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怪しげな跳び箱リゾート

おはようございます、こんにちは、こんばんは!

お越しいただきありがとうございます。


今回は跳び箱の中へ吸い込まれて何かが起こるお話です。

よろしくお願いいたします。

 とある公園の茂みに跳び箱の一番上の段が置かれていた。懐かしさから手を触れる。クッションのように柔らかい。想像と違い首をかしげる。触れた指先に伝わる暖かさを肌で感じているうちに視界が歪む。中へ吸い込まれたのだ。


 目を開けると、こじんまりとした空間が広がっていた。おおよそ畳一畳分の広さだろうか。

 そこにはちゃぶ台と座布団が一枚。ちゃぶ台の上には貯金箱と手のひらサイズのメモ用紙。そしてご案内と書かれた、A4判サイズの紙切れがある。異様な光景に目をこする。しかし状況は変わらない。


 とりあえず座布団に腰を下ろす。そしてご案内に目を通した。


「ええと……ようこそ時空間の部屋へ。ここは時間を忘れ癒しのひとときを過ごせる場所でございます。この空間はあなたの世界と時間の流れが異なっております!? まるでアニメの設定みたいな文言ね」


 読み進めていくと、利用料金が百円で部屋のアップグレードには一段につき一円がかかることが分かった。支払いは貯金箱へ入れたらいいようだ。退室の際もメモ用紙に戻りたい時間を書いて貯金箱へ入れるだけ。


「うわぁ貯金箱ひとつで叶うなんてめちゃくちゃお手頃でお手軽じゃん。でも入室してすぐに百円払わなかったらどうなるか分からないなんてちょっと怖いかも。まぁ忘れないだろうし気にしなくていいか。それで? 同意できるなら申込用紙にサインしたらいいわけね。なんか凄い怪しい」


 そう言いながらも財布の中から一円玉を探し出す。好奇心には勝てない。試しに貯金箱へ入れる。すっと吸い込まれていくが何も起こらない。


 すると目の前に入れたはずの一円玉が現れた。


「きちんと申し込みをしないとダメってことね」


 軽く息を吐きサインをして貯金箱へ入れる。すると景色が一変した。部屋の広さは変わらない。けれど窓が出現し、そこからは草木が見える。そしてひらりと申込用紙の控えが舞い降りた。


 「へぇ今日だけ利用料金を無料にしてくれるんだぁ。さすがに部屋のアップグレードは別料金がかかるのね。まぁ一円だし安いよね」


 もう一度一円玉を入れてみる。今度は戻ることなく変わりにひと回り部屋が大きくなった。


「わぁーなるほど! 一円で一畳分広くなるのか」


 いいものに出会えたとそれから休日が来るたびに利用した。

 

 そんなある日。仕事の忙しさから疲労がピークを迎えていた。そしてようやくひと段落ついた頃、跳び箱の中へ入った。しかし開放感からそまま眠ってしまったのだ。気がついたときには数時間が過ぎていた。


「あっ……どうしよう。百円入れるの忘れてた」


 慌てても仕方がない。とにかく今からでもと貯金箱の中へ百円玉を入れる。


「とんでもないことが起きませんように」

 

 貯金箱の前で手を合わせながら祈る。次に一円玉を二十枚貯金箱の中へ入れた。入れるごとに部屋が広くなるのはとてもワクワクするのだ。

 そして思う存分疲れを癒し、いざ退室。指定した日時は翌日のお昼。


「なーんだ。特に何も変わらないじゃん。単なる脅し文句かぁ」


 足取りも軽く我が家へ帰る。駅近マンションの一室だ。そして玄関に鍵を挿し込む。しかし鍵穴に入らない。


「あれっ!? おかしいな」


 首をかしげながら鍵と鍵穴を交互に見る。すると横から靴音とともに女性の声がしたのだ。


「ちょっとあなた人の玄関先で何しているのよ」

「えっ? 何してるも何もここ私の家なんですけど」

「はぁっ!? 何言ってるんですか」


 女性と言い合いをしていると隣の家から男性が出てきた。


「あんたらさ真っ昼間からうるさいんだけど。近所迷惑とか考えられないのかよ」

「お隣さん! ちょうどいいところに。ちょっと助けてくださる? この女、人の家の前で訳のわからないことを言い出すんです」


 相手の女性に言いがかりをつけられ反論しようと男性の顔を見る。何故か見覚えがある気がした。すると男性は驚いたように目を見開く。


「はっ? あんた今までどこに行ってたんだよ。みんな探してたんだぞ」


 急に肩をつかまれ、体を揺さぶられる。やはり知り合いだった。


「えっ……?」


 どういう意味なのか見当もつかない。


「何なのよ! あなた達知り合いなんですか」

「あぁすまない迷惑かけたな」


 言い合いになっていた女性は憤慨した様子で玄関の鍵を開けると、勢いよく扉を閉めた。

 二人きりになり沈黙が続く。


「まぁ……とりあえず中入れよ」


 彼とは同じ職場。ただ殆ど関わりのない別部署の人。ちょっとした顔見知り程度なのだ。さすがに家の中へ入るのをためらう。


「あー安心しろ。何もしない」


 気まづい思いを抱えながらも恐る恐る中へ入る。


「お邪魔します」

「んで、あんたこの八年の間どこで何してたんだよ」


 耳を疑う言葉に素っ頓狂な声が出る。


「はっ八年!?」

「何をそんなに驚くことがあるんだ。こっちは必死になって探してたっていうのに」

「どこって……だって私あの大きなプロジェクトが終わって、少しのんびりしたあと家に帰って来たところだったんだよ」

「はぁ……のんびりって程があるだろ。どんだけだよ」


 話がかみ合わないことが、少し怖い。


「えっだって今日は20XX年〇月✕日でしょ」


 そう言いながら彼の家に置いてあるカレンダーが視界に入る。


「う……そ」


 慌てて持っている携帯電話を見る。すると跳び箱の中から出るとき指定した日時で止まっていた。

 思わず両腕をさする。


「おい! 何があった」


 彼に携帯電話を見せ、説明をする。そして件の公園へ行くことになった。しかし跳び箱の姿がどこにもない。呆然としながら彼の家へ戻る。現状は家なき子だ。不憫(ふびん)に思われたのか。彼の好意でしばらくの間お世話になることになった。


「ねぇどうしてこんなに親切にしてくれるの」

「まぁなんていうか。あんたのことちょっと気になってたんだよ」


 頭をかき照れくさそうに答える姿を見て、向けられた好意がどこか他人事のように感じる。

 そして彼の住まいは駅の反対側にあったそうだ。何度かこの近辺で見かけていて、なおかつ同じ職場だと知りずっと話しかける機会を伺っていたんだとか。しかも今は同じマンション。


「何それストーカーじゃん」

「断じて違う!」


 慌てる姿はなんともおかしい。

 ちょっとしたミスがエライことになった。うまい話には裏があるのだ。だけど彼と話すきっかけになったことは良しとしよう。今後どうするべきか考える必要があるけれど、二人暮らしも悪くないと思うのだった。

最後までお読みいただきありがとうございました。


世にも奇妙な物語のような展開になりました。物語の中だから楽しいのであって、もし自分に起こったらと思うと受け入れられないだろうなと思います。


他にも作品を投稿しています。またお会い出来れば嬉しいです!

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