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第3話 魔王信仰の村

 パリスの中でギルバートへの苛立ちや不満が違和感に変わったのは、魔王討伐を反対する魔王信仰の村へ立ち寄った時だ。


「まずは俺だけ村に行ってくるよ。勇者であるパリスは近くの森で待っててくれ」

「本音は?」

 魔王信仰の村は身寄りのない女子供がほとんどだ。信仰の理由も魔王討伐に出た旦那や親を失った者たちが心の拠り所にしたから。

 ギルバートにしてみれば蝿のように小言がうるさいパリス無しで遊べる楽園のような村だ。

 パリスの嫌悪混じりの睨みなんて気にせず、ギルバートはパリスに野営の荷物を渡して笑った。

「前の町で補充した食料も心許ないだろ? 女性だけでは大変な力仕事をして、分けてもらってくるさ。勇者が一緒だとバレた時に面倒くさいからな──俺が戻ってくるまで村には近づくなよ」

 そう言ってギルバートは今ある食糧を全部パリスに渡した。

「魔王を信仰しているとはいえ、あの村の人たちは悲しいことがあったんだ。絶対口説くなよ」

 念の為にと釘を刺すパリスにギルバートはため息を吐いて眉間に皺をよせた。

「はいはい、耳にタコができるよ」

 頭をガシガシと掻きながらギルバートは村へ行こうとしたが、一瞬足を止めてパリスの方に向き直った。


「パリス、今欲しい武器ってある?」


 ギルバートが村に入ってから五日は経っただろうか。パリスはテントから少し離れた所で聖剣をふるって鍛錬を欠かさなかった。村の方を見やると今日も平和だと言わんばかりに、昼ご飯を作る家から煙が上がっている。

 それを見てパリスはギルバートが上手くやっているのだと思うことにした。

 もはやギルバートが反感を買って追い出されなければ、自分の目に見えていないところを想像して苛立つのは止めようとパリスは自分に言い聞かせていた。そうしなければパリスとギルバートは一緒に旅することができない。

 それほどまでにギルバートの悪癖は目に余るのだ。

 パリスは雑念を払うように鍛錬に集中した。目的を履き違えてはいけない。魔王討伐が目的であり、ギルバートと過度に仲良くする必要などない。

 ましてやギルバートの悪癖を更生させる必要は、パリスが目を瞑れば無いのだ。

 ギルバートの口説きは何故か失敗したところを見たことも聞いたこともない。更に言えば拗れたことも。昔の女が追っかけてきたり、口説いた女同士で修羅場になるだとかは無い。ギルバートの言葉を真に受けて着いてくる相手もいない。

 良くも悪くも一夜限りなのだ。ギルバートと口説いた相手は。


 その日の夜だった。パリスは夕食の干し肉を齧りながら、焚き火が緩やかに燃える音を聴いていた。それ以外の音は虫と木々の囁きくらい。ここ五日間で聴き慣れた音だ。

 ギルバートがいないだけで心穏やかだ。黙っていても容姿端麗なだけで存在が喧しい。しかもその中身は口説き癖のある軽薄な男だ。武器商人としての商才がなければただの屑。


 その男がパリスの目の前に戻ってきた。


「いやぁー時間かかっちゃったよ。まだ食料は残ってる?」

 束の間の静かな時間だったとパリスは干し肉の最後の一欠片を飲み込んだ。

「あと二日は保った。俺一人だったらな」

「じゃあちょうどよかった。村へ行ってベッドで寝よう。テントだと寝心地よくないだろ」

「は? 村の人たちに俺が勇者だってバレたら……」

「大丈夫、今ならみんな寝てるから。俺が泊めてもらってた部屋をパリスが使って、俺は悩める女性の話を聞く約束をしたから」

「まさかダブルブッキングして俺を身代わりにする気か」

「そんなヘマを俺がするとでも? そろそろ野営も辛いだろうっていう俺の親切心さ」

 ギルバートに言われてたしかにベッドが恋しくなってきていたとパリスは言い淀んだ。

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