リリの開き直り
昨日投稿してしまった最新話です!2025/04/01現在。
お布団 6
「うわあ、こういう仕組みだったか」
リリは大きな独り言を言った。進んだ先で見つけたのは、普通よりも上等な寝台に寝具に、一人部屋の中にも存在しなかったタンスだった。
タンスにも、よくわからないがしっかりつやのある塗装が施されており、作りがいい事は明らかだ。
隠し部屋というわけだが、一体誰が使っている隠し部屋なのか。
寝具そのほかが歳月を感じさせない手触りで、ぼろぼろに崩れていく事もないので、リリはここがそれなりの頻度で使用されている場所だと感じた。
「……うわあ、タンスの中には着替えがそこそこ入ってる」
一人部屋を進んだ先にあったのだから、自分が色々物色しても問題は発生しないという思考回路で、リリはタンスをあさったり、寝具の確認をしたりと色々やったが、そこの物達から判断して、ここは女性の使っていた場所ではなさそうだった。
男性の衣類がタンスに入っていたので、そういうわけである。
「前の離宮の持ち主さんが、隠れたい時に使っていたとか」
離宮の持ち主はそれなりの頻度で変わりそうなので、勝手にリリは考えた。
「じゃあ私が使っても怒られないし問題なしと……この濡れ鼠で布団に入るのちょっとあれだから……」
リリはタンスの中を物色し、体を拭えそうな布を拝借して拭き上げて、ああ疲れた、と寝具の中に滑り込んだのであった。
隠し部屋のことは黙っていよう。リリは明け方だろう時間に、習慣で目を覚ましたのでそこから出て、一人部屋に戻り、井戸にいき身支度を調えた。
その時だ。
「あれまあ、あたしより早起きさんがいるとは思わなかったよ! おやあんた、昨日のかわいそうな子じゃないか。その顔を見るに朝ご飯もまだだね、なら厨房の手伝いをするってんなら、朝ご飯を一緒に食べようじゃないか」
「いいんですか! 手伝います、手伝います、よろこんで!」
女性の言葉にリリは勢いよく頷いて、いそいそと彼女に渡された袖付きの前掛けと髪の毛を覆う布をつけて、竈の火をおこす所から作業を始めたのだった。
「あんた、ここに来たお姫様の結婚相手が誰か知っているかい」
「いえ、全然」
「大将軍閣下と皆お呼びしているお方でね、神依なんだよ」
「かみより……?」
聞き慣れない単語にリリが眉を寄せると、包丁さばきも見事な彼女は頷いた。
「そうだ。神依ってのはね、何らかの理由で、あまたいらっしゃる神々を体に降ろしていらっしゃる人達の事さ。閣下は常勝不敗の武神様を降ろしていらっしゃる。それに元々高貴な身の上でね、数人いらっしゃった前の王様のお妃様のお一人から生まれていらっしゃるんだ」
「すごいお方ですね」
「ああ。それだけれども、今の王様には育ててくださった恩があると、忠誠を誓っていらっしゃる立派な心のお方なんだよ。陛下は閣下の身分にもいい感じの奥方様をめとらせると常々公言していらっしゃって。このたびは隣国の第三妃の一人娘のお姫様、つまりここに来たお姫様が身分的にもちょうどいいし、大陸中に響き渡る美貌の持ち主だから、今までの功績にも十分に釣り合うと、向こうからの縁談にうんと言ったのさ」
「へえ……」
「確かに、お姫様が美貌のお方だって、皆さん褒め称えてましたもんね……」
「あたしからすりゃ、顔がいいより寄り添ってくれる心の温かい人の方が、閣下にはふさわしいと思うんだけどね。まあ、閣下にあまりにも低い立場の奥方が縁組みされるのは、よくないって言う陛下の深いお考えの結果だろうけどね。陛下は閣下がなめられるのが大嫌いなのさ」
リリはパンを焼きながら納得した。さらに燻製肉を焼いたりあれを焼きこれを焼き、これを食べる人達の朝ご飯は大変に豪華である。
「あんたは、どこの劇団から引っこ抜かれたんだい」
「旅芸人の一団の一つからです。お姫様が踊りを気に入ったという話だったんですけど」
「にしては、扱いが粗雑だね、何か行き違いが発生してそうだ」
「私もそう思います」
リリは同意して、配膳の担当が来たため食事そのほかを彼女達に任せ、自分は女性とともに小さな、厨房の脇にある折りたたみの卓で、朝ご飯を食べたのだった。