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作者: そらのはて

 夏でジメジメした教室に

「あちぃな」


 っと一言つぶやく。

半袖の白シャツが汗でぐっしょりになる。


 8時前の教室にはまだ誰もいない。

まあ、こんな朝早くから教室にいる奴はたいてい変わり者か真面目君に生徒指導を受けている不良ぐらいだ。

 じゃあ、朝早く来ているオレは変わり者ってか。


 教室には鳩の鳴き声の静寂に響き渡っていた。



「浅見おまえ朝早いって変わってるな」



 教室の後ろに座っている浅見という女に話し掛ける。


「あんたほどじゃないけどね」


 こいつはすこぶる朝の機嫌が悪い。

見た目はギャルっぽい不良。

ミニスカに眉剃り。


「なんで朝早いんだ?」


 浅見はため息をつき、 オレの目に散らかせるように自分の右手を見せた。


 ふと手の甲を見ると青くなっている。なんで朝早く来てるのかは一目瞭然だった。

 もっと女の子らしくすればいいのに。


「マジ、一年下にガンつけてくる奴がいたからちょっとしょっぴいただけなんだけどねぇ」



「ふ〜ん」


 オレはそれだけの会話を終わらせ自分の席に着き机に頭を伏せた。



――――

 浅見と初めて出会ったのは・・・そうだなぁ、お互いに物心が付いたときには既にそばにいた。

 あの頃は家が近くて知らない間に仲が良くなっていた。

学校から帰るとよく遊びに行った気がする。

 今となれば友達関係とかで男、女二人で遊ぶとかありえない事だけど。

それにしても変わったなアイツ。

ギャルに不良か。

 絶対、怖くて男とか寄り付かないだろうな。

・・・ってオレも男か。

 昔からの付き合いだから怖くはないんだよな。

幼なじみ、そんな言葉で片付けられないよな。


 浅見とオレは二人で一人だった。


 浅見はオレの半身であり

 オレは浅見の半身だった。


 初体験は中3だったかなあ。

 浅見が

「ね、あたしたちってこれからもこんな感じなのかな?」

 浅見は無言のままオレの体に体重を預ける。


 オレは浅見の髪の中に静かに顔をうずめた。言葉にせずともお互いに何をするとか何を求めるとか分かっていた。


 二人は元々一人だった。

 そして二人には甘く切ない恋というのはなかった。

 ただ当たり前かのように一緒になっていた。



――――

「あんたいつまで寝てんの?」


 目を開けると浅見の顔が見えた。

 どうやら、朝からずっと眠っていたらしい。記憶が曖昧だ。


「朝早く来ても意味ないんじゃないの?」


 浅見は前の机に尻をついたまま目を覚ましたばりのオレを見下ろす。


「今、何時間目?」


「昼休み」


「すげえな。先生とかよく起こしにこなかったな」


 浅見が呆れたように言う。

「全部移動教室だったからね」


「そっかあにしても腹減ったな。飯どうしよっかな」


「あんた、のんきだね。それより体調とか大丈夫?」

「ん、いやそんな事はないけど。」


 ・・・嘘をついた。

実際には、最近体調が悪い。

 何故か急に眠気が来て、まるでオレが消えそうになる。

 いつもなら一緒になる時ぐらいなのに最近は思い出すだけで・・・。


「ねぇ昔の事思いだしてたの?」


「ああ、よく分かったな」


「もう思いださないで。なんかイヤな予感がする」


「分かってる」


「じゃないと・・・アンタ」


 浅見が真剣な眼差しでこちらを見る。 


 見せられる。


「分かってる。分かっているから口に出さないでくれ。出したらもっとなりそうな気がする」


 自分で言った事に怖くて浅見の鋭い視線をそらした。


「・・・」


 浅見は何事もなかったかのように席に座った。




 まただ、浅見とオレと思ってる事がわかり合えてしまう。

 これが彼氏彼女とかなら、まだしもオレ達はそんな関係じゃない。

 二人が一人。

 オレは浅見の半身であり、浅見はオレの半身。


「私、なんか雅史が消えそうな気がする」


 そんな事を言ったのはいつの日以来だろ。

それからだ。 オレの体に違和感を感じ始めた。


「ねぇ、しよ」

 曇った浅見の声。

いつものように身体を重ねた。

 だが急に

オレはここから消えてしまうという錯覚に捕われた。 いや、そうなろうとしたかもしれない。


「ちょっ!コレ以上はダメ・・・!」


 浅見もそれが分かったらしく。



「なんか雅史が私の中に吸い込もうとした」


 そんなことを口走った。

 乱れた服を整えそして


「やっぱり終わらせよう・・・この関係を」


「じゃないと、あたし耐えられない。雅史が、雅史が消えそうで」


「浅見・・・」


 オレの渇いた声がでる。


「お願い・・・・・」


 そう言った途端、浅見の目から涙がとめどなくながれた。



 それから一ヶ月、二ヶ月と過ぎ

 半年、そして一年。

 オレ達は一言も言葉を交わさなくなった。

 そして、オレと浅見の関係は終わりを告げたかと思った。




 だが、その終わりはまだ終わらなかった。


 二人の関係はそこで終わらなかった。


「ねえまた始めみたいの」

 約一年ぶりの会話。

あの屋上の上に呼びだされた。

 夕日が眩しく茜色に光る。

 浅見から話し掛けてきた。 伏せ目だった浅見がオレのことを直視する。


「あの時みたくじゃなく友達でいいの。あんな触れ合いはもう・・・イイ。だからお願い」



「ああ」


 終わらせようとしていても終わらない関係。

 見えない何かが二人を一人にしようとしていた。



――――

 そして、今もまた放課後に呼び出された。

 あの屋上の上。 夕日が眩しく茜色に光る。


「ねえ覚えている。あの時の事?」


「ああ」


「わたし・・・あなたのそばにいたいの」


 浅見がしゃくり上げた。

 不良には似合わない涙を流していた。

 そうだ、あの時からだ。

 浅見は変わろうとしていた。 オレの事を嫌いになろうとしていた。

 でも、出来なかった。

 見えない何かが二人を一人にしようとしているから。

 オレは浅見の髪の毛にそっと髪を埋めた。


「浅見・・・」


「違うの雅史。私ひとつになりたいんじゃなくて一緒にいたいだけなんだよ」


「そうじゃないだろ。分かってんだぜ。オレは浅見の半身であり浅見はオレの半身なんだ。だから・・・」


「雅史だめ!消えちゃう」


「大丈夫だ。心配するな」

「本当に?」


 だが答えとは裏腹に

二人が一人、オレ達がひとつになっていくのを感じられた。

 オレが浅見の中に溶けていく。

 温もりに埋没していくかのように。

 消えていく中浅見の声が聞こえた。


「雅史!待って雅史!お願いだから。ねえ!」


 オレの意識はだんだんと遠ざかり浅見の叫び声だけが聞こえた。


「雅史、一緒にいるっていったじゃない」


 ごめんな、浅見。

 そして、さよならだ。

 意識はそこで途絶えた。







 それから三ヶ月

今日も放課後の屋上に来てあの茜色の夕日を見て私はアイツの事を思い出す。

 まるで、夢のような出来事だった。

 アイツが私。

 私がアイツ。

 今でもアイツは私の中にいる。



 ねぇ、アンタはこんな結末でよかったの?


 別にいいんじゃねえの

オレはお前でお前はオレだから


 そんな声がどこからともなく聞こえた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 初めまして、RYUNです。主人公と相手の女の子がすれ違い、最後には一つになってしまうという切なさがよかったです。あと、相手の女の子が不良っぽい女の子、という設定は、(個人的にですが)よかった…
[一言] はじめまして。評価させて頂きます。 まず、文法の間違いが気になりました。 会話も繋がってないように思い(読み直して繋がってはいると確認しました。何とか)引っ掛かる部分がありました。 後は設定…
[一言] 二人の不思議な関係によって生じる切なさの描写が良かったです。ただ(僕も人のことは言えませんが)脱字や句読点の打ち忘れなどは少し気になりました。これからもいい小説を書いてください。
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