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涼の誓い

 救急車のサイレン音、ちらと見えた手術室、リノリウムの白い壁、眩しい照明、途切れ途切れの記憶が収束していく。じっと見つめていたステレオグラムは、次第に形を帯び認知という映像を浮かび上がらせた。


 涼は病室のベッドに寝ている自分を発見した。胸のあたりが熱く痛むのは、すでに移植手術が済んだ、ということだろう。


 意識が戻った涼を見て、看護師が主治医である琉海を呼びに行ったようだ。


「どうだ、具合は? 私のゴッドハンド、素晴らしいだろ? お前に五十年の命をくれてやったと思うがな」


「自分で、ゴッドハンドなんて言うかよ! でも、ありがとう。琉海と秋のお陰だ」


「うん? アキ? 去年死んだ猫のことか?」


 なるほど、そういうことか、今までの全ては、本当に神の御技(みわざ)だったのだろう。


「ここ、俺の左胸で、今も生きてる猫のことだよ」


「なんだか分からんが、とにかく、本当によかった」


 十字架に掛かった者が三日後に復活するなんて……。涼は数日前まで神など信じていなかった。だが、秋の手紙を読んだ直後にドナーが見つかる。これを奇跡と呼ばずして何という?


 猫のアキは涼のドナーとなるべく転生してきた。だが、彼女のたっての願いを聞いた神は、一週間だけ、想い人の花嫁となることを許した。そうとでも考えないと話の辻褄が合わない。


 涼は思う。俺が猫のアキに与えたもの、人の秋が命を賭して俺にくれたもの、その二つは全く釣り合っていない。俺は秋に大きな負い目を感じている。とはいえ、秋から貰った大切な命、無駄にすることなどできない。俺は、これから、どう生きるべきだ?


「よし決めた! 俺、獣医師になるよ!」


「って、唐突に何だ? お前、今から獣医師の勉強をするってことか?」


 唐突でもなんでもない。俺は秋がくれた命を使って何を為すべきか? 答えは明白だ。俺には猫を助ける責務がある、そうだろ?


「その通りだ!」


「まったくお前ってやつは……。だけど、なんか、いいんじゃないか? ま、変わらず、俺は、お前の応援団でいてやるさ」


 思い立ったら行動しないと収まらない性格の涼、一心鏡の如し、曇りのない彼の真っすぐさが、いつも眩しい琉海は笑顔でエールを送った。


「ありがとな、琉海」


 そして涼は秋に誓う。


 君にもらったその全てを俺は猫のために使う、それが大切な君に送る精一杯の()()()だと思うから……。

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