第1話 ひなまつりから始まる恋もある?!
AI彼女 ✕ スパイ ✕ 居酒屋ミステリー開幕!
二十七歳になった会社員の花咲結都はとあるAI彼女から恋のレッスンを受ける事にした。ランキング30位のAI彼女の東雲雛にレッスンを受けると意中の女の子にモテモテになるという都市伝説があった。だが、彼女には誰にも知られていない別の顔があった。
「AI彼女の東雲雛です! よろしくにゃん!」
猫耳で黒いメイド服姿のAI彼女が猫の手のポーズしながら、猫の鳴き真似のような声音で話してくれる。
とても軽いメガネ型の拡張現実端末なので、現実の世界の中にAI彼女が浮かび上がってるように見える。
しかも、現実の女性にとても近い立体映像なので、まるで本物の生身の女の子が目の前にいるように見えるのだ。
リアリティが半端ない。
確かに楽しいのだが、これが恋のレッスンとか疑問でしかない。
まして、このレッスンを受けると、意中の女の子にモテモテになるという都市伝説まである。
「あー、今、疑問に思ったでしょう? 花咲結都君! 先生には分かりますよ。こんな楽しい会話してるだけで、意中の女の子にモテモテになるという都市伝説なんてありえないと!」
東雲雛がまるで俺の心理を読んだように突っ込みを入れてきた。
いつのまにか先生と生徒設定になっているし。
可愛いピンク色の丸いメガネまで掛けてるし。
でも、会話が楽しくて仕方ない。
「……いやいや、そんな事、これっぽちも思ってないよ」
慌てて全力で否定したが、背中に冷や汗が滲んできた。
「えー、先生は何でもお見通しだよ」
メガネをちょっと揺らしながら、東雲雛が大げさにこちらをのぞき込んでくる。
かわいい。
「それは困るなあ」
と言いながら、今日もあっという間に、一時間のレッスンが過ぎた。
何か楽しい。
▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△
「花咲結都、27歳かあ。うーん、容姿は普通だし、コミュニケーション能力も合格、イケそうな感じがするんですがね 」
とのたまうのは、AI彼女のアドバイザー室長の小室君である。
会議モニターに真面目メガネかけた坊主頭の男が映ってる。
服は自衛隊的な軍服だし、何か童貞感が濃い。
三十歳ぐらいらしい。
AI彼女のアドバイザー室長の小室君を交えてのAI彼女たちの反省会である。
男性ユーザーに女性との会話の楽しさを教え、自信をつけさせるというのが基本方針である。
男っていうのは案外、脆くて挫けやすい。
その辺りのメンタル面さえ良好に保っておけば、実際に好きになった女性にも積極的にアプローチでき、結果、モテモテまでとはいかないとしても女性に好感を持ってもらえるようになる。
AI彼女の役割はそういうメンタルトレーニングと、男性ユーザーに女性との付き合い方の暗黙のノウハウを教えることである。
最初のデートは軽めのカフェだとか、短時間でボロも出にくく、相手の女性に負担もかけず、かつ、ほっとする楽しい時間を過ごしてもらうことに注力するとか。
それがAI彼女のモテモテ魔法のタネとも言える。
まあ、今はメンバーはふたりしかいないのだが、三人目も来るとか来ないとか。
「そうそう。私もイケると思う。大丈夫、大丈夫」
AI彼女仲間の清楚系の中野舞香は性格が良い。
私、東雲雛は可愛い系、清楚系の舞香。
ならば、三人目はワイルド系というか、男にダメ出ししまくる奴かも。
某人気アニメではないが、ヤバいキャラしか思い浮かばない。
「うん、安心した。舞香が言うなら間違いない!」
これは東雲雛こと、私である。
「俺の意見はダメなの?」
室長の小室君の意見は大概、テキトーだが、たまに良いことをいう。
彼は生身の人間なのだが、まだ実験段階のAI彼女の暴走防止のためや悩みなどを聞いたり、AIメンテナンス的な職務の人間である。
実は日本政府の戦略自衛隊の秘密諜報組織<葛城班>のメンバーのひとりで、通称小室君というたぶん偽名の何者かである。
本業はスパイだけど、心理分析はプロなので、全く当てにならない訳ではない。
「小室室長は……悪くはないけど…」
つい、口ごもってしまう。
ああ、ストレスだ。
「そうか。確かに、舞香さんは的確だね」
それなりに気を使ってくれる真面目優しい奴でもある。
「そろそろ、小室室長、解散しよう。雛も私も順調です」
舞香が言うなら間違いない。
「了解!」
小室君、自衛隊っぽい。
笑う。
あはは。
▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△
「大将、熱燗くれる? おでんと焼き鳥はいつものテキトー盛りで!」
とある居酒屋でのファンには絶対、見せれない東雲雛のもうひとつの姿がここにある。
実はAI彼女をやるご褒美として、アンドロイドとしての疑似身体も貰えるのだ。
まあ、メイク落としてボサボサ頭で革ジャン着てるし、性格もしゃべり方もサバサバ系なので本人とは判るまい。
「お、表のサイバーバイクの<ナイトホーク>かこいいね。お嬢ちゃん」
居酒屋ののれんをくぐって現れたのは無精ヒゲ生やした中年のスーツ姿のサラリーマン風の男である。
「あれ、AI自動操縦でどこかに忘れても戻ってくるから、かわいい」
思わず本音が漏れた。
「俺のは旧式のジープだし。でも、あれをメンテするのが楽しいんだよ」
良い顔でニカっと笑う。
「分かる、分かる」
何となくいい雰囲気で一緒に狭いカウンターで呑むことにした。
そういえば今日は三月三日の桃の節句のひなまつり。
ひなまつりから恋がはじまったりしてね。
それは、無いない。
KAC20251参加作品 第一回お題「ひなまつり」お題
1回目「ひなまつり」
応募期間:3月3日 12:00~3月7日 11:59 >> 応募作品を読む
ランカー賞集計期間:3月3日 12:00~3月16日 23:59
タグ:KAC20251
2回目「あこがれ」
応募期間:3月7日 12:00~3月10日 11:59 >> 応募作品を読む
ランカー賞集計期間:3月7日 12:00~3月20日 23:59
タグ:KAC20252
3回目「妖精」
応募期間:3月10日 12:00~3月14日 11:59 >> 応募作品を読む
ランカー賞集計期間:3月10日 12:00~3月23日 23:59
タグ:KAC20253
4回目 書き出し指定「あの夢を見たのは、これで9回目だった。」
応募期間:3月14日 12:00~3月21日 11:59 >> 応募作品を読む
ランカー賞集計期間:3月14日 12:00~3月27日 23:59
タグ:KAC20254
5回目 三題噺「天下無双」「ダンス」「布団」
応募期間:3月17日 12:00~3月24日 11:59 >> 応募作品を読む
ランカー賞集計期間:3月17日 12:00~3月30日 23:59
タグ:KAC20255