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第5話 確信に染まった赤

 パリスの違和感が確信に変わったのは、魔王信仰の村を出て次に辿り着いた町での一件だった。

 最近できたのか、武器商人であるギルバートも初めて見る町らしい。悪癖と商人としての興味が止まらず、物資は足りているのに寄ることにした。


「武器商人のギルバート・ノノだ! 女子供は家に隠れろ! 顔も出すな!」


 町にギルバートが入った瞬間だった。壮年の男が大声で叫び、町は巣を突いた蜂のように慌てふためいた。

「お前さんもこっちにこい! 危ないぞ!」

「えっ!?」

 パリスも町人の男に腕を引かれて家の中に押し込まれた。咄嗟のことと悪気はないことから抵抗はしなかった。ついにギルバートの悪癖の皺寄せがきたかと呆れながら頭をかいた。

「だめ! 窓からもっと離れなきゃ!」

 外の様子を見ようと窓に近づいたパリスの肩を掴んで止めたのは、パリスと同じ背丈の少女だった。

「あの武器商人は人間を武器や防具に変換させる古代魔術が使えるのよ! いくら男の子でも目を付けられたら最期なんだから!」

「は……?」

「早く奥へ!」

「待ってくれ! その話を詳しく聞かせてほしい!」

 腕を引っ張る少女は、頑なに動こうとしないパリスを呆れた目で見つめた。

「何も知らないの?」

 信じられないと少女は前髪をかき上げた。

「あの武器商人は、隣の国では有名な罪人よ。非人道の武器商人ギルバート・ノノの名前を知らないなんて……この国に町を作るんじゃなかった……!」

「ギルバートが罪人? 非人道って──」

「アイツの商品である武器や防具は全部、元人間よ。私の母さんも姉さんも、みんなアイツに武器にされて売られたの……」

 少女の悲痛な声に、パリスはあの村を思い出して血の気が引いた。そしてこの前用意された籠手と短剣、聖剣以外の装備を全部外した。

「ま……まさかコレ全部……」

 青ざめるパリスに少女は哀れみを見せた。

「本当に何も知らなかったのね……あの武器商人から買ったなら、《《そう》》よ。全部、元は人間よ」

 パリスは走馬灯のように今までギルバートから受け取った装備を思い出した。聖剣以外の装備は全て、ギルバートが用意したモノだ。


 これまでに何本の剣とナイフが折れた?

 壊れた防具の数は?

 自分はギルバートに何度、コレが欲しいと依頼した?


 堪えられずパリスはその場で吐瀉物を撒き散らした。荒々しくドアが破られる音の直後に

少女が絶望に満ちた悲鳴を上げるが、それどころではなかった。パリスは泣きながら胃が空っぽになるまで吐き、武器や防具も吐瀉物まみれになった。


「あーぁ、せっかく美人だったのに汚されちゃってまあ……」


 聞き慣れた声に顔を上げた先にいたのは、返り血で汚れたギルバートだった。彼自身はそんなことを気にせず、ただパリスの吐瀉物まみれになった武器と防具を残念そうに見つめた。

 それはまるで恋人が雨に振られてずぶ濡れになったのを見るような、とても物に向けるような顔ではなかった。

「本当なのか……?」

 パリスが咳こみながらギルバートに最後の確認をした。少女の見間違い、人違い、勘違いなど、もはやありえない希望をどこかで探していたのかもしれない。

 だがパリスの希望はギルバートの肯定によって打ち砕かれた。

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