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灯台(前)

 

 キャロルらは(あぶら)滲む禿頭(はげあたま)の男の後ろを歩き、灯台へと向かう。この男の名はガストンと言って、カレドニア北部冒険者ギルド、マール第6支部『胡獱(トド)の会』を纏める組合長であった。


「何ぃ⁉︎ 依頼内容を見て来なかっただと⁉︎ じゃあ何か。確認もせず、言われた通りにホイホイ現地入りしただけってことか⁉︎ 『白い帆船(はんせん)会』のヤツらは、本当に腑抜けてやがる‼︎ 」


 どうやらキャロルらのことを、助っ人として呼び寄せたマール伯爵領第々支部『白い帆船会』の冒険者と勘違いしているようだった。


「年長がついていながら、だらしがねぇっ! ちゃんと新人を教育しろ!」


 そう言ってウォルターの背中を勢いよく叩く。バシンと重い音がした。ガストンは勘違いに勘違いを重ね、ウォルターが新人を連れて来たのだと思い込んでいるらしい。


「知り合いか?」


 キャロルが声を潜めて問う。ウォルターが困った顔をして首を横に振ったので、鼻で笑ってガストンに問うた。


「その雀斑(そばかす)のガキとやらが灯台を占拠している理由は?」


 ガストンは顔を真っ赤にして怒鳴る。


「お前らには関係ねえ! 黙って仕事をすりゃあいいんだッ!」


 静観していたエリカは、ついにむすっとして膨れた。──何だこの男は。さっきは情報を確認していなかった事に怒っていた癖に、自分は情報を共有する気がないんじゃないか。嫌いだ、この人。清潔感もないし。


 不機嫌そうなエリカをちらりと見やり、キャロルは続ける。


「領軍は呼ばないのか?」


「馬鹿野郎ッ‼︎ お前に冒険者のプライドはねぇのか⁉︎ あんな偉そうな奴ら、呼んでたまるか! これは俺たちの仕事だ‼︎」


 キャロルは煙草に火をつけて、ふうと煙を吐いた。この男、まともに話が出来ない気質のようなので、やはり勘違いに合わせたのは正解だった。もし迂闊(うかつ)にも『人違いですが手伝います、探している人かも知れないので』なんて言ったら、面倒な事になっていただろう。


「何なんですか、この人」


 こっそりと、エリカが言う。


「あとで木の皮でも食わせてやるか」


 キャロルは片眉を上げ、道の脇に生える木を見て言った。木蓮(マグノリア)の樹皮は、生理中の癇癪(かんしゃく)を良く抑える。キャロル流の鋭い嫌味だった。


□□


 長く突き出た岬へと続く道の先に、真っ白に輝く灯台がある。


 天へと高く伸びる灯台は、凡そ200(フィート)あり(60m)、古い時代に作られた割には巨大である。


 屋上では聖火が絶えず燃え、昼は陽炎となって見えないが、夕刻を過ぎれば遥か遠く海の向こうまで神々しい光を放ち、船乗り達の目印となる。


 灯台から少し離れた場所に、薄汚れた天幕(テント)が点々としていた。エリカが横目で中を覗くと、大概の天幕には怪我をしている冒険者が横たわっていた。


「お前らが来るのが遅ぇから、8人もやられちまったぜ。さあさあ。どう、責任を取ってくれるか。なあ?」


 ガストンはそう言って、本陣(パビリオン)前に置いてあった床几(スツール)に腰掛けた。床几は頼りなさげにミシミシと音を立てる。


 ガストンが帰ってきたのを見て、顔や体に傷を作った無骨な冒険者たちが集まって来た。


「無事なのは俺を含めて、たったの5人。8人のうち、2人は死んだ」


 ガストンが顎で示した先、緑の原の上に亡骸が横たわっている。風が吹くと海の匂いに混じって、腐った人間の甘い臭いがした。


 胡獱の会は灯台守(とうだいもり)の依頼を受けて、総勢30名で灯台の解放に当たった。これは胡獱の会の殆ど全戦力に値する。


 ガストンは本気だった。というのも昨今、競争相手にあたる支部が大きな手柄を立てており、胡獱(とど)の会は下に見られている。ガストンはそれが我慢ならない。


 この灯台は聖地であるし、胡獱の会が解放すれば(はく)がつく。が、4日前に30名で挑んだ攻撃は敢え無く失敗し、大半が怪我を負ってサハンから離脱。背に腹は代えられぬと、弟分が組合長をやっている『白い帆船会』に助けを乞うも、なかなか来ない。そして昨日、せっかちなガストンは待つ事ができず、再び攻撃をし、失敗。8名戦闘不能、内2名死亡。今に至る。


「それ相応の働きをしてくれねぇと、みんな浮かばれねえ。化けて出てきたって文句は言えねえよなぁ」


 ガストンは薄ら笑いを浮かべてキャロルらを見た。他冒険者も冷たい目線を向けているが、逆恨みに過ぎない。


 エリカが空気に耐えかね、『初対面の人間に対してその態度はどうなんだ』と物申そうとした時、天幕の1つから1羽の梟が羽ばたいて、ガストンの禿頭に乗った。


「ええいっ!」


 ガストンが自らの頭に向けて拳を落とすと、梟は再び羽ばたいて避け、エリカの腕に乗る。それで、気がついた。


「あっ……。こないだと一緒の子だ」


 梟はエリカに頬擦りをした。


「ケッ! 一向に懐かんと思ったが、お前らの贔屓(ひいき)か! 食っちまおうかと思ったぜ!」


 言われてエリカはふんっと鼻を鳴らし、梟を抱きしめ、べっと舌を出した。こんな男に可愛い梟を喰われてたまるか。


 キャロルはこのやり取りを見て仄かに笑みを浮かべ、言う。


「それで? 精鋭の冒険者様が、たかだかガキ一人にこのザマか?」


「何ぃ⁉︎」


 挑発的な物言いに、ガストンが大声を上げて立ち上がった。拳を振り上げてキャロルに寄る。殴りかからんばかりの勢いだったが、隣に立っていた白髪交じりの男が、それを止める。話が通じそうな、落ち着いた雰囲気だった。


「俺の名前はエイブラハムと言う。灯台の上を見ろ」


 エイブラハムと名乗った男は真っ青な夏天(かてん)を見上げ、指をさした。灯台の遥か上空、4つの黒い点がくるくると旋回している。


 それを見て、キャロルは言う。


鷲獅子(グリフォン)か」


 鷲獅子とは、鷲と獅子を()い交ぜにしたような魔物で、頭は鷲に似て、体は獅子で、巨大な翼がある。非常に獰猛(どうもう)で、人や家畜を襲う。(くちばし)は鋭く、それで(ついば)まれれば一撃が致命傷になる。体も頑丈で、厚い皮下脂肪があるから有効打を与えにくい。


「ご明察。聖火を嫌って遥か天空を飛んでいるが、俺たちが灯台に入ろうとすると、あの魔物が降りて来て暴れる。大半はそれにやられた」


 それを聞いて、エリカとウォルターは目を合わせる。間違いない。百獣軍だ。


「走って中に入って仕舞えば良い」


「ガキは聖火の脇にいる。屋上にも鷲獅子は降りて来るし、そもそもガキを合成獣(キマイラ)が護っている。手懐(てなづ)けたのかなんなのか、魔物が従う原理がわからん。魔性の子だ」


 合成獣とは、様々な獣が合わさった見た目をした魔物である。そうした魔物は数あるが、鷲獅子(グリフォン)人魚(マーメイド)のように名称の付けられていない雑多な種を合成獣と呼称した。何の魔物だか判別できないものに対して用いられる名でもある。


「そうか。それは大変だったな」


 キャロルは原の上に転がっている亡骸に近寄る。乱雑に寝かされているだけで、弔われていないのが気になった。変な悪霊が取り憑けば、人を襲いだす。


 ガストンは眉間に皺を寄せて言う。


「それだけじゃねえ。ヤツは荊棘槌(けいきょくつい)を持っている。灯台守の話によると、封印を解くと言っているそうだ」


 キャロルが聖水を亡骸にかける。すると、その皮膚の下に潜んでいた大量の蛆虫(うじむし)がわらわらと動き出した。蝿もわあわあと音を立て、煙のように天に飛び立つ。深い傷のある腹部に張り付いていた真っ黒い死出虫(しでむし)の塊はほぐれて、さあっと溶けるように散開し、原に消えた。


「なるほど。そんな危険な状況で迂闊にも攻め入ったのか。流石は組合長。その胆力、恐れ入る」


 キャロルは腰の袋から乾燥させた睡蓮(すいれん)の花びらを取り出し、亡骸の上に撒いた。そして亡骸の額に香を載せ、焚く。


 そのキャロルの物言いと、まるでこちらをいないものとして扱う態度を見て、ガストンは拳を強く握り締め、ぷるぷると震え出した。


「ええい、黙れぇい! この小娘があッ‼︎」


 ガストンの禿頭は茹蛸(ゆでだこ)のように真っ赤になってしまった。そんな彼を無視して、キャロルはエイブラハムに問う。


「蛸が教えてくれないから、お前に聞く。占拠の目的はなんだ。それさえ教えてくれれば、私が全てを解決する」


「エイブラハム! 教えてやる義理はねえぞ! 俺の言うことだけ聞いてりゃ目的は達成出来るんだ! 余計な事を知る必要はねえッ!」


「ケント卿を返せ、だそうだ。誰だか知らんがな」


「テメェ!」


 キャロルはウォルターを見て、ウォルターは頷きで返した。馬車引きの名前は、ケント卿。


 ガストンは腕を組み、わざとらしくため息をついて、キャロルに近寄る。


「よーし、よしよし。良くわかった。さっき言ったな? お前が全部、解決するんだな? おうおうおう、是非そうしてくれ。俺はもう手伝わねえ。なーんにもしねえ。勝手にやりやがれ。テメェらが鷲獅子によってたかって喰われる様をとくと拝見させて貰うぜ」


 それを聞き、エリカは口を尖らせる。本当に、なんなんだコイツは。その顔に一発、拳をくれてやりたい。


「そうか? では偉い冒険者様はそこで御寛(おくつろ)ぎになっていて良い。さぞ、お疲れだろう」


「嫌味を言わねば話せんのか! 冒険者同士、仲良くする気はねぇのかよ、 呆れるぜ!」


 ガストンは腰に下げた革袋を地面に叩きつける。ころり、と干し肉や実などの携帯食が転がった。


「好意的に接してこない相手に、そうする必要はないと思っているだけだ」


「こんの女ぁ〜! つくづくぅ〜‼︎」


 ガストンは声を裏返して、地団駄を踏む。キャロルのこうした物言いに、エリカはまったく胸のすく思いだった。一方のウォルターは、()()()()と言った具合に苦笑している。


「弓を貸してくれ」


 キャロルはエイブラハムに言う。手に持っているそれを、使いたい。


「弓? 良いが、何故? 心得はあるのか?」


 弓と矢を受け取る。弓は6(フィート)(1m80㎝)程、(にれ)の長弓。矢は地瀝青(ちれきせい)(やじり)。やや熱を感じるから、作るときに魔力で生成した砂を混ぜたらしい。


「アレを落とす」


 キャロルは空を見上げる。


「馬鹿な。届くわけがない。ましてや、女では……」


 それはエイブラハムだけではなく、エリカもウォルターも思った。二人とも目を丸くする。


「おいおい、鷲獅子はデカい。いいか、小娘。今見えてるような、こんな豆粒みてぇ〜な魔物じゃないんだ。熊さんみたいに、おっきい、お〜っきい魔物なんだぞ? 矢が一本刺さった所で、倒せやしない。な?」


 ガストンはキャロルの肩に手をやる。


「頭は柔い。当てれば落ちる」


「あのなあ……。そもそも、女の子が長弓なんざ使える訳がねえだろ。強がりはよせ」


 キャロルは使わない矢をエリカに渡す。それを見て、ガストンとエイブラハムはお互いに顔を見合わせる。この女、本気でやるつもりだ。


「分かった分かった。名前は何だ?」


「リトル・キャロル」


「よしキャロル。ムキになるもんじゃねえ。俺が悪かった。言いすぎたよ。頭に来たお前の気持ちも分かる。一旦、残ってる人間でどう攻めたら良いか、考え直そう。な?」


 ガストンという男は、頭に血が上ると乱暴な物言いをして相手を追い込む気質があるが、いざ相手が言った通りに行動しようとすると、どうした事か急に弱気になる。言ってしまえば小心者であるし、故に威厳を示すために他人を攻撃するのであった。


「肩の手を退けろ。手元が狂う」


「ほ、本気かよ……」


 ガストンが手を退けると、キャロルは弦を1回、2回と軽く弾いて張りを確認した。目を見開き、矢を持って弓を引く。ぐぐぐと(しな)る。動く標的、その黒い一点に狙いを定める。そして一呼吸を置いて、矢を放った。


 放たれた矢は、天に向かって空を切り裂いていく。矢は眩しい夏の光線に溶けて、誰の目にも見えなくなった。


「エリカ、矢を」


「──え?」


 その矢がどうなったのか分からない内に、キャロルは次の矢を要求する。エリカは空とキャロルを交互に見ながらも、言われた通りに矢を渡した。


 キャロルが再び弓を構えて引いた時、突然空から熊ほどある鷲獅子が落ちて来た。ズドン、と凄まじい音がして、芝が塊となって飛び散る。その顎に刺さった矢は、僅かに首の後ろの神経に達しているようで、嘴からは血の泡が出ている。


「嘘だろ……」


 ガストンは大口を開けて呆然とする。いや、呆然としているのは彼だけではなく、エイブラハムもウォルターも目を見開いて落ちた鷲獅子を見ているし、他の冒険者達も、エリカもまた同様だった。


 キャロルは再び矢を放つ。同じように矢が夏の空に消えていった。上空、3つの黒い点は俄に慌ただしく動き、その内の2頭が徐々に地に向かって突進して来ている。


「うわあっ! 来るぞ! 来るぞ⁉︎」


 ガストンは頭を抱えて、わたわたと慌てる。その時、矢を顳顬(こめかみ)に刺した鷲獅子が落ちて来て、ずしんと地を揺らした。残り2頭。


「エリカ、2本」


 エリカは目をパチクリとさせた。


「3本まとめて」


 言われた通りに、慌てて2本渡す。


「正気か!」


 エイブラハムは声を荒げて言った。いくらなんでも、2本同時に放って2体の鷲獅子を倒すのは無茶である。林檎に当てるのとはわけが違う。相手は動いているのだ。そんな芸当が出来るなら、それはもう人間をやめている。


 だがキャロルは涼しい顔で矢を2本まとめて持ち、同じように弓を引いた。そして、手早く放つ。その矢は、急降下する鷲獅子の額に吸い込まれるようにして直撃。猛々しい鷲獅子の降下は、途端に力無い落下に変わり、顔面から地に叩きつけられた。


 キャロルは弓を返す。


「良い弓だ。(こだわ)ってるな」


 ガストンは目を泳がせながら、小さく問う。


「お、お前。何者だ……?」


「冒険者」


 エイブラハムも問うた。


「白い帆船会の、か……?」


 キャロルは鼻で小さく笑っただけで、その問いには答えなかった。


「そのガキに懸賞金は出てるのか? 出てるなら、さっさと降ろしたほうが良さそうだな」


「へ?」


 威勢の良かったガストンは背を曲げ、キョトンとして小首を傾げる。まるで小動物だった。


「強力な魔物を封じる聖火の側にいるんだ。並の人間なら、長くいれば衰弱する」


 空聖が強化した封なら、なおのこと。


□□


 キャロル、エリカ、ウォルターの三人は灯台内部に入り、螺旋階段を登る。内部は外の気温に比べてひんやりとしていて、(かび)の臭いがしていた。


 先頭を行くキャロルが言う。


「空聖の封は荊棘槌(けいきょくつい)で壊されるようなものでもない。きっと、私でも解けないくらいだ。気にしなくて良い」


 階段を登る最中、エリカは静かだった。ずっと、考えているのだ。


 さっきのキャロルの弓捌き、凄かった。格好よかった。魔法や剣、体術だけじゃなく、弓も扱えるなんて。それに、あれだけ大人に煽られた後に、あんなに冷静に魔物を倒すとは。自分に置き換えてみたが、絶対に無理だ。


 キャロルの隣にいると無意識に比較してしまって、自分の弱さが目立つ。前に『いつまでもそのままでいて欲しい』と言われたけれど、本当にこれで良いのだろうか。自分一人、置き去りにされているような気がして。


「……きっと、上にいるのはセオっていう子ですよね」


「状況的に見ればそうだな」


 落ちて来た鷲獅子には、やはり例の印が刻まれていた。


「助けたいです」


 エリカは俯きながら、階段を登る。


「きっと、追い込まれただけなんだと、思います。そのケント卿とかいう人が攫われて、それで、どうしようもなくて、混乱してるんです」


 エリカはそうあって欲しいという願いも込めて、それを口にしていた。


「だから、私が何とかセオっていう子を説得します。きっと、困ってるし、後悔していると思うから」


 キャロルは何も言わず、耳を傾ける。


「私に、任せてください。任せて欲しいです」


 エリカはこの旅の中で、正解が分からなくなった。己の敵は何なのだろう。どこに向かえば良いのだろう。自分は何がしたいのだろう。何も分からない。


 どこにも正解はない事は分かっている。だけど、やっぱり正解を求め続ける自分もいて。答えを探してしまうのは、きっと、道が見えないと怖くてしょうがないから。


 だから、今こうして誰かを『救いたい』と思うこの気持ちだけは、確かだと信じたい。自分の手でセオを助けて良かったと、思いたい。自分によってセオは救われてほしい。


 ──自分は正しいのだと、思いたい。


「全部、私にやらせてください。じゃないと私、絶対に後悔する」


 エリカの中にあるのは焦りだった。(かわ)きに似た、強い強い焦りであった。それも、キャロルと自分を比較しての焦り、答えが見つからない焦り、様々な焦りが混在して混沌としている。


 焦りは徐々に不安に変わって、その不安が器の水滴のように他事の不安を集めて、漠然(ばくぜん)とした恐れになる。滴るのは飲む事のできない濁った水。それに映る己を見て、自信を失い、自分を嫌いになる。


 想像が出来てしまうのだ。自信のない弱い自分を隠すために、無闇に人を傷つけていき、醜くなっていく未来の自分を。ガストンのようになるかも知れない。


「どうする、ウォルター」


 最後尾を行くウォルターに問う。


「……世話をかける」


 その言葉に、エリカは力一杯に拳を握った。必ず、セオを救うと決意する。そしてエリカは狭い階段上で、キャロルと場所を替わった。


「絶対に、助けるんだ。絶対に……」


 取り憑かれたように言うエリカの背中を、キャロルはじっと見ていた。


「エリカ」


「はい?」


 エリカは無理に笑顔を作った。決して自分の心の騒めきと、真っ黒な渦を悟られないように。それが分かって、キャロルがもう一つ声をかけようとした時。


 ふと、嫌な感覚がした。自らの胸に、煌めくものがある。


 ──原典が仄かに光っている。


 その血の中に金の気泡が宿って、耳鳴りがした。

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