何事か
俺が道を歩いていたら、急に叫び声が聞こえた。
下げていた軍刀の柄に手をやりながら、走っていく。
「何事だ!」
俺が持っている軍刀と、さらに軍服と肩章を確認すると、叫び続けている女性を置いて、男が4人ほど逃げていく。
路地裏は狭く、女性が邪魔で向こう側に通れないほどだ。
だが、一本道と、誰かが騒ぎを聞きつけたらしく、ドスの利いた声が響いてくる。
「お前らぁ、なにをしとるんやぁ!」
聞き覚えのある声だ。
だが、それを考えている暇はない。
女性を介抱しながら、その人へと視線を向ける。
同じような服装だが、明らかに憲兵だ。
「女子を強姦しようとは言語道断!来い!性根を叩き直してやる!」
そう叫びながら、軍刀を抜く事なく、拳骨で全員をたたきのめし、さらにどこかへ引きずっていった。
「大丈夫ですか」
俺はその間に女性に聞く。
「ええ、ありがとうございます。危ないところを……」
「いえ、いいんです。これも、軍人の務めですから」
俺が言うと、駆けつけた警察に女性を預ける。
それから、憲兵所へ悠々と向かった。
「隊長はおられるだろうか」
憲兵詰所へ出向くと、制帽を脱いで、受付の人に聞く。
「儂に何の用だ」
声が聞こえた方へ向き、敬礼して用件を述べる。
「さきほど、助けていただいたお礼を言いに来ました。どちらかは分かりませんでしたか」
「おお、それなら儂だな」
答礼をしてからガハハと笑い、それから俺の方をばしばしと叩く。
「しかし、反対側にお主がおってよかったよかった。向こう側に逃げられたら、どうしようかと考えておったのだよ」
「はあ…」
敬礼の手を下げながら、俺は答える。
「それで、あの女性はどうだった」
「病院に運ばれましたが、大丈夫でしょう。どうやら未遂だったようです」
「ふむ、ただ、未遂であっても、強姦しようという意思はあったはずだ。どうしようもないクズだな」
ボロクソに言い続けている憲兵隊長だが、それから静かになって言った。
「ま、なにはともあれ、女性が無事であればよかった。どうだ、これから休みなのだが、一杯付き合わんか」
「ええ、お伴させていただきます」
そして俺たちは、夜の街に再びでていった。