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3 接待は再会の予感



あ~あ、バレちゃった。


昨今は喫煙者に対する風当たりが厳しいから、隠してたんだけどな。


米国じゃ肥満と一緒で出世にも影響が出る程だって聞くし。


でも、煙草に含まれるニコチンには鎮静作用があってね、ストレス発散には一役かっているのよ?


特に、コーヒーやお酒との相性は抜群にイイし・・・って言い訳か。


それにしても、仕事が終わったってのに部屋まで押し掛けて来るなんて!


秘書に依存するのもいい加減にして欲しいわよ!


自分のスケジュールぐらい自分で管理ぐらいしろっての!


ま、それがあたしのお仕事なんですけどね。






新しいあたしの上司である大沢洋樹は36歳でCOO就任2年の仕事人間。


以前の上司とは才能も容姿も月とスッポン。


なのに何故か独身。


狙ってる女性は多いけど、浮いた噂も影も見当たらない、らしい。


秘書室の女性陣の間では、既に同棲して結婚秒読みの相手がいるとか、恋人とは遠距離だとか、女に興味はないのだとか、根拠も証拠もない噂ばかりが聞こえて来る。


まあ、確かにあの年にしては若々しいし、イケメンの部類に入るだろうし、身体つきも結構がっしりとしている、とモテる要素がテンコ盛りなのに、女の影が無いとあっては、色々な噂も絶えないのも無理はない。


でも、あたしは知っている。


トップに近い人間程、忙しくて結婚どころか、女と遊んでいる暇なんてない事を。


朝早くから予定は埋まり、夜遅くまで拘束され続けて、土日祝日も出勤や出張の移動に取られたりと自由な時間が少ない。


普通なら、それほど偉くなる前に相手を見つけて家庭を持つ事が可能だろうけど、そんな時間が持てずに出世してしまった人間には相手を探す暇なんてないのだ。


だから、そう言った人達の場合、周りの人間が気を利かせて、それなりのお嬢様を紹介して結婚する人が多いんだけど、生憎と彼はその機会に恵まれなかったらしい。


気の毒に。


傍で見てれば判る。


彼が如何に女性に対して不慣れで怯えているかが。


社員の飲み会には参加しないし(内田さんの送別会には流石に参加してたが)接待の席に現れる女性には近寄らないし(ホステスといったプロにも)用事があって一度だけ訪れた自宅のマンションにも女性の影は無かった(自宅があまりにもショボイ事にも驚いた。あれじゃあたしのトコと間取りも家賃も同じ位なんじゃ?)


独身生活が長い所為か、自分で一通りの家事も出来るらしい。


家柄だけでエリートになった奴等とは違って、庶民の出である彼は自己管理も怠らずに時間を見てはスポーツジムにも通っているらしい。


出張中でも朝にはランニングとかしてたのには驚いたけど、ジムに行く時間が取れないからと、昼休みに会社の非常階段を上り下りしてた時にはもっと驚いた。


ま、体力がなけりゃ仕事をバリバリこなすのも難しいから、当然か。


一見、セレブのようでそうじゃない上司に、あたしは最初感じていた偏見を少しずつ拭うようにはなっていたが、尊敬までには至らない。


だって、仕事だけってのもどうよ?


馬車馬みたいに働かれたら、それに付き合わされるこっちだって大変なのよ。


朝霧さんと分担してるけど、手当てが出ても休日はやっぱ休みたい。


休日の前日の夜は友達同士で愚痴を言い合いながら飲み明かしたいし、休みの日はお昼近くまで怠惰に寝て過ごしたいし、折角増えたお給料で思いっきりショッピングも楽しみたい!


それを、それを・・・あの仕事大好き人間のお陰で、悉く潰されてしまうのってどうよ?


恨み辛みが重なるってモンじゃない?


それでも、あたしは真面目に出社しては仕事人間の上司と今日も向かい合う羽目になる。


ああ、母親から叩き込まれた『働かざる者食うべからず』の教えが憎い!


今日も密かに恨みがましい視線を上司に投げ続ける事で憂さを晴らす事しか出来ないのか?






「今夜の懇親会には君にも参加して貰う」


おいおい、またかよ?


「いい加減にお相手を見つけられてはいかがですか?」


今夜行われるのは経団連絡みの小規模な懇親会、と言う名の宴会だ。


最近のこう言った集まりには日本でもパートナー同伴だったりするので、よくお呼びが掛かるが、食事も面子もガッカリな集まりになんて行きたくないのが本音だ。


その場に相応しい服だって用意しなきゃならないから出費も馬鹿にならない。


さっさと結婚するなり、恋人を見つけるなりして、一緒に行く相手が秘書だなんて、惨めな生活から脱して欲しい。


あたしの切なる願いは一睨みだけでスルーされた。


「朝霧さんでは駄目ですか?」


明日は休みなのよ!


貴重な休日前なのよ!


ゆっくりさせて欲しいよ~!


あたしの必死の抵抗を上司は「男同士で何が楽しいんだ?」の一言で切り捨てた。


あたしの楽しみはどうしてくれるんだ!


クソッ!心の中で罵倒するくらいは許して欲しい。


バカバカバカバカ、アホ、仕事馬鹿、労働基準局に訴えるぞ!


だけど、いくら詰った処で予定は変わらないのだ。






うむむ・・・やはりジジィとババァばっかり。


飲み物もビールと水割りとウーロン茶だけかよ?


食事に至っては、アレを食事と呼ぶのもおこがましいような、乾ききった料理のバイキング。


立ちっぱなしはキツイなぁ~と考えながら上司を放ったらかしにして、とにかく夕食代を浮かす為にも腹を満たそうと壁際で食べていると、声を掛けられた。


「あれ?枝里ちゃん?どうしたの?こんなトコで会うなんて?」


げげっ、嫌な奴に見つかってしまった。


経団連の、と聞いた時にも嫌な予感はしてたんだけど、小規模だって言うし、奴はこーゆーの嫌いだから大丈夫だと思ってたのに。


おまけに、上司にまで見つかってしまったらしい、こっちに歩いて来るのが見える。


コイツと知り合いだと知られると厄介だわ。


今までだってそれを隠す為に色々気を遣って来たんだから。


あたし、ピーンチ!







やっと出て来た上司のフルネーム。

振り仮名振ってませんが、おおさわ ひろき、です。

ライバル登場?

ピンチなのは女王様だけではない?


次は上司視点です。


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