ああ、忌まわしき奴等よ!さっさと堕ちて溶けなさい!
人類はいつから奴等に苦しめられてきたのか。
人類は何故奴等に策を講じて対抗するのか。
それは人類が永遠に解決出来ない因縁なのかもしれない。
これはある少年が奴等と交えた戦いの記録である。
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ーー 俺はなんて馬鹿な事をしたんだ。
彼は後悔した。
ーー どうしてこんな目に遭わなくてはならないんだ。
ーー 何故、力を持たない俺が奴等と戦う事になるんだ。
ーー 奴等なんて、奴等なんて、
「ーー魚の骨なんざ、微塵も残らず滅んでしまえぇっ!」
突然彼の胸にチクリと痛みが走る。
奴等がまた侵攻の狼煙を上げた。
痛みはそれほど大きな物ではないが、その痛みは鋭く、幾度となく攻撃を加える鬱陶しさを兼ね揃えている。
( あぁ、なんて嫌な奴等を敵に回すかな。ホント俺のバカ!)
そんな彼が奴等との交戦を開始したのはつい数十分前の夕食の時間であった。
今日のメニューは白米に秋刀魚の塩焼き。彼自身焼きたての魚は好きだし、秋刀魚は特に好きな部類の物だ。
しかしながら、秋刀魚は奴等を豊富に含んでいる。
身を箸で摘めばそこは奴等の巣窟。
しかし、あの時の彼はそんな当たり前の事すら忘れて奴等をたっぷりと含んだ焼き魚を口に運び、咀嚼もそこそこ飲み込んでしまった。
「ん、くっ」
喉にチクチクと刺激が伝わり鬱陶しい。
「ん?どうした?」
彼の姉が奴等の巣窟を喰らいながら尋ねてきた。
彼は今自らの身に起こっている事態を正直言いたくは無い。
しかし、ここで適当に誤魔化し、後で酷い目に遭ってから助けを求めるのも嫌だった。仕方が無い、ここは負けを認めて白状することとする。
周りも彼の重大な情況を知れば対応が変わるかもしれない。
「い、いや、喉に骨が刺さったっぽくてさ」
「え、何それ?格好悪い」
(姉貴、今はその言葉聞きたくなかった!)
あぁ、何たる恥辱。だが今耐えれば救いの手を差し伸べてくれるかもしれない。ただの希望的観測にしか過ぎないが、彼を絶望の淵に留めさせるには十分である。
その白状があったお陰か早速救いの手が差し伸べられた。
彼のじいさんが、奴等に苦しむ彼に一言。
「そういう時はご飯を飲み込むに限る!」
おお、なんて神々しい。じいさんのドヤ顔が神の慈悲ある微笑みにーーは見えないが、彼は早速試してみた。
(奴等め、今に見てろよ!お前等に粘着性バツグンの拡散弾食らわせてやるからな!)
そう意気込みご飯を一口丸呑みにする。
食道に投下された拡散弾が奴等にひっつき奈落の底へ引きずり降ろす。
奴等がどんどん落ちていくのが体感できた。
「イケる、これならイケるぞ!」
早くも勝利を確信した。
「フフ……ハハハハハッ!どうだ、我が軍の拡散弾の威力は!そのまま堕ちて溶けろ!」
この際だから我が軍とか気にしている暇は彼には無い。
とにかく奴等を落とせば勝てる。
奴等を奈落の底へ叩き落とせば最後、奴等は強烈な酸に溶かされるのを待つのみだ。
しかし、奴等はただで溶けるつもりは毛頭無い。
「ふぅ、治った、治った」
胸の痛みが消えホッと胸を撫で下ろしたその時。
「な、ウソ……だろ?」
奴等特有のあの痛みが再び襲いかかってきた。それも先程よりもやや下の部分で。
「お、おのれぇ……奴等倒されたフリをして反撃の機会を伺っていたか!落ちたのも演技だったって訳か、くそっ!」
魚の骨が演技するなんて話聞いたコトが無いが、仕方ない。彼にとってはそういう奴等なのだろう。
また奴等が地味に鬱陶しい攻撃を繰り出してきた。
(さっきはじいさんのドヤ顔に安易に乗せられたが、次は己の力で奴等を倒す!)
その決意を胸に足早に武器庫へ向かい扉を勢いよく開け放つ。
そこにはフィルムで包まれ冷蔵された武器の数々。
先程の攻撃では奴等は固形物が効かないコトが判明したため、次に選択する武器はーー液体だ!
武器庫には紙のパックに詰められた白い液体と橙の液体があった。
そこから、橙の液体が入ったパックを手にとる。少し量に懸念があったが、仕方ない。なぜなら、白い液体は飲んだら即、他の部位にまで影響が及ぶ諸刃の剣だからだ。
白い液体の方は最終手段として用いる事とし、武器庫に戻す。
「さっきはしてやられたが、今度はこの激流に耐えられるかな?」
少々悪者じみた台詞だが、奴等に向けてであれば丁度いいだろう。
橙の液体を1度口が大きく開いたタンクに注いでから、奴等に向けて激流を放つ。
この攻撃は持続性に欠けるが、一瞬の爆発力は侮れない。
再び勝利の確信を得た。
けれど、安堵する間も無く奴等の反撃が襲ってきた。
「さっきより、痛みが強い……だとっ⁈」
痛みに驚く彼の脳裏に浮かぶのは、流れ落ちてくる橙の滝で精神を研ぎ澄ませている奴等の姿であった。
「痛みの鋭さが増したのはこのためか……」
不覚にも跪く。
だが、これは単に冷たいオレンジジュースを飲んだために食道が冷え敏感になっただけのコト。しかし彼が知る由もない。
「己の力を信じても奴等を撃破するのは不可能なのであろうか」
奥歯を噛みしめる。
こうなっては一大事だ、一刻も早く奴等を処理せねばと彼は謎の使命感に燃えた。
そんな彼に1つの考えが頭に浮かぶ。
今度は母親に作戦参謀となってもらおう、と。
「母さん、骨取れないんだけど」
「えっ、まだ取れてなかったの?」
「だから俺はいろいろ試してるわけ!」
とりあえず彼はそれまでに試した作戦の内容をすべて参謀に報告した。
唸る参謀。表情から察するに何か考えがある様だ。
「固形物もダメ、液体もダメって言ったら残るは……ゲル?」
彼の脳に電撃が迸る。
どうして今まで気がつかなかったのか、固形物としての強度を保ちつつ、液体の様な流動性を兼ね揃えた最高の武器ーーゲルの存在に!
「冷蔵庫にコレあったから、試してみなさい」
参謀は武器庫からゲル兵器”プリン”なる物を彼に渡す。
彼はおもむろにプリンを奴等に向け流し込んだ。
流石はゲル。固形物でありながらするすると滑り落ちて行く。
しかし、それ以上にコイツは……
「う、美味い……」
口に含んだ瞬間に広がるほのかな甘さとコク。
滑らかな舌触り。
そして、プリンを奴等に向けて放った後に残る余韻。
それは兵器として以上に1つの安らぎを彼に与えた。
「ご馳走様でした」
プリンの空容器に合掌する。
それはもはや兵器としてではなく、食べ物としてのプリンに感謝を捧げるためのものであった。
「それで、治った?」
参謀が尋ねる。
「よく分からないけど、普通に美味しかった」
参謀の顔が困惑に染まる。
「あ、そう……良かったわね」
参謀はかなりぎこちない笑顔であったが、彼はそんなこと気にも留めていなかった。
「なんか、もう、いっか」
自然と彼の口からそんな言葉が溢れた。
それは奴等を溶かす事を諦めるというより、奴等を受け入れようという意思がこもっていた。
「そうだよな、いちいち魚の骨ぐらいで騒いでる方がどうかしてるんだよな」
自嘲気味に笑ってみる。
そう、結局のところ奴等への対処は自然に任せるべきなのだ。自分達か気にすれば気にするほど奴等の存在感が増してくる。だから、その事を受け入れ気に留めない。
これこそ奴等と向き合う為の最善の策だと彼は悟った。
奴等が再び侵攻を始める。
「分かった分かった、もう大丈夫だから」
痛みは鬱陶しいものの、それも仕方ないと慈愛のこもった視線を自身の胸に向ける。
「そう、もう気にならない。こいつらを受け入れることこそ最善だよな」
彼はただ奴等の侵攻を受け入れようと考えた。
しかし、そう考えれば考える程に奴等の侵攻が気になって仕方ない。
「気にしない、気にしない、気にしない……」
ついに奴等の侵攻の鬱陶しさが敵対していた時のそれを遥かに越えた。
「気にしない、気になってない、気になって……」
それまで単発での攻撃をしていた奴等がついに一斉攻撃を放ってきた。
彼が奴等に向けた慈愛はガラガラと音を立てて崩れ落ちる。
「もう、もう我慢できねぇっ!なんなんだよ、こっちが折角気にしないようにしてたってのにチクチクチクチクチクチクチクチク鬱陶しいっ!」
彼は息継ぎもそこそこに奴等に向けて最後の言葉を放った。
「ああ忌まわしき奴等よ!さっさと堕ちて溶けなさい!」
その後彼が哀れみを帯びた視線を感じるのにそう時間はかからなかった。
少々勢い任せの文章になってしまいましたf^_^;
今は歴史系統の話を書いてますが、投稿は暫く先になったしまいそうですw
評価、感想お待ちしております( ´ ▽ ` )ノ




