に困るんだよなぁ」


「メープル魔術師長が?何か?」


「彼は平民の出だからねぇ。『青き血の理』で縛られている我々と違って、根は善良なんだよ。いくら腹黒の策略家のようにふるまってみせてもね」



 王子は執務でサインをする手を止めて羽ペンで自分の頬をなぞった。


 「今頃、堪えているんじゃないかなぁ。自分のせいだって思いつめて」


 「殿下。おそれながら殿下ほど公平で善良で主君に相応しい者はいないと存じます。そんな風にご自分を悪く言わないでください」


「図太い神経でいかないと、この地位についていられないからね。「僕」が善良なだけじゃ勤まらない事は自分が一番知ってるから慰めはいらないよ。」


「『必要悪』という言葉がございます。殿下も陛下も血の涙を流しつつ、時には刃を振るっている事を私は知っております。」


「そう信じてくれてうれしいよ。でも『悪』は『悪』なんだよねぇ。」


 呟くようにそう言う王子の明るそうな声に似合わず、その瞳は暗く揺らめいている。


 「奥さんには何も言わないほうがいいよねぇ。あの人、不安定だから」


 大恋愛の末に身分違いで正妃にした女性を彼はそう称した。


「若さとはままならない物だね。あの時の僕に今の僕ほどの分別と開き直りがあれば、レイシアもそんな目には合わなかったのに」


 勤めて明るくふるまう王子にグレンは「この人を支えねば」と強く思った。

追い詰められる程、反対に明るくふるまう傾向のある王子のそれはよくない兆候であると、彼にはわかっていたからだ。


「それはそうと仕事の続きをしないとね」


 軽い言葉の調子とは反対に、彼を裏切ったかのように、その手は細かく震えていた。


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