後編
王城で舞踏会があった次の日のこと――アイロージアはとても不機嫌でしたし、ユーリエはいつも以上にブスっとした顔をしていました。ただひとりローズマリーだけは、初めて恋を知った乙女の初々しい輝くばかりの笑顔をしていましたが、アイロージアもユーリエも彼女に何も聞きませんでしたし、またローズマリーのほうでも、きのうあったことなどを決して打ち明けたりはしなかったでしょう。
この日、アイロージアとユーリエはいつも以上にシンデレラにきつくあたり散らしましたが、ローズマリーだけは別で、彼女にボタンの付け方や料理の下ごしらえの仕方などをおずおずと恥かしそうに聞いてきました。それでシンデレラにはローズマリーが誰かにきっと恋をしているのだということがわかりましたし、お姉さんに自分の知っている家事の一切を教えてあげることにしたのでした。
このローズマリーという娘は、確かにシンデレラに対して意地悪でしたが、それでも根っ子の部分はとても素直で善良なところのある娘でした。もしアイロージアがああも露骨にシンデレラにあたり散らしているところを目のあたりにせずに成長していたとしたら――おそらくは世間によくいる普通のお姉さんと同じく、シンデレラに優しくしてあげていたに違いありません。ローズマリーはシンデレラから料理を教えてもらううちに、心をこめた美味しい料理を作るのがどんなに大変かということを知って、妹に対して初めて尊敬の念を抱きましたし、また同時に自分がこれまで妹に対してどんなに冷酷で意地悪だったかを思いだしては、申し訳ない気持ちでいっぱいになりました。
そしてシンデレラに一言あやまろうと思って、ローズマリーが口を開きかけた時――ふたりが仲睦まじく楽しそうに台所でおしゃべりしているのを嫉妬したユーリエが、嫌な言葉を投げかけました。
「あらやあだ、お姉さんたら。一体いつからしがない料理女に格下げになったの?そんな灰をかぶったような娘と仲良くしていると、そのうち姉さんも同じように見すぼらしくおなりになることよ」
「黙りなさい、ユーリエ!」思わずカッとしたローズマリーは、包丁を木の俎板の上に突き刺していました。「あんたって子はどうしてそんなに意地悪なことばっかり言うの。少しは妹を見習って、あんたも家事くらいできるようにならなきゃ。じゃないとあんたみたいな性悪の娘なんか、誰ももらってくれないよ」
「ふ、ふーんだ。わたしはお母さまの言うとおり、お金持ちの家に嫁ぐんだからいいんだもん。そういうところではね、身分の高い奥方さまは自分で何もしなくても、全部召使いがやってくれるから、家事なんて覚える必要はないのよ」
ローズマリーは妹の減らず口に腹を立てつつも、彼女の曲がった心だけはどうにもならないと諦め、ユーリエの存在は一切無視して、シンデレラと一緒に料理の支度を続けました。かぼちゃのスープにかぼちゃのパイ、かぼちゃのマッシュなどなど……シンデレラは仕立屋のおかみさんからもらった大きなかぼちゃひとつで、魔法みたいにたくさんのメニューをまたたく間に用意しました。そしてローズマリーはどうやったら家計を倹約できるのかということまでシンデレラから教わって、ただただ妹の家事技術に感嘆するばかりだったのです。
「おやおや、今日は何から何までかぼちゃづくしかい?わたしとしてはもうちょっと、味に変化ってものが欲しいもんだけどね」
一体この母親は寝言でも言っているのでしょうか。彼女がシンデレラに渡した食費では、料理がでてくるだけでも大いに不思議なくらいだったというのに……その他食卓に乗っているトマトのプリサーブもピクルスも、近所の人がシンデレラのことを気の毒に思えばこそ、分けてくれたものだったのです。
ローズマリーはそうしたことも今日初めて知りましたので、妹のユーリエがさくらんぼのジェリーをたっぷり皿にとり分けようとしているのを見て、その手をぴしゃりとぶちました。
「よくもまあ恥かしげもなく、そんなにたくさんとれるものだわね。それはパン屋のおかみさんが、好意でシンデレラに分けてくれたものなんだからね。あんたも妹に感謝してから食べなくちゃ」
「なによう。自分だってきのうまで、ハムやらソーセージやら、何も知らずにばかすか食べてたくせに」
「それだってねえ、肉屋のサイモンさんがシンデレラが可哀想だと思って店のあまったのをこれまでずっと分けてくれてたんだよ。わたしだってこれからは気をつけますとも」
そのあと、食い意地の張ったこのふたりの姉妹は何かにつけて口論となりました。そうなのです――お父さんのシャルル亡きあと、これまで家の中でシンデレラを庇ってくれる人は誰もいなかったのですが、見てのとおり勢力が二分してしまったのでした。つまり長女のローズマリーと末娘のシンデレラ、次女のユーリエと母親のアイロージアとに。
そしてローズマリーが何かと食卓のものを指差しては「このかぼちゃは仕立て屋のおかみさんから」だの「このいんげん豆のゆでたのはシンデレラが庭で育てたもの」だのという話ばかりするので、とうとうお母さんのアイロージアは腹が立つあまり怒鳴り散らしていました。
「まったく、いちいちうるさい子だね、おまえは。誰からもらったものだろうと、腹の中に入ってしまえばみんなおんなじさ。それよりそんなしみったれた話はよして、さっさと食事をすませておしまい!」
アイロージアはナプキンで口許をぬぐうと、早々に食卓から離れてゆきました。何故といって、彼女自身もまたローズマリーの話がショックだったからなのでした。これまで彼女は自分の血筋と身分の高さを誇って、自分で商いをしている商売人のことなどは馬鹿にしていたのですが、実はその彼らから施しと哀れみを受けていただなんて……恥かしくてもう通りも歩けやしない、アイロージアはそう思いました。
食事のあと、ローズマリーとユーリエが喧嘩をしながら後片付けをしていると――「茶碗洗いくらいしなさいよ、このただ飯食らい!」、「何よ、自分だって!」――不意にひとりの訪問客がローゼンハイム家の玄関のノッカーを叩きました。
アイロージアが玄関ホールのほうに出てゆきますと、彼は立派な身なりをした宮廷の役人で、その手にきのうシンデレラが脱ぎ忘れていった白い繻子の靴を手にしています。彼はアイロージアにこう言いました。
「確かローゼンハイム家には、娘さんが三人おられるとか。もし娘さんのうちの誰かがこの靴にぴったりあったとしたら、これから先王城で何ひとつ不自由なく暮らすことができますよ」
「そ、それは本当ですか!?」
即座にアイロージアの目の色が変わりました。その金糸銀糸で刺繍のしてある繻子の靴は、どう見てもローズマリーの物でもなければ、ユーリエの物でもなかったのですが――もしかしたらふたりのうちのどちらかが、その靴にぴったり合うかもわからないではありませんか。
「ローズマリー!ユーリエ!」
アイロージアは甲高い声で長女と次女の名前を呼びました。ふたりはなおも喧嘩をしながら廊下をバタバタと忙しなくやってきます。でも長女のローズマリーなどはその小さな繻子の靴を見るなり、けらけらと笑いだしてしまいました。
「やあねえ。わたしみたいなでぶっちょが、そんな細っこい靴に足が入るわけないじゃないの」
「まあ、そう言わずに。これもわたしの仕事なものですから」
「あら、そーお?」
その年のいった役人は、帳簿をとりだして貴族の娘の名前ひとりひとりをチェックしている様子でした。アイロージアが目敏くちらっとその名簿をのぞき見たところによりますと、そこに並んだほとんどの女性の名前に×印がついているみたいでした。残るは我がローゼンハイム家の娘たちと、同じく没落貴族のゴルドベルク家のふたり姉妹だけのようです。
それを見て思わずもアイロージアは胸が高鳴りました。ローズマリーは案の定その白い繻子の靴に足すら入りませんでしたが、ユーリエは小柄で足も小さかったですから、もしかしたら……と強い期待を寄せたのです。
ユーリエのほうでも自分でそう思ったらしく、靴に吸い寄せられるようにすぽっとそれが右足に入った時には、
「やったわ!お母さま!」
そう叫んでアイロージアの胸に飛びつきました。ところが……
「ええと、申し訳ありませんがお嬢さん。少々わしに靴の具合を見せてもらえませんかね」
まるで似たようなことを今日一日で百回ほど経験した、といったような顔をして、立派な山羊髭を生やした宮廷の役人は身を屈めています。
「すまんですなあ。どうやら爪先が一センチくらい余っているみたいですね。この靴はたぶん寸法をとって靴職人に作らせたものでしょうから、持ち主がはいたとすれば、ピタっと合うはずなんですよ」
「そんな……」
お互いを抱きしめあいながらアイロージアとユーリエのふたりが打ちひしがれていると、役人はいかにもお役所仕事的に名簿をのぞきこみ、ローゼンハイム家にあとひとりいる末の娘――シンデレラの名前を呼びました。
「あの、もうお引きとり願えませんでしょうか?末の娘のシンデレラは社交界にデビューもしておりませんし、王城のパーティへ出席したことなぞはただの一度もないんですから」
「奥さんはそうおっしゃいますがね、これもわたしの仕事なものですから。とにかく、この帳簿に名前のある娘さんには全員、この靴をはいてもらわなくてはならないのですよ」
「そうですか……」
アイロージアはもはや何もかもがどうでもいいといったような、沈んだ声でシンデレラの名前を呼びました。でも彼女がなかなか台所からやってこないのを見るや、
「シンデレラ!さっさとおし!この愚図のノロマのカメ!」
と、いつもの調子で金切り声を上げました。
そのヒステリックな様子に役人はちょっとびっくりしたようでしたが、やがてしずしずと廊下を歩いてシンデレラがやってきますと、彼はシンデレラの容貌が麗しいのを見て、優しくにっこり微笑みました。
「さあ、お嬢さん。この靴をおはきになってみてください」
この役人はなかなかの目利きでしたから、シンデレラが見すぼらしいギンガムのワンピースを着ていても、彼女が外見も内面も優れて美しい女性であることがすぐによくわかりました。それで、王城のパーティに来ていようと来ていなかろうと、この娘の足に繻子の靴がぴったり合えばよいのに、とさえ思ったのでした。
「あ、あの……なんだかわたしにはこの靴、少しきついみたい」
実をいうとシンデレラは、役人が訪れるなりすぐに、靴下の中に余ったぼろ布を詰めこんでいたのでした。こんなことのためにもし、今夜マクシミリアンと約束している十二時に、駈け落ちできなかったとしたら……そう考えただけでシンデレラは悲しみに胸が引き裂かれそうになるのを感じました。
「どれどれ」
役人は多少無理にでもシンデレラの足を靴の中に押しこめてしまえと思ったのですが、どうやっても彼女の右足は靴の中に入っていきません。
「残念だなあ。まあ、これも運命というやつですかな。それではどうも、ごきげんよう」
役人は帽子をとって挨拶すると、来た時と同じあっさりとした調子でローゼンハイム家の玄関を出てゆきました。アイロージアとユーリエはあまりにがっかりしてうなだれていますし、シンデレラは額の冷や汗をぬぐっていました。もし役人に、靴下にボロ布を詰めていることがわかったり、あるいは裸足になって靴をはいてみてくださいと言われていたとしたら……もしかしたらすぐにも王城のほうへ連れていかれていたかもしれません。シンデレラは心の中で十字を切ると、優しい愛の神に窮地を救ってくれたことを心から感謝しました。
結局この繻子の靴は、ゴルドベルク家の次女、カイラ・ゴルドベルクの足に偶然にもぴったりとおさまり、人から施しを受けて暮らしていたゴルドベルク家の三人の女たちは、その日のうちに貧しさのどん底から救われることになるのですが――王子さまはカイラがシンデレラとは別人でも、全然気にしないでお妃にしてしまったのでした。何故といってカイラはとても美人でしたし、性格もおしとやかで可愛らしい人だったからです。ただフィリップ王子は結婚後に、彼女の姉のルイーズもまた美しいのに目を留めて、愛人にしてしまったのでした。そのことが原因で仲睦まじかったふたりの姉妹の間には亀裂が入ってしまうことになるのですが――そのことはこの物語の本筋とはあまり関係のないことですので、詳しく述べる必要はないでしょう。
宮廷の役人が訪ねてきた日の夜、シンデレラはみなが寝静まるのを待って、身のまわりの物の整理をはじめました。そして小さな手提げ鞄ひとつに荷物を詰めて、最後にお父さまがくださったヘソクリのお金を、コートのポケットにそっと忍びこませたのでした。
(お父さま、シンデレラは十六年育ったこの家を出ていこうとしていますが、どうかそのことをお許しください。今夜わたしはマクシミリアンという男性と駈け落ちする予定ですけれど、このことが天国にいらっしゃるお父さまの目に親不孝に映ったりすることがありませんように)
そしてシンデレラは母親のアイロージアとふたりの姉、ローズマリーとユーリエの幸福を神さまに祈ってから、生まれ育った家の勝手口から旅立っていったのでした。
「もしかして、大分待った?」
十二時きっかりに、ローゼンハイム家の門の前に馬車を停めると、マクシミリアンは御者台から飛びおりて彼女の手から手提げ鞄を受けとりました。そしてそれを馬車の中に運び、シンデレラに手を貸して中へ乗りこませようとしたのですが、
「ううん、いいの。わたしも御者台に……あなたの隣に座るわ。だって、話したいことがいっぱいあるんですもの」
シンデレラは次の町に着くまでの間、マクシミリアンの肩に自分の体を預けて、今日一日にあった色々な出来事を彼に話して聞かせました。ローズマリー姉さんの態度が突然変わったことや、夕方に王城から役人がやってきて、きのう階段のところに脱ぎ忘れた靴に足がぴったり合うかどうか調べていったことなど……。
「それで、どうしたの?」
マクシミリアンは興奮したように隣のシンデレラのことを振り返りました。何故って、あの繻子の靴はシンデレラのためのものでしたから、ぴったり合わないはずがありません。
「靴下に余ったはぎれ布を入れて、うまくごまかしたの。この靴、わたしには少しきついみたいって、そう言って」
「そうか。それならよかった」
マクシミリアンはほっと胸を撫でおろしたのですが、次の瞬間――シンデレラが自分のような者と駈け落ちするよりも、王子さまのお嫁さんになったほうが幸せだったのではないかと考えて、ふと思い悩んでしまいました。
「……シンデレラ。きみは本当にそれでよかったの?ぼくは今日、白馬を四頭売ってお金に換えてきたけれど、ぼくはこのお金がどのくらいの値打ちなのかもわからない、馬鹿者なんだ。ただ、馬を買ってくれた人はとても良い人でね、お金はいくらでもだすっていうんだよ。そこで草競馬場の人にこの馬なら一頭あたりどのくらいの値段が適当かって聞いて、それで返事をしたんだ」
きのうと違って馬が六頭から二頭に減っていたのはそういうわけだったのね、とそう思いながらシンデレラは毛並みのいい真っ白な馬の走る後ろ姿を眺めました。そして隣のマクシミリアンがごそごそとズボンのポケットを探ってとりだした封筒を受けとったのでした。
「……まあ!物凄い大金じゃないの!一体あなた、町の誰に馬をお売りになったの?」
「鍛冶屋のコルベスさんだよ。あの人が言うには貴族のええとなんて言ったかな?ゲッティンガー伯爵だったかな。彼に売るつもりなんだってさ」
「あなたったら……」
シンデレラはマクシミリアンが如才なくやってのけたのを見て、すっかり感心してしまいました。実をいうとゲッティンガー伯爵の馬はシュトラウス侯爵のアレクサンドライト号に負け続けていましたから――この馬気違いの伯爵は、いい馬にならいくらでも大枚をはたくというそういう人だったのです。
「ええと、でもね。競馬場の調教師の人の話によると、競りにかけたほうが一番いい値がつくだろうってことだったんだ。でもその競りがあるのは来週の水曜日だっていうことだったから――それまで待てないと思って売ってしまったんだよ」
シンデレラがマクシミリアンの商才を褒めたたえますと、彼は照れたように笑ってそう答えたのでした。シンデレラが目を輝かせて喜んでいるところを見ますと、それは結構な金額だったのでしょう。マクシミリアンは彼女の嬉しそうな顔を見て、少しだけ得意になりました。
それからふたりは宿から宿へと旅を続け、また何日も野宿したりして西部を目指し、とうとう腰を落ち着けるべき土地を発見したのでした――そこはミドルワースというところで、先に入植した四家族ほどがすでに家を建てて農耕を営んでいました。シンデレラもマクシミリアンもこの四家族の人たちに大変喜んで迎えられましたし、家造りやら何やら、みんなに手伝ってもらいながら新婚生活をスタートさせたのでした。
そしてその数年後には町もでき、ミドルワースはだんだんに人口も増えていったのですが、シンデレラが夫の亡くなった翌年に八十八歳で天寿をまっとうした時――ミドルワースの土地はマクシミリアンという姓を持つ者で溢れかえっていました。まずシンデレラは十七人の子宝に恵まれましたし、その子たちがさらに子を生んで、マクシミリアンが亡くなる時には孫や曾孫、曾々孫が数えきれないくらいたくさんいたのでした。
マクシミリアンは人間としての生活が長くなるにつれて、自分自身のルーツがどこにあるのかということでひどく悩むようになりましたが――唯一妻のシンデレラの存在だけが彼のアイデンティティの支えでした。開拓農民としての生活が苦しい時期を越えて次第に僅かながらお金が手元に残るようになった頃、マクシミリアンは不潔恐怖と呼ばれる軽い神経症にかかりました。不自然なくらい何度も手を洗ったり、また異常なほどゴキブリという存在を恐れるようになったのです。
人間の記憶というものは非常に曖昧なもので、シンデレラはマクシミリアンが元はゴキブリだったなどということは、今ではすっかり忘れ去っていました。彼は記憶喪失の旅芸人で、自分にいかなる方法によってか素敵な魔法をかけてくれた人――そんなふうに最初の出会いを記憶していたのでした。
マクシミリアン家には、真面目で誠実で頭のいいキレ者が多く、彼の子孫から何人も歴史に名を残す人物が現れています。ミドルワースが市として認定された時の初代市長やら、その他医師や弁護士としてミドルワースの発展に努めた者が何人もいましたし、それ以外にも作曲家や画家、作家、演奏家などなど、マクシミリアン家は優秀な人材を次々と輩出しました。ただし、その一方で――家系的に何代かにひとり、ある種の恐怖症を発症する人間が必ず現れたのでした。不潔恐怖や対人恐怖、その他先端恐怖症や狭所恐怖症などなど、彼らは鳥やネズミ、猫、あるいは他の人にとってはなんでもないものに対して異常なほど恐怖を呼び覚ませられるのでした。
マクシミリアン家はとても強い家の絆で結ばれた一族でしたから、何代かに一度そうした人間が現れた時には注意深く彼や彼女のことを終生守るようにしましたし、自分の恐怖心を乗り越えるために精神医学や心理学を学んでその分野に多大な貢献をした者さえいるくらいでした。
――こんなふうにして、シンデレラとマクシミリアンが幸せな生涯を終えたのちも、彼らの子孫は繁栄し、まるで旧約聖書の神がアブラハムに約束されたかの如く、彼らは地を満たすように殖え広がっていったのでした。
終わり