訪問者
そもそも、私以外の人は、死んだらどうなっているのだろう。
この塔から見る限り、私以外の私のようなものの姿を見た事がないのでわからない。
あのサロンの日から暫くたって、私のいる塔を登ってくる男達がいた。
ここの領主館の主であり、弟でもあるフィリップ・ハッブス侯爵、その友人である騎士団長のキリア・ウォール、幼馴染のアラン・ベイトリア伯爵、魔術師長となったクリス・メープル。
私の事を断罪した王子の取り巻きの一部である。
「…その昔の使用人はすでに我が家を辞めていて、すでに亡くなっていたのだが、その息子の証言をとることができたんだ。
父も姉をどこに幽閉したのか言わなかった。俺が聞きたくもなかったので聞かなかったのも確かにまずかったかもしれないが…あの通り父も最後の方はあんなだったし」
「徘徊がひどかったらしいね?大変だったね」
「ハッブス家ならば修道院にもツテがあるだろうし、普通に考えればどこかの修道院にいると考えられるよね?そこで神に仕えてすこしは罪を悔いてすごしているかもしれない。何しろ物語にもなるような転落ぶりだ」
「罪を悔いる?あの姉が?」
思わず鼻で笑ったのは、現フィリップ・ハップズ侯爵、かつての悪役令嬢の弟ですでに2児の父である。
「おおかた、あの我儘っぷりで修道院からも突き返されて困ってこの塔にでも幽閉してたんだろうよ。知らないで同じ敷地に住んでいたのかと思うと虫唾が走る。どうせ父の腹心の誰かが嫌々面倒を見ていたに違いないんだ。反省も後悔もしていないと見るね」
憎々しげに言う言葉は本当に血をわけた弟の言うセリフであろうか。
「…それにしても、塔の出入り口の鍵の錆びつき具合といいこの階段の床の荒れっぷりといい、人の出入りが感じられない。目の錯覚じゃないだろうか」
「だから気のせいだって。ほら『見た』って騒いだのがあの…」
「ああ、元姉の「自称親友」のリーベ嬢だろ?」
「『…嬢』っていう歳じゃないだろ。あの件でどこからも貰い手がつかず、苦労したって話だ。ご婦人にありがちなヒステリーじゃないか?罪悪感からさ、幻が見えたんだよ。結果的にはその『自称親友』を裏切ったわけだし」
その時、最後尾を歩く魔術師長の男が震える声で言うのが聞こえた。
「いや…違う。ここだ。ここにいたはずなんだ」
男たちは無言になる。
何故彼が断言したのか見当がつかないのと目指す場所の扉が見えたからだ。
男たちは顔を見合わせ、肩をすくめた。
かすかな異臭が鼻につく。
男たちは顔を見合わせた。
ドアの鍵は錆びて壊れていた。
鉄格子のはまった扉ののぞき窓から室内が見える。
それなりに豪華な絨毯や家具が配置された貴人が囚われているのにふさわしい内装の部屋のようだ。
「やっぱりここが正解みたいだな」
「入りますよ?」
「ボス部屋へようこそ」
誰かがふざけて言い、男たちは嗤った。
騎士団長が鍵を壊すとどこか空元気な様子で男たちは室内に足を踏み入れた。
「姉上?]
「…レイシア?」
かつては愛しい存在であったはずだった弟とかつての級友の声に、ひさびさに私は心が躍るような気持ちでかけていた椅子から立ち上がった。
(フィリップ!よく来てくれたわね!)