第1話 人選ミス
魔王討伐に必要なものの一つは、装備。
どれほどの厳しい戦いが待っているかわからない旅の中で、勇者と仲間に必要な武器や防具をその都度用意するのは手間である。
そう考えた国王は、一人の男に勇者と供に魔王討伐に行くように命令した。
その男は武器商人のギルバート・ノノ。
見境なく女を甘言で誘う悪癖はあるものの、ギルバートは数多の装備を王国に卸している大口の取引先だ。武器商人ならすぐに装備を用意できる。
そう思ったのだ。
国王に命令されたギルバートはいつもの笑顔を浮かべて二つ返事で受けた。
「ええ、ええ、いいですとも。国王様にはご贔屓にしてもらっていますから」
ギルバートが了承をした翌日には勇者とお互いに顔を合わせた。そしてその日に王国を挙げて盛大に見送られた。
国を出てしばらくは黙っていたが、勇者が沈黙に堪えられず口を開いた。
「えっと、あの、さ……これから一緒に魔王を倒しに行くんだから、自己紹介しない? 武器商人って言ったって腕に覚えはあるんだろ? 護衛いらずって王様から聞いてるんだけど、実際はどうなの?」
舗装された森の中を歩きながら勇者は手ぶらのギルバートに気まずいながらも精一杯話題を振った。しかしギルバートは勇者を興味なさそうに横目で見て、ゆっくりと口を開いた。
そこには一陣の風が木の葉を揺らす程の間があった。
「俺はギルバート。必要な装備があるなら戦闘中でもお届けしてやるよ、勇者様。それくらい俺は腕に覚えがある」
「よろしくギルバート。王様から聞いた以上に頼もしいよ。でも勇者様ってのはやめてくれ。俺はパリス。長い旅になるかもしれないし、気軽に名前で呼び合おう」
「ははっ! 承知した、パリス。俺は荷物を異空間に自由に出し入れできる魔術を使えるから、必要最低限の荷物以外は俺に預けておくといい。重いだろ」
ギルバートに背負っていた麻袋を指差され、パリスは申し訳なさそうに荷物を下ろしてギルバートに渡した。
「よろしくお願いするよ、ギルバート」
最初こそぎこちない関係だったが、それは慣れと時間が解決してくれた。
だが、ギルバートの本性は時間が露見させていった。