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5 会議は踊る 前編

女王様視点です。

彼女は鈍い訳ではない様です。




蒼司のヤツったら、アレは一体、何の真似なの?


『枝里ちゃん』ってなにさ?


聞いた時には鳥肌が立ったわ。


おまけに、あたしと『幼馴染』ですって?


アンタとあたしは、ただの従姉弟同士でしょうが!


確かに小さい頃からよく知っては居るけどね。


アイツは親の転勤で高校に入るまでは全国行脚をしてたから、滅多に顔を合わせた事なんてなかった。


それにウチのパパとママに会いたいだぁ?


嘘吐け!


アンタは小さい頃にあたしのお下がりで女装させられてから、二度とウチの敷居を跨がないと決めてる癖に。


そして極め付きが、あたしの『手料理が食べたい』と来たもんだ。


お前はウチのママやあたしが作る料理を『庶民の味』っていっつも馬鹿にしてただろうがよっ!


ああ、そうとも!ウチは確かに庶民ですよ!


アンタんちとは違ってね!


でも、お前の親父は公務員だろうがっ!


伯父様はあんなに素敵な方なのに、息子はどうしてあんな性悪なんだろ?


『いやぁ、爆笑すんのを堪えるのに苦労したぜ。枝里が秘書だなんてさぁ。女王様のお前に務んの?』


会った翌日に掛かって来た電話でのこの無礼さときたら、大した二重人格だと思うわ。


ふざけるのも大概にしとけっての。


「蒼司、アンタ、調子に乗り過ぎると痛い目見せるよ。やっと婚約にまで漕ぎ着けた彼女にアンタの恥ずかしい写真、見せてやるから」


恥ずかしい写真とは、言うまでもなく幼い蒼司があたしとあいつの母親に無理矢理女装させられた証拠写真である。


『ゲッ、アレは全部処分した筈だぞ!』


フッ、詰めが甘いのよ。


「ウチで撮った写真なんだから、データがウチにあるのは当然でしょ」


フィルムの時代と違って、デジカメのデータは幾らでもコピー出来るんだから、完璧に処分するなんて難しいに決まってんじゃないの。


「今度、パネルにでもして送ったげるわ。オホホホ」


高笑いするあたしに、流石の俺様・蒼司も参ったらしい。


『枝里様、申し訳ございませんでした』


多分、電話の向こうで土下座をしている事だろう。


「これに懲りたら、あたしやあたしの上司にヘンなちょっかい出すのは止める事ね」


『でもよ、お前の上司・・・大沢さんって、ミエミエだろ?俺にあんな視線バンバン飛ばしちゃってさ。モテるねぇ、枝里ちゃん』


うるさいわ!


「余計なコト言ってると、泣かすよ」


『おお~コワッ!流石は女王様だねぇ』


あたしは憮然となりながら電話を切った。


誰の所為であたしがこんな性格になったと思ってんのよ!






翌週の月曜日の朝、あたしは朝霧さんに呼び止められた。


「君は大抜擢されて浮かれている様だが、僕はずっと社長のお傍に居る為に頑張って来たんだ!君なんかに、僕は負けませんから!」


おっとぉ・・・宣戦布告ですか?


それも、これって、どうやら仕事上の事だけではない、よね?


へぇ~!朝霧さんって、そっちの人だったのかぁ。


あたしが返事をする前に、生憎と噂の主が現れたので、あたしは言われるが儘の状態になってしまった訳だが。


うう~ん、困ったもんだ。


確かに、蒼司や朝霧さんに言われるまでもなく、あたしは上司のあたしに対する態度というか気持ちに気付いていない訳じゃない。


だって、蒼司と会った時の態度と言い、日頃から何かにつけて一緒に居る事を強要したり、連れて回ったり・・・最初は秘書だからかな?と思ってたんだけど・・・仕事帰りに誘うような素振りを見せたり、と流石のあたしですら気づくってモンです。


でもねぇ・・・確かに、上司としては以前の上司よりアホでもバカでもないし、尊敬出来るところがあるのを認めるのは吝かではないけど。


恋愛対象として見られるか?って言うと、正直難しい。


年も結構離れてるし、仕事が出来ても、男としてちょっと情けない処があるのよね、あの人は。


思い返せば、初めての出張の時だって誘いに来たのにスケジュールを聞く振りをしたり、その後もあたしを誘おうとして悉く失敗している。


なんなの?あのヘタレ振りは?


仕事の用件なら、あんなに強気で強引なのに、それ以外のプライベートではダメダメじゃないの。


今度も米国本部での会議への同行を命じられた。


最初、それは朝霧さんが行く筈だったのに、彼は残念ながらお留守番だそうだ。


気の毒に、彼の気持ちは一向に届く気配もないらしい。


外資系ならではのクォーターエンド、つまり四半期決算報告の為の全体会議は三カ月毎に行われる。


日系企業なら年に一度か二度で済むのに、四回もあるとは面倒臭い。


それに、米国かぁ・・・アイツも会議に出るよね、当然。


はぁ・・・会いたくない・・・アイツらに。






「滞在中の宿泊先はホテルじゃなくて構わないそうだが、君はその・・・」


飛行機の中で、あたしは上司から聞き辛そうに質問された。


まあ、今更隠したところで無駄な抵抗だ。


あたしが入社する時の父親以外の保証人は伯母で、その人が我が社の株主の一人である事は知ってる人なら知られている事だから。


経営陣に血縁者がいると思われていても不思議じゃない。


「親戚の家に泊らせて貰うつもりでいますので」


因みに、保証人である伯母と、今回泊らせて貰う伯母は別人だ。


「君はその・・・」


ああ、もう!はっきりしないヤツだな!ホントに!


「わたくしの父と今回世話になる伯母は異母姉弟なんです」


ウチの、と言うよりあたしの父親の家庭の事情は些か複雑なのである。


母親に兄弟は居ないが、父親には婿養子に行った蒼司の父親である兄と双子の姉、そして米国に異母姉が居るのだ。


因みに、ウチの父も婿養子なので、同姓の親戚が一人も居ないといった状態なのである。


保証人に父の兄ではなく双子の姉を選んだのは、有名な財閥の名前と関係付けられる事を嫌ったからに他ならないのだが、縁故入社のコネを使ったのだから、あまり意味が無い結果ともいえる。


保証人になってくれた伯母も、地方だがデカイ病院に嫁いでるし。


ウチ以外はみんな金持ちで名家ばかりなので気が引けるが、使えるコネは使うべきだ。


背に腹は代えられない。


教師の父と専業主婦の母の間に生まれて、庶民の生活を送っているあたしだが、親戚だけは何故か豪華絢爛なのだ。


そして、困った事に、その複雑な兄弟達の子供達の中で、何故か女の子があたしだけ、なのだ。


それ故か、伯父達や伯母達に年上の従兄達から妙に可愛がられ、年下の従弟達からは嫉まれた。


あたしの所為じゃないのに。


もちろん、あたしは黙って嫉みから来る虐めを素直に受けてなど居なかったが。


受けた仕打ちは何倍にもして返してやった。


蒼司があたしの事を『女王様』と呼ぶのはそんな理由からだ。


最も、そんな事が出来たのは、あたしが年上で巾を効かせられた子供の頃だけだが。






空港に到着すると、不安は的中した。


態々出迎えに来んなよ!


仕事はどうした!


「エリィ!久し振りだね!会いたかったよ!」


あたしは日本人なんだ!


米国式のハグやキスといった挨拶には慣れてないし、嫌いだと何度言えば理解してくれるのだろうか?


「お久し振り、キース。元気そうね」


あたしは迎えに来た同じ年の従兄に引き攣った笑顔を浮かべた。


あ~あ、上司が隣で硬直してるわ。


「君も元気そうで良かったよ!相変わらずロリロリで可愛いね」


ゲロゲロ、これだからコイツは嫌なのよ!


「あなたの趣味も相変わらずなのね」


父親が日本人のキースは、日本人寄りの顔をしているが、それだけでなく趣味まで日本人に近いアニメオタクなのだ。


特にロリコンものが好きらしく、小さい頃からあたしにスクール水着を着せようとしたり、メイド服とかセーラー服とか奇妙な格好をさせたがる変態だ。


あたしが背が低くて幼く見える事を気にしてるのを知ってる癖に!


海を隔てた米国に居るからと安心していたのに。


やっぱ、縁故入社は拙かったのかな?


伯父様と伯母様はとってもとってもいい人達なんだけど、キースは変態だし、その兄貴のエドは女性の敵である女たらしだ。


キースは日本人とは言え端正な顔立ちの伯父様によく似ているし、その兄のエドは金髪碧眼の母親似であるし、蒼司も今でこそ男にしか見えないが小さい頃はとっても可愛くてフリフリピンクのワンピースが持ち主であるあたしよりも似合っていた。


父の双子の姉である伯母の処には、双子の息子がいるが、こいつ等も美男美女の両親のイイとこ取りでイケメンだ、性格は悪魔の様だけど。


あたしも恥ずかしながら、父親が日米混血なので1/4ほど海外の血を受け継いではいるが、母親が純正日本人の上に地味な顔をしているので、従兄弟たちには遠く及ばない。


みんな揃って両親の血を引いて綺麗な顔をしているっていうのに、中身がアレじゃあね。


あたしが面食いじゃないのもトラウマみたいなもんかな?


従兄弟たちと言い、上司と言い、朝霧さんと言い、あたしってつくづく男運に恵まれてないよね・・・


ああっ!ストレスは溜まる一方だ!






女王様の秘密・・・と言う程のモノでもありませんが、背景を説明いたしました。

幾ら美形でも、性格が悪くてはダメダメですよね。

とは言っても女王様もその血を引いているので、かなりイイ性格をしてますけど。


次回は、立ち直れるのか?ヘタレ上司、の視点で。



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