15歳の頃
聖母の被昇天祝日である8月15日、同年同月同日に生まれた涼と琉海、家が近かったこともあり、二人は自然と友人になった。
常に冷静で成績もトップクラスの琉海、文武両道の彼ではあるが、どこか優等生過ぎる自分に物足りなさを感じていた。
一方、涼の方は、成績もスポーツも中程度だが、明るく真っすぐな性格。物事を深く考えないとも言えるが、自らの信念に従い、目標に向かって突き進む。常識という枷に囚われている、と感じている琉海にとっては、眩しい存在でもあった。
「桃園の誓い」により結ばれた琉海と涼は、無二の親友として、常に行動を伴にしていた。
2007年12月24日、二学期の終業式が終わり、ゲーセンを堪能した琉海と涼は、クリスマスで賑わう商店街を抜け住宅街に向かっていた。鈍色の雲が垂れ込め朝から降っていた雨は雪に変わりそうな空模様だ。
「寒っぶぅ〜」
「これは、雪になるなぁ。ま、久々にゲーム、やりまくったし、さっさと帰るか?」
空を見上げ、独り言のように、琉海はそう言った。
「ヴァンパイアファイター、一勝六敗。うーーん、最後に一矢は報いたけど、いつも琉海には勝てないなぁ」
何事も器用な琉海は、当時アーケードゲームとして一世を風靡していた「ヴァンパイアファイター」でも涼に連戦連勝だった。
最後の一戦は彼に花を持たせて、わざと負けた。まだ、高校生なのに、そんな配慮もできてしまう、琉海。そんな自分を誇るのではなく、どこか自己嫌悪を感じてしまう。俺は涼に、その明るさに、嫉妬でもしているというのか?
「お前、アポカリスとかマニアックなキャラ使うからだよ。あれ、アドバンスガードできないんじゃなかったっけ?」
「格ゲーは殴ってなんぼじゃね? 攻撃は最大の防御ってね。コブラパンチ!!」
「ウグッ。ちょっ、お、お前、今の腹パン、手加減してねぇだろ!」
今日の天候のような琉海の心中を察したのだろうか、話題を変え明るく応じる涼。コイツ、実は、とんでもない大物なんじゃないか? 捉え所のない自らの憂鬱を斟酌してくれたような気がする。そんなことを考えていた琉海だったが……。
ミィミィ
遠く、小さく、消え入るような鳴き声が聞こえる。捨て猫だろうか?
「子猫?」
「こっちだ!」
突然、全速力で走り出す涼。困っている人でも動物でも放ってはおけない性格の涼、脊髄反射で人助けをしてしまうヤツ。
そういえば、中学の頃、不良が同級生を恐喝している場面に出会した。先生を呼びに行った自分、後先も考えず不良に立ち向かった涼。鼻骨骨折の重傷を負い、整形手術をするまでの一年間、鼻が曲がったままだった親友。
「コイツと自分とは人としての器が違うのだろう」
そんな涼の思い出に浸っていた琉海だが、ああそうだった! 彼の美点には大きな問題点があった。
「ちょっと、待て! いきなり全力で走り出すヤツがいるか? 声の方向を確かめないと」
そうなのだ、いくら豪傑だったとしても、張飛一人で数万の軍勢に勝利することなどできない。一旦立ち止まり、耳を澄ませる二人。
ミィ
先ほどよりも小さく、か細い、命の灯火が今にも消えてしまいそうな鳴き方だ。
「あそこの、一軒家とアパートの間、あたりじゃないか?」
「よし、行ってみよう」
家屋に挟まれた狭い路地、親猫に遺棄されたのか、五匹の子猫はすでに息絶えているようにも見えた。手前の子猫に手を触れてみる琉海、すでに冷たく息をしていないようだ。それでも、諦めないのが涼だ。
「さっき、確かに鳴き声がした。生きてる子がいるはずだ! この子、ダメ、この子、この子、この子もダメだ。最後の子、あっ!! この黒い子の心臓、動いてる、息がある!」
一匹だけだったが、真っ黒な毛並みの子猫が生きていた、確かに息をしていた。
「おおお! じゃ、商店街のところの、動物病院へ」
商店街の端の動物病院が、ここからは最も近いだろう。
「おう! 琉海、マフラー貸せ!」
「って、おい、おい!! 自分のを使え!」
「お前のの方が暖かそうだからさ。ほーら、これで、どうだ、暖ったかいだろ、今から病院に連れてってやるからな。それまで、頑張れ!」
まったく! いつも自由奔放な涼、どこか危なっかしくもあり、振舞わされつつも、保護欲を掻き立てられてしまっている、琉海。
ミィ
「あ、この猫、返事したぞ!」
「いいから、早く」
二人は、鍋島商店街を抜けタイムズ動物病院へと急いだ。




