追放されると即死する世界
「ユイガ王子、貴様を追放するッ!」
王宮に冷たい声が響き渡った。
「なっ?」
追放宣言された瞬間、ムレルンド王国第三王子ユイガの心臓がぎゅっと締め付けられた。まるで心臓が冷たい手で握られたように収縮し、心音が急速に弱くなる。
「ぐっ!? ……がっ……は!?」
ガクリと王宮の床で片膝をつく。
心臓が痛い、苦しい、息が出来ない……!
死ぬ……!
視界が暗くなり立っていられなくなり、ユイガ王子は床に前のめりに倒れた。
「おぉおおおッ!?」
王宮内に拍手と歓声が響いた。大勢の臣下、貴族、王族たちが神の奇蹟を前に目を輝かせる。
「これが神に背いた罰だ!」
「神の与えし『絆』に疑問を抱いた報いですわ!」
「一人で生きようなど異常者の思考、死ぬのは当然じゃ」
王宮内には蔑む声はあれど、倒れたユイガを救おうとするものなど誰もいなかった。
「ペッ! 私も婚約破棄を宣言いたしますわ! 尊き『絆』に疑問を抱く狂った男だったとは……! あぁ私はなにも知らなかったのです……!」
ドレス姿の令嬢が目を吊り上げて、倒れたユイガに唾を吐きかけた。
「ハブリスキーナ嬢、君はなにも悪くない」
「あぁ……ムスブンド殿下!」
第二王子のムスブンドが公爵令嬢ハブリスキーナを抱き寄せた。
第三王子を追放し、第二王子とさらに強い絆を結びなおした。
――孤独は悪!
――ひとりは罪!
――人はひとりでは生きられない!
これこそが大陸を統べるムレルンド王国で暮らすすべての人間に等しく与えられた呪い――否『祝福』なのだ。
人間はたがいに『絆』で結ばれている。
だから皆が協力し、助け合う。
争いなど起こらない平和な国。
美しい秩序と正義。
まさに理想郷。
ゆえに!
人同士を結び付ける最も大切な『絆』を否定した人間は、悪であり異常、死んで当然。
これが王国の絶対的な真理にして掟なのだ。
「見よ! 王宮に居る者も、国民も! 神に見放された愚か者の末路を……! 絶対神ジ・ア・オールワンの祝福たる『絆』! 我らの魂を結び付ける尊きものを失う意味を知れ! 絆を否定し、追放されしものにあるのは死、のみだということを……!」
ムレルンド王国シュダーン王は恍惚とした表情で叫びつづける。
戯れで側室に生ませた子、第三王子ユイガ。幼いころからどこか変わっていて、一人になろうとする異常行動で従者たちを慌てさせた。王宮では邪魔で目障りだった。だから公爵令嬢からの悪魔崇拝の密告に、追放し断罪した。
ドォオオオオッ!
王宮内が熱を帯びた歓声と拍手に揺れた。
「……こんな…………こと……」
なぜ孤独が悪なのか?
物思いに耽り、一人空を見上げることが罪なのか?
そんな疑問を抱いただけだった。
あぁ、バカバカしい。
これでいいのだ。
こんな世界など……もう。
ユイガの意識はそこで途切れた。
<つづく>
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