即死スキルがヤバすぎる
気が付くとユイガは木の下に倒れていた。
木漏れ日がキラキラとまぶしい。
「生きてる……」
手足を動かし、生きていることを確かめる。
土の匂い、小鳥のさえずり。
身を起こして見回すと緩やかな丘陵地帯。遠くに城と周辺を囲む街と壁が見えた。
ムレルンド王国の首都アツマールだ。
するとここは……聖なる大樹プロファテリア。
郊外にある聖地、パワースポットと呼ばれていた場所だ。
不思議な力で護られているとされ、魔物の活動も少ない。
「……近くに町があったな」
王都の郊外、聖なる大樹の近くには冒険者たちの町があったはずだ。
まずはそこへいこう。
ユイガは自分の足で、一人で歩きだした。
そして、その事実に改めて驚く。
「ひとりで……生きている」
空を見上げる。
風が赤毛の髪を撫で、頬に心地よい。
きれいな蝶が二匹、もつれあいながら花の上を飛んでいる。
小鳥たちが木の枝で歌っていた。
遠くで蠢くのは作物を荒らす魔物、大カタツムリか。当然のように二体でならんで動いている。
ステータス・オープン。
基本中の基本の魔法を詠唱すると目の前にウィンドウが表示された。
『ユイガ・ドクソン』
総合Lv 16
体力HP 38
魔力MP 25
対物理Lv 37
対魔法Lv 16
ぼっち耐性Lv 999
野営スキル Lv90
外にも、クラフト系スキル、料理スキル、洗濯スキル……と大幅に習得技能が増えている。
「あの女神の言った通り一人で生きていけるってことか」
攻撃系も見慣れないものが増えていた。
剣術スキル Lv17
武装、護身ナイフ
戦闘スキル
→『絆ブレイカー』
固有スキル
→『単独肯定』
武装は腰の後ろに着けていた護身用のナイフのみ。
服装は簡素な普段着に、冒険者用のブーツ、簡易的な胸と肩だけを護る防具。いわゆる初期装備か。
肉の解体や果物の皮をむくにはいいが、魔物相手では心もとない。
と、その時だった。
木々の向こうから三匹のゴブリンが出現した。
6歳子供ぐらいの背丈に緑色の汚い肌に体毛は無く、ボロ布を身にまとっている。
ゴブリンは三匹で仲良く何かおしゃべりをしながら、森を歩いていたようだが。ユイガを見つけるなりかなり驚いた様子だった。
『ゲッ!?』
『ヒギッ!?』
『イヒィ?』
「なんだ、怯えてるのか?」
普通ゴブリンは人間をみると持っている荷物や食料を奪おうと襲ってくる。
人間を食うわけではないが、迷惑な強盗のようなモンスターだ。
三匹は怯えたそぶりを見せたが、すぐにフォーメーションを組んだ。
息の合った動き、キズナで結ばれた者同士の、阿吽の呼吸。
『『『ギッ!』』』
いくぞ! とでも叫んだのだろうか。
一斉に三匹は襲い掛かってきた。
「くそ!」
奪われる荷物も無いが、コイツらは金を持っているかもしれない。
ゴブリンを倒せば金が手に入る。
元々は人間から奪った金だ、つまり取り戻す正義の行い。
腰からナイフを抜き身構える。
っと折角だから、戦闘スキルとやらを使ってみるか。
――戦闘スキル、『絆ブレイカー』発動!
「お……?」
すると三匹のゴブリンの間に赤い糸のような、絡まりあった何かの「流れ」が見えた。
互いに結び付く赤い光は三匹の動きに合わせて互いを結び付けるように動く。
――あれが『絆』……!
俺は三匹が攻撃してくる前に、その赤い糸目掛けてナイフを振った。
距離は離れている。
しかし、これで「斬れる」と直感したからだ。
青白い光の刃が赤い糸をズタズタに引き裂いた。
『……アッ!?』
『ヒギ……?』
『グッ!?』
赤い糸を断ち切ると、ゴブリンどもの足が止まった。
その場で困惑したように互いの顔を見て、戸惑い、互いに手を伸ばしあった。
求めるように、しかしその腕はもう届かない。
見えていないのだ。
仲間が見えていない!
ゴブリンは自分が暗闇に一匹で放り出されたかのように恐怖し、動揺し、そして寒さに震えるようにガタガタと身体を揺らしはじめた。
『ァ……ァ……アァアアア!?』
そして次々と白目になって倒れてゆく。
ゴボゴボと口から泡を吐いて、絶命。
三匹のゴブリンは次々と黒い霧のようになって消えていった。
「即死……!」
こいつらの『絆』を断ち切っただけで?
人間や魔物を結び付ける『絆』は互いの魂を結び付ける。
誰かといると安心し、幸福で、暖かく感じる。
だが、それを断ち切ったことで孤独となり……死んだ?
そんな理屈のスキルなのか。
「いやいや、これヤバすぎるだろ!?」
あのプロファールとかいう女神は悪魔か何かの化身だったのだろうか。