哀しき対面
「死んでほしいと思う位に憎かった。
死ねばいいと何度も思った
でも、ハッブス家の令嬢だし、あの『レイシア』だ。いつまた彼女を傷つけるかもしれないと思うと、呪いをかけずにいられなかったんだ。…でも『死ね』とは…死の呪いはかけられなかった…」
泣き崩れる魔術師長を騎士団長は支えて床から立ち上がらせた。
フィリップは青い顔をして言葉もなく立ち尽くしている。
「きっと家の保護の元に、ぬくぬくとほとぼりが冷めるのを待っているのだろうと…そう思っていたのに…」
まさか罪人とはいえ、娘が餓死するのを承知で放置するとは。
それに、彼女の罪とは言っても、たかだかが未成年の男女が集う学園での問題行動だ。
キリア・ウォールは騎士団長となった今だからこそ、その罪の対価がいかに大袈裟で不適当なものか理解できる。
あの当時は自分もレイシアの愛しい人に対する仕打ちは万死に値すると信じていたからこそ、魔術師長のとった行動も理解できる。
「…クリス…。そう思っていたのはお前だけじゃない。俺もだ。だから、こうなってしまったのは、お前だけのせいじゃない」
「レイシアは社交界から、いや貴族社会からも抹殺されたも同然だった。きっと生きていたって…あの気位の高さだ。…絶望しかなかったと思うよ」
胃の中のものをすべて吐いてしまったと見えてアラン・ベイトリア伯爵は床に座り込んだままで投げやりに言った。
「でも、本当に『死ね』とは本当に死んでしまうとは誰も考えなかっただろ!」
クリスの喉から嗚咽がもれた。それは間接的にも『手を下してしまった』かもしれない事からの恐れなのか嫌悪なのか。
その時、固まっていたはずのフィリップが絞り出すような声で言った。
「…いるさ。我が子にさえ『死ね』と平気で言えてしかもそれを平然と望み、実行できる者は」
フィリップの顔は泣いているような笑っているような表情になっていた。
「俺の、俺達の両親がそうだ。クリス、君が姉を殺したんじゃない。
姉を殺したのは…両親だ」