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リリの探索

間違えて次の話を一時投稿してました。修正かけました!


食事が終わった。その間周りの視線を気にしないようにしていたリリであるが、使用人達は食事の内容にも文句一つ言わない彼女を、扱いやすい愚か者だと判断した様子である。

単純に今までの生活の結果、この程度の事で悲しんだり怒ったりする考えがないだけであるが。

さて、食事が終わり、リリは一応使用人達が使う浴場の場所を聞いた。

いくら嫌われていても、自分たちの暮らす環境に、異臭を放つ人間がいる方が遙かに不愉快に思うだろうと思ったからだ。


「すみません、体を清める場所を教えてもらえませんか」


「体を?」


使用人達は怪訝な顔をしたわけだが、顔を見合わせてから、こちらだと言って一人が案内してくれたのである。

案内されたのは木製の外付けの建物で、ここでどう身を清めるのだろうとちょっと考えた。

彼女の知っている身を清める設備は、人が一人座れる大きさのたらいに、あかすりと手桶と申し訳程度の目隠しの木の板だったのだ。

それに皆で順番に使用し、最後の一人は明日の朝遅寝が許されるという仕組みだった。

そのため、こういった設備を知らなかったリリは、使用人に問いかけた。


「こちらをどうやって使うんですか? 使った事のない設備なので」


「ああ……」


何やら馬鹿にしたようにくすくすと使用人の女性は笑った後に、建物の扉を開けて、リリをそこに押し込んだのである。


「ここでたっぷり汗を流してきれいになったら?!」


押し込められたリリは、何がどうしてどういう条件で、と押し込められた時に中に倒れたので、起き上がって扉を開けようとした。

だが外から鍵でもかけられたのか、うまい具合に開かない。


「……いよいよよそ者に対する扱いがひどい」


鍵が開かない、ならばどうする。

リリはそう考えて、外に出る方法もしくは、ここの使い方を知る方に頭を回す事にしたのだった。

薄暗い室内は窓もないので、仕組みがわからない。

そして、ちょっと冗談のように暑いのだ。

数分もいれば汗が止まらなくなるだろう。

事実リリも滝のように汗が流れはじめ、あまりここに居続けるのは得策ではないと体感的に察した。

どうやってここから出ればいいだろう。外から鍵をかけられて、窓は存在しないので、穴になる場所がなくて……

リリはだめで元々、とがんがんと扉のある場所を叩いたが、ここに押し込んできた女性達の声はしない。非常に手詰まりになってきた。

だが……リリは建物の外側から、ある事はわかっていた。

ここは、日常的に頻繁に人の出入りがある建物だ、と。

使い込まれているが、丁寧に修繕したり手入れをしたりした形跡があったのだ。

つまり、しょっちゅう使われているわけで、さらにここが馬鹿みたいに暑いので、ここを暑くするための熱源を、誰かが管理しているという事もわかったのだ。

熱源の管理をしている誰かが、リリへの嫌がらせに協力していても、ここで死人を出したら、ここを使用するほかの、事情を知らない使用者達に非常に迷惑がかかるわけで、死にかける前に外に出られる可能性が高い。


「……と考えても暑い……」


だがリリは、外に飛び出すために服を脱がなかったし、そしてそれは正解だった。

がんがんと扉を叩き続けていた時である。


「ねえ、鍵が外からかかってるのに中から音がするわ!」


と誰かの焦った声がして、扉の鍵が開く音がして、リリは電光石火、外に飛び出した。

飛び出して、とにかく走り、与えられた一人部屋に駆け込んだのだった。

誰が味方についてくれるか、判断のつかない状態で、むやみに誰かに助けを求めるのは危険だと、リリは経験則から知っていただけの話だった。


「……ああ、暑かった……」


そう言ってリリは、大きく息を吐き出し、水をたらふく飲みたかった。……もらいに行こう。

それもさせてもらえないのはさすがにどうかと思うので、リリは案内された厨房に向かったわけだった。


「は、水? あんた水差しの一つも持ってないのか」


「身一つで雇われて……」


「ふうん。ならこの一番のぼろでいいなら貸してやるから、使えよ」


厨房でいろいろな作業をしていた下働きの女性に言うと、彼女はここの物をある程度勝手にしていい立場だったのか、かなりぼろくて、見た目も非常に悪く、底に穴がないだけましかなと思う水差しを貸してくれた。

もちろん、上等なガラスなどではなく、土を焼いた水差しである。

あるだけましだ。


「ありがとうございます、大事に使います」


「そうかい。井戸はそっち。水をくむのにうちの許可はいらないからな」


「はい」


「あんた、どういった仕事を頼まれてんだ? 女の小間使いとかとはずいぶん違うし」


「お姫様を慰めるために雇われた踊り子なんですけど……」


「そんなの、閣下がこの国で山ほど用意できるだろうに、隣の国の連中は何を考えてるんだろうね」


女性はそう言って、それから小さな声でこういった。


「ひもじい時は、こっちに直接おいで。手伝いをさせるけど、腹に入れられる物をちょっとは都合してやれるから。……あたしもいびられてた時代があってね。あんたに同情したいのさ」


女性はそう言ってにやっと笑い、リリはお礼を言って、水を井戸でたらふく飲んでから水差しにくみいれて、一人部屋に戻ったのであった。

そして、どうやっても寝具類一式はやってこないし、誰かに借りる事も難しいので、いっそあの地下への道を進むか、とリリは誰も来ない事を確認した後に、下に下りる梯子を下りて、石造りの、絶対に人の手が入っている地下通路を進む事にしたのだった。



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