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日本へ  作者: じろう
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8月22日

 はい、皆さんこんにちは


 今日も仕事から帰ってきたら、冷凍食品が未開封のまま食卓の上に・・


 温めて食えってことですね、はいはいわかります

 

 古い農家の家に婿に来た俺、家は昔つくりの平屋の家、39歳、子供2人、中学生の娘と小学の息子、奥さんはトドやアザラシの化身かと言うくらいナイスなバデー、なーーーにもしない、息すってはいてを繰り返し俺の少ない稼ぎのほとんどを、その胃袋に収めるだけに生きている生き物

 

 結婚した時は、決して綺麗とは言えないが、愛嬌があってちょっとドジな可愛い子だったのに・・・

 

 タイムマシンがあったら、それは世を忍ぶ仮の姿だと、20年前の俺に教えてあげたい、と、心の中で、小学校の頃から、俺の心だけに住んでいる、俺のよき理解者、スティーブン3世と、会話を楽しみながら、電子レンジで、チンして、ディナーの用意だ。


 4リットル入りボトルの焼酎を8対2の割合でお湯と割る。どっちが8だって?もちろん水さ! そこに、駄菓子屋で買った酢昆布を一枚投入、 俺のソウルフードだぜ! フードじゃないけど・・・

 

 自分で用意したディナーを食べながら、でかいケツで少ししか見えないテレビを楽しんでいると、嫁の父から呼び出しが・・・

 

 嫁の父若林正吾82歳、こいつが俺の最大の敵、コイツと酒を飲みながら、こいつの話を聞くのが俺の日課

 

 年金やらなんやらで金はある、しかし、自分でアルコールは買わない、俺の少ない給料からトドの化身が買ってくる。

 

 俺は4リットル入りのリーズナブルな焼酎だ、それも50日に1本と決められている、 しかしジジィは日本酒コマーシャルでやっている高級な酒だ

 

 しかし、そこはお婿さんの弱い立場、飲む酒の格差、つまらない話と分かっていても、ニコニコしながらうなずくぜ!それが俺のジャスティス!


 息がくさいじじーの前に座るのはきついので、少しずれて、L字型に席に着く

 

 さぁ、今日も始まる、ジジィの大スペクタクル、戦争が終わって仲間と一緒に、日本に逃げてきた話

 

 冒頭のお世話になった人にお礼も言えず住んでいたチチハルと言う町を追われ逃げる様に汽車に乗る所から話が始まる

 

 何年も同じ話されてるが、大体冒頭の部分で、俺は、俺にしか見えない心の親友スティーブン3世と妄想の世界に入る。



 気づくと俺は寝てる、ジジィはスペクタクル話し終えると満足して寝床に帰る、俺を起こしもしないで


 俺も、ベットに向かう。


 寝室に向かう途中、娘たちの部屋の前を通るが、俺が通りかかると話し声が止む、何時からだろう、子供達と話していないのは・・・

 

 そんなことを考えながら、寝室に向かう、スティーブン3世が慰めてくれるが、俺の心はグレーのままだ。


 寝室に近付くにつれ、次第に大きくなってくる、マイハニーのイビキ、2人で寝るダブルベットだが、俺が使える面積は少ない、俺か飲んでいる焼酎と同じ8対2の2だ

 

 年下の上司に目の敵にされていて、神経を使って疲れているせいか、さっきジジィの話聞きながら寝ていても、横になればすぐ寝れる、めちゃくちゃ狭いけど、寝返り打てないけど、すぐ寝れる。




 誰かが身体をゆする


「正吾、正吾」


 今寝たばっかなんだよ、起こすなよ、それに俺は正吾じゃねーし、不吉な名前で呼ぶんじゃねーし


「寝ぼけてないで、起きなさい、日本に帰るよ、ここにいたら、死んじゃうよ」


はぁ、かみさんのケツで圧迫死?ありえるな・・・・意識を戻しながら、体を起こす

 

  ???どこだここ


「なに寝ぼけてるの、正吾、急ぎなさい、汽車に乗るのよ」

 

 言われるがままに、用意して、外に出る

 

 なんだここ?






『第二次世界大戦が終わったばかりの中国、日本が負けて、中国にいる日本人に国に戻るように指示が出たところさ』と、頭の中で声が響く


 誰だおまえは? ヘッドホンを着けているときの様な、頭の中に響く声に問いかける


『おいおい、冷たいな、小学校からずっと一緒だったじゃない、あなたの心の友達、スティーブン3世さ、そしてここはジジィの思い出の中、そして、あなたは今、若林正吾』


 どういう事?


『ジジィがこれから起こる出来事にすごく後悔している事があるみたい、それを払拭しないと、寝たまま死ぬよ』


 はぁ?何で


『よくわからないけど、ジジィの思いが強すぎて、毎晩その思いをぶつけられているうちに、あなたの夢とジジィの思いが合わさって、こんな事になっちゃったんだろうね』


 どんな呪いだ! よくわからないけど、しぬのは嫌だ、夢かもしれないけど、しぬのは嫌だ

 

 ここはジジィの話の冒頭の部分、少し話を聞いていた部分だ、えーと、確か脱出前にお世話になった人に、挨拶が出来なかったのが心残りだって言ってたよな

『そうだね、さっき起こしてくれた、女の人だね、確か名前は伊予さん、こっちで夫婦で商売をして、子供が出来ないから、甥っ子であるジジィを養子にして育ててくれた人だね』

 

 ナイスだ、スティーブン3世。よく覚えてるな、OK.OK さくっとお礼してくるぜ


 どこにいやがる、なんなら、嫌味な年下の上司のお蔭で最近身につけたスキル、ジャンピング土下座をも見せてやるぜ


 駅に向かったはずだから、駅の方に行けば会えるか




 

 そんな訳で俺は、駅に向かったんだ


 そこで、さっき起こしてくれた女の人、伊予さんを見つけた


 正確には伊予さんの上半身を見つけた




 誰かが仕掛けた爆弾、荷物に紛れ込ませ日本人を殺そうとしたらしい、たまたま、汽車の出発する前に、爆弾が入った荷物が落ちて、爆発した


 上半身だけの伊予さんに近寄る、まだかすかに息がある、怒涛の様に、ジジイの、正吾の記憶が俺の頭の中に流れてくる、俺は、正吾である俺は、力の限り、声の出る限り叫んだ。


「あかあさん、おかあさん、おかあさん、あかあさん、おかあさん、おかあさん、あかあさん、おかあさん、おかあさん」

 

 養子に出された正吾は、一度も伊予さんの事をお母さんって言ったことがかなったらしい、どうしてなのかはわからないけど

 

 伊予さんの焦点の合っていない目に俺が移る、伊予さんはちぎれかけた右腕と、肘から先がない左腕で優しく俺を抱こうとする、口元が動く、何かを俺に伝えようとしている、しかし、口から流れ出る血とドロドロしたものにさえぎられて、しゃべれない、もう痛みも感じていないだろう、その体は急速に力を失っていく

 

 その間も、俺は力の限り叫ぶ

 

「ありがとう、育ててくれてありがとう、大好きだよ、母さん大好きだよ、ありがとう母さん」

 

 誰かに、また爆発があるかもしれないから、その場から離れろと引きずり出される、そして、二回目の爆発

 

 俺は、腕だけになった伊予さんを強く抱きしめていた、そして、腕は埋葬して、その腕に残った衣服の切れ端をポケットにしまい、駅に向かった。






 ふと目を覚ますと、狭いダブルベットの上だった、そして、泣いている自分に気づく、時計を見ると深夜二時


 トイレに行こうとベットを抜けて部屋から出る、トイレに向かう途中、ジジィがいた、暗くてよく見えないけど、飲んでいるのか、俺が近くに来たことに、気付いたジジィはそそくさと自分の部屋に戻って行った

 

 俺は見た、薄暗かったけど、見間違いじゃない、右手に汚いけれど思い出の沢山入った何か切れ端の様な布を持っていた



『思い出が変わったみたいだね』と、スティーブン3世が、俺に話しかける

 

  ああ・・・良かったなジジィと、俺はトイレのドアノブに手をかけた

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