ぼっち耐性Lv999
「はいっ! いらっしゃいユイガくん」
「……えっ?」
「ここは時空の結節点、世界と世界の狭間です」
頭に響く声にユイガは目を開けた。
周囲は真っ白な空間で、ふわふわして上も下もわからない。
追放されて『絆』を断ち切られ死んだ……というところまでは覚えている。
ということは、ここはあの世か?
地獄か天国かはわからないが……。
光の粒子が集まって目の前で人の形になる。それは金髪碧眼の美女となった。薄絹の衣で半裸のような姿にユイガは戸惑うが、身体がふわふわしている。
「ここは天国でも地獄でもない。案内所みたいなものかな。私はここの担当女神プロファール。プロファって呼んでいいよ」
可愛くウィンクして胸の谷間を寄せる。
「女神……さま?」
プロファ、聞いたことのない女神神の名前だ。
「不慮の事故で死ぬと最近は異世界転生!? って期待しちゃうよね。でも、ごめんね! 今回はちょっと違うんだ」
「いきなり違うとか言われても……」
そもそも異世界転生ってなんだ?
状況が良く呑み込めない、なんのことだかさっぱりだ。
女神プロファは困ったように眉根を寄せながら一方的にしゃべり続ける。
「あのね、最近は死んだ魂はみんな転生するんでしょ!? って言うワケ。でもどこの並行世界も満員のオーバーツーリズム気味……。チート能力に物を言わせる転生者で地元住民はもう迷惑だって言ってるの。わたしたち女神の転生業界それで困っちゃって」
一度死んだ身で驚いても仕方ない。
オーバーツーリズムだの女神の転生業界だの、疑問は浮かぶけれど聞き流すことにする。
「だからね別の世界に転生しても、簡単には活躍の場なんて見つけられないのよね。魔王が支配する有名どころの異世界なんて『転生者さんは並んでください』なんて行列までできちゃって……。そこで! わたし天才女神ことプロファが素敵な提案をしまーす、はい。パチパチパチ!」
しゃべりまくる女神にユイガはただ呆気にとられるしかない。
「まっ、まってくれ……言っていることがほとんど理解できないんだが」
「まぁまぁ! キミには素敵な祝福を授けるよ! はいっ……完了!」
「えっ? これでおわり?」
「はい、そしてステータスオープン!」
いつの間にか背後に回り込んだ女神が背中を叩く。
「なんか駆け足だな!」
ユイガの目の前に半透明のウィンドゥが表示され、様々な数字が羅列された。
体力値、攻撃値、魔法力、防御力……云々。
総合Lv 16
体力HP 38
魔力MP 25
剣術スキル Lv17
野営スキル Lv90
ユイガの世界にもあった能力を計測する『ステータス魔法』と大差ない。
数値はユイガが死んだ前とほとんど同じ。
どれも平凡な数値であり、取り立てて高いというわけでもない。
ただひとつを除いては。
『ぼっち耐性Lv999』
「……あの、なんですかこれ?」
「いいところに気が付いたねユイガ君! それこそが女神の祝福! 天恵! つまりギフト! 孤独でも死なない、むしろ孤独や一人を喜びに変えるSSSレアの超スーパースゴイユーニーク能力を授けました」
「えーと、孤独でも大丈夫……と?」
「そうです! あっ、今なら初回特典でこんなスキルも付けちゃいます」
戦闘スキル『絆ブレイカー』
固有スキル『単独肯定』
「固有スキルは戦闘時以外、ふだんの生活でも使えるからね!」
「なるほど……って、そうじゃなくて。これで元の世界に戻れと!?」
女神プロファールの意図がだんだんわかってきた。
なんやかんや土産をもたせ元の世界に戻そうというのだ。
「大丈夫、だーいじょうぶ! ユイガ君の余命がゼロだったから、他の子……別の異世界で死んだ『彷徨える魂』で補完しておいたわ!」
「俺の余命を……」
「そう! 余命1年とかで戻してもすぐ死んじゃうでしょ」
いろいろ気の利く女神である。
「彷徨える魂の名は『ドクソン』ちゃんっていう子。滅亡寸前の世界で孤独でたったひとりで生きていた子だから、サバイバル能力とスキルが高いの。だから一人でいるのもぜんぜん平気! ユイガ君の魂を補完するにはピッタリじゃん?」
「じゃん……て」
つまり死んだ人間の魂を「ニコイチ」に。
二人分の記憶とスキルをひとつにまとめた……みたいな?
女神の転生業界とやらはそんな商売なのだろうか。
それで生き返って大丈夫なのか?
いろいろ不安になってくる。
「なんか……頭の中に見たことのない風景が……あぁああ!?」
ユイガは全身がモヤモヤして頭痛がした。
けれどそれもやがておさまった。
「よし、これで魂のデータ統合も完了! 各種ステータス統廃合OK、脳内ストレージOK! あとは君を元の世界に戻して……生き返ったら新しい人生を謳歌するといいわ!」
ステータスがいろいろと増えた。
モノづくりスキル、料理スキル、洗濯スキル、家庭の医学的治療知識。
そして対人スキル。
「俺は王宮から追い出された身で戻るところなんて無いんだ」
すると女神はばんっと両肩に手を乗せ、
「大丈夫! なんとかなる! 別に王宮なんて戻らなくって自由気ままに」
「自由に生きる……」
まるで頭を殴られたような衝撃をうけた。
「生きて、楽しんでいいのよ」
「……!」
「もう追放されて死ぬこともない、孤独でも余裕! むしろ楽しくて快適! そんな超強くなった君は、無敵ってわけ。群れるだけのクソ雑魚どもなんて蹴散らして、無双しなさい」
「無双」
「一人の素晴らしさ、自由に生きることの意味を知らしめて、わからせてやればいい。OK?」
これからは孤独でも耐えられる?
ひとりでも生きていける?
あの群れるだけの世界で?
そんなこと、可能なのだろうか。
でもそれは……小さいころからにこっそり夢想し想像したことでもあった。
息を止めるように集団の輪から離れるドキドキ感。
今自分は、ひとりで歩いているんだ、という冒険心。
なんども叱られたけれど、幼少期の経験が思い起こされる。
そして目の前の女神はすべてを肯定し、天恵とギフトさえくれた。
「どう? 面白そうでしょ?」
悪戯っ子のように微笑む女神に、ユイガは
「あぁ、悪くない!」
ニッとした笑みを返す。
「契約成立! あ、困ったときは心の声に耳を傾けて、キミの魂の半分はもう『ドクソン』ちゃんなんだからね。じゃぁ健闘をいのる!」
「ドクソン……ちゃん?」
女神が指し示すとステータスの名前欄が書き変わった。
――ユイガ・ドクソン
そしてユイガ・ドクソンの視界は、真っ白な光で満たされた。
<つづく>