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日本へ  作者: じろう
9/12

8月25日 1

 道なき道を進む俺3人は、物音や靴音、周囲の気配に気を付けながら、身体を屈ませ素早く進む、スリーマンセルの先頭を行くのは、俺と同じ年の背の高い男「野口健一」優しそうな男だ、最初会った時の感想は抜け目のない奴、常に周りに気を配り俺たちを誘導してくれている、この3人のリーダーだ、俺は親しみを込めて「健ちゃん」と呼ぶことにした、俺39歳だから良いよね


 真ん中には、俺より一つ年下の男、「坂入雄介」ガタイの良い人懐こそうなタイプだ、こちらも親しみを込めて「雄ちゃん」と呼ぶことにした


 しんがりを俺が務める、前後の間隔は5メートル、俺達が月明かりでハンドサインを確認できる最大の距離だ、健ちゃんの通った道を俺たちが通る、健ちゃんが移動するときは、俺たち二人で周囲に気を配る




 俺達3人は、移動を始める前に約束事を決めた、ほとんど健ちゃんが考えてくれた約束事だ、月明かりが出ている時に物陰に入り移動する、月明かりが消えた時は、その場で停止、再び月が出たとき、お互いのハンドサインを確認する、サインが無ければ10秒間だけサインを待つ、10秒待ってもサインか無ければ死んだものと思って行動する


 何があっても声を出さない、声を出すときは、最大の危機が迫った時だけ、誰かが声を出したら、後ろを振り返らず、目的を達成する為の行動をする


 俺達3人のうち、誰か一人でも目的を達成すればいい、目的と命の重さは、目的の方が重い


 なんて軽い命だ、俺はそう思った、しかし、この子たちの考えは違った、俺の命1つでみんなが助かるなら、喜んで犠牲になろう、この時代の日本人の思想だ、もちろん違う奴もいるだろう、だが、目の前の二人は、紛れもない日本男児だ



 約束事を決め、宿泊施設を出る前の俺達3人は、顔、歯と、耳の中と、鼻の穴の中、身体中を墨で黒く塗りながら、地図を見ていた、第一収容所の場所を頭に入れる為だ、もし捕まってもココの場所を知られない為に地図は持たない、一所懸命地図を覚えていると、あの時助けた母娘が話しかけて来た


 10歳くらいの女の子が、俺に一輪の花をくれた、母親に似て目鼻立ちの整った可愛い子だ、「頑張ってね、帰って来てね」と言ってくれた、目頭と胸の奥が熱くなる


 母親の方も「身体の調子はどう? 気を付けて行きなよ」と声をかけてくれた、それから「胸とお尻を触らせたのはお礼と餞別だよ、続きがしたかったら帰ってきなさい」と、耳打ちされた、あの時起きていたのか… 顔と男の部分が熱くなる


 女性から誘われるなんて、新入社員の時に先輩たちと一緒に行ったソープランド以来だ、と、ドキドキしていると、健ちゃんが「姉さんと何かあったの?  あ、そうだ、姉さんと紀久枝を助けてくれてありがとう」と言われた


 健ちゃんの姉さん? オッパイ触ったことは黙っていよう、と思いながら、あいまいに返事をした、あの女の子の名前キクエって言うんだ、無事帰って来れたら、花のお礼をしよう、それと、姉さんと…ムフフ…


 だらしない顔を健ちゃんに見せない様に、雄ちゃんは? と言いながら、周りを見渡すと、班長と話している、何を話しているか聞き取れないけど、大事な話をしているみたいだ



 その後、出発まで、少し時間があったので、二人の話を聞いてみた、健ちゃんは、家族と満蒙開拓団として満州に移民した事、移民後原野を耕し農業をやっていた事を話してくれた、しかし大東亜戦争が始まると父は戦争に、姉は女子挺身隊にとられ、女手一つで健ちゃんを育てた母親は、少し前に亡くなった


 健ちゃんの姉さんの旦那さんは、シベリア収容所に抑留されているらしい、妻と娘、それと義弟の健ちゃんを助ける為、健ちゃんに「秋子と紀久枝を頼む」と託すと自ら捕まり、3人が逃げる時間を稼いだ、だから、二人を助けてくれた君の恩に報いたいと、この食料調達任務一番危険なポジションをかって出てくれた


 二人のそばに居なくて良いのか?と聞くと、紀久枝はもうすぐ9歳になる、姉さんは28歳だ、二人で何でもできるし、ここには助けてくれる日本人が周りにいる、僕は僕に出来る事をするよ、それが姉さんと紀久枝を守る事さ、と笑った


 雄ちゃんは、団長の息子さんだった、自分の息子を、こんな成功の可能性が薄い作戦に参加させるなんて、同じ人の親としてどうかと思った、雄ちゃんに、団長とナニを話していたの? と聞いたら、己の身を挺しても二人を守れ、お前の役目は二人の盾になる事だ、と父上に言われたと、教えてくれた、なんて親子だ…


 雄ちゃんに、3人でちゃんとこの場所に帰って来よう、と、話したら、はにかみながら、「自分の仕事は、死ぬことです、死んでお二人の道を、父上の班の皆様の未来を開くことです、その礎になるなら喜んでこの身を捧げます」、と言った、墨で黒く塗った歯だけど、白く光ったように見えた


 俺は、二人を絶対に殺させちゃいけないと心に強く思った 



 そして、出発し5時間が過ぎようとしている



『もうすぐだね』と、スティーブン3世


 その時が、刻一刻とせまる、今回の後悔の原因となる出来事だ、俺は移動開始5時間後くらいに、7人の八路軍小隊に捕まる、出発した宿泊施設から2.4キロくらいの場所だ、拷問を受け、俺は指2本を失う、確かにジジィの左手の小指と薬指は短かった、この時受けた拷問が原因だ


 そして俺を助けに来た雄ちゃんも捕まる、雄ちゃんは20時間以上拷問を受け続け殺された、死体には50か所以上の火傷の後、100以上の痣と傷、両手両足の爪は剥されていた、原形をとどめていない両手、10本の指がそれぞれ違う方向を向いていた、そして顔には、耳と鼻が無く、口は耳の穴までつながっていた、男性器と校門と左目には焼けた鉄の棒が刺さっていた、左目に刺された鉄の棒が直接の死因だ


 その変わり果てた雄ちゃんの姿を見た俺は口を割ってしまう、宿泊施設の場所を八路軍小隊に教え案内してしまう、しかし、教え案内したのは自分達の宿泊施設ではなく、第一収容所へ移動中に発見した、自分達の近くに施設を展開していた、他の班の宿泊施設の場所だった、そして、俺を捕まえた7人の八路軍小隊の略奪が始まった、銃を持っている7人の八路軍小隊はあっという間に、50人以上いる宿泊施設を制圧した、そして、男を殺し、女を漁ったのち殺した


 その略奪騒ぎに便乗し、俺は逃げた、俺が襲わせた宿泊施設に残っていた、食料を盗んで一目散に逃げた、自分の宿泊施設に帰ってきた俺は、嘘の報告をして、盗んで来た食料を差し出し、皆に迎え入れてもらった、健ちゃんは帰ってこなかった


 

 月明かりが消えて、停止する、再び月明かりが闇を照らした時、俺はハンドサインを出さなかった、10秒後、俺の位置から5メートル、8メートル離れた同じ場所から、再びハンドサインがでる、手だけしか見えないが、強いメッセージが込められている様に思えた


 再び10秒数える、もうハンドサインは見えない


『二人は行ったみたいだね、君の指示通り健ちゃんと雄ちゃんをスティーブン6世が追跡しているよ』と、スティーブン3世


 再び、ハンドサインを確認しあえるまで、二人とも生きていてくれよと願う、そして俺は、7人のゴキブリどもを駆除する作戦を開始した

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