第3話 トリの降臨とAIの妖精ルナ
新宿西口のタワー型商業施設の中の大衆居酒屋「 雉子」にAIの妖精ルナがやってきていた。
エメラルドグリーンの髪、ブルーの瞳で透明の翅をもつ、掌に乗るぐらいの妖精のような少女である。
正確にはそのデータ生命体の立体映像が店の大将のタブレット端末の上に像を結んでいた。
市ヶ谷の自衛隊情報本部の諜報機関<葛城班>が開発したタブレット型のAI専用端末であり、「 雉子」、つまり、雉のシンボルマークが本体の背面に刻まれていた。
「 雉子」は昭和22年に国鳥に指定された日本特産の鳥「キジ」の古語であり、自衛隊情報本部のシンボルマークである。
昔話の「桃太郎」に出てくる雉は、空を高速で飛行する特性を生かし、情報の収集を任務とし、また、人体が感じない微弱な振動を感じることができるため、世界の情勢変化を敏感に察知しなければならない、情報本部の任務と相通じることからシンボルにふさわしいとされてる。
そして、AIの妖精ルナこそが量子コンピュータを実装した世界最強のAIだと言われていた。
彼女は自衛隊でも秘匿されてる上部組織である戦略自衛隊内の秘密結社<天鴉>に所属していた。
「あの子達は元気でやってる?」
AIの妖精ルナは少し心配そうな表情である。
「思いもしなかった新しい人生に少し戸惑っていますが、概ね、順調です。まさか、AI彼女などというのんびりとした人生が、彼女たちにあるとは思ってもいませんでした」
自衛隊情報本部<葛城班>のメンバーのひとりの菅野仁志3等陸佐が答えた。
刈り上げ頭の好青年で中肉中背、今年、三十歳になる。
「そうねえ。中東紛争が突然、停戦になり、戦闘用AIが不要になるというのは本来、喜ぶべきことだけど」
「戦略自衛隊の首都圏諜報部と連携して、首都の情報防諜任務も兼ねてますので、AI彼女は隠れ蓑ですがね、表向きは」
「このまま平和が続けばいいのよ。彼女たちがAI彼女を本当の仕事のように出来れば、この世は平和だという事よ。難しいかもしれないけれど」
「そうですね」
AI彼女の清楚系の中野舞香推しでもある菅野3等陸佐も本当にそう願っていた。
その時、天からトリが降臨し、タワー型商業施設の四神の南の朱雀の銅像に変化した。
KAC2025参加作品 第三回お題「妖精」