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低評価をつけ続けた男の末路

作者: 橋下悟

毎日暇だなぁ〜……


大学って楽しそうなイメージあったけど、あれは幻想だな。

リア充だけが、大学サイコーって感じだ。


別に、つまらなくも無ければ、面白くない。

大変ではないが、とにかく暇だ。


特に夏休み。

二ヶ月近く休みがあってもやることがない。


サークルに入るのもめんどくさい。

部活なんてもっとめんどくさい。


ソシャゲも飽きた。

ソシャゲに課金するほどの金もないし、無課金でやるほどハマってもいない。


バイト?

いやいや、バイトは嫌だ。

暇な方がマシ。


ということで、6畳の部屋にクーラーを強めに設定。

今日もひたすら、なろうの小説を読み漁る。

昼夜も逆転してしまったな。

直す気も無いが。


なろうの良いところはもちろん無料だ。

暇な大学生にとって、この無料で読めるのはかなりでかい。


さらに、睡眠を削るほど面白い作品もある。

こういう作品は、ほとんど読んでしまったな。

久しぶりに寝不足になるくらい面白いのを読みたいもんだ。

ま、今の俺にとっては、睡眠などいくらでもとれるのだが。


とりあえず、新規開拓かなぁ。

面白いの無いかな。


………………………………


ん〜…………


微妙…………


評価:1


ポチポチっと


………………………………


ん〜…………


まぁ…………


読めなくは無いんだけどなぁ


評価:1


ポチポチっと


………………………………


ぉ!


これ、結構面白いぞ!


………………………………


いや〜面白かった。

最後まで読んでしまったな。


評価は面倒くさいから付けない。


1評価は楽でいいんだけどな。

面白いと評価をつけるのは面倒くさいんだよね。


まぁほっといても人気出るだろ。


さて、次いってみよう!


………………………………


ぁ、これ設定がダメだ。

読む気しねぇ。


評価:1


ポチポチっと


!!

なんだ!!

眩しい!!

夜中だぞ!!





部屋中を強い光が包み込む





………………………………




見渡すと、そこは草原だった。


……これ……は?


どこかに飛ばされたのか?


まさか?


異世界?


とりあえず、草原だな。


何かいるのか?


辺りを見回してみる。


空は晴れ渡っている………………………………


草原………………………………


数百メートル先に森………………………………


遠くにうっすらと山………………………………


鎧………………………………


ん?


鎧?


青白い鎧が、数メートル先に光っている。


いや、よく見ると鎧を着た人だな。


勇者っぽい。


俺が召喚された勇者じゃないのか?


「おい! 危ないぞ!」

「ぇ?」


「グアァァァァ!!」


頭上からグリフォンのような化け物が襲ってくる!

なにこれ?

ガチ異世界?


「ちょ! コワッ! 待って!」

「下がれ!」


慌てて飛び退く!

ガッギーン!


男が剣でグリフォンの爪を受け止める。

「ハッ!」


ブワッ!


男が剣を薙ぎ払う!

グリフォンが引いて距離を取ろうとする!


シャッ!


が、剣から光か何かが飛び出て、グリフォンを真っ二つにする。

「グエェェェェッ!!!」


大量の血が飛び散る。


おぉ!

すげぇ!

倒したよ!

一撃で真っ二つだ。


「キミ! 大丈夫か?」

「はい、ありがとうございます」


男は青白い鎧を全身にまとう。

いかにも勇者って感じだ。


手に持つ剣も美しい。

青白い刀身がよく輝いている。



ぁ……



でも……



顔はおっさんだ……



「あの、あなたは?」

「私は、五味五太郎ごみごたろうだ」


「キミは?」

「俺は一ノ瀬一いちのせはじめといいます。

先程はありがとうございました。

死ぬとこでした」


「いや、いいんだ。 それより、この世界のことを教えてくれないか?」

「ぇ? この世界の人じゃないんですか?」


「あぁ、今さっき来た。別の世界から飛ばされたようでね」

「自分もさっき飛ばされてきました」


ぁ〜、二人揃って異世界にね。

これじゃ何の情報も得られないな。









「ということは、同じような状況ってことだな」

「そうですね。 まずはこちらの世界の情報を得たいですね」


「とりあえず、人がいるところを探そうじゃないか」

「そうですね。この辺りは何も無さそうですが……」


「それなら、向こうの村へ行こう。きっと人がいるぞ」

「ぇ? 分かるんですか?」


「あぁ、見えるぞ、あっちだ」

「え?」


マジか。

全然見えないけど。


「あぁ、私は老眼でね。遠くのほうがよく見えるんだ」

「……そうなんですか」


老眼レベル高すぎだろ。

そんな遠くまで見えるもんなのか?


「では、一ノ瀬くん、改めてよろしく」

「こちらこそよろしくお願いします」


とりあえず二人で村へ向かうことになった。

五味さんすげぇ強いし、この人といれば安全だろう。


平坦な道をしばらく歩く。

歩きながらお互いの状況を話す。


「五味さんも、突然強い光がきて気づいたらここにって感じですか?」

「あぁ、そうだよ。ちょうどそんな感じだったな。一ノ瀬くんもか?」


「そうです。ネットしてたんですよ。そしたら急に」

「私もネットしていたな」


「俺はネット小説読んでました。そしたら急に光って」

「ちょっと待て。もしかして、小説家になろうか?」


「そうです、そうですって五味さんもですか?」

「そうだなんだよ。それも、ちょうど読み終わったところだ」


「全く同じ状況ですね。なろうが何か転生と関係があるんでしょうか?」

「さぁどうだろうか。考えてもわからないな」


てか、同じ状況なのに、装備の差エグくないか?

俺ジャージなんですが。


「もうすぐ村だ。いろいろ聞いてみよう」

「そうですね」


村に到着する。

簡素な柵に30軒くらいの家がある。


農作業をしている人も数人いるな。

「すみませーん」


「ちょっと、一ノ瀬くん、まず日本語通じるかわからんよ」


「おや? 旅人ですか?」


「ぁ、通じましたね」

「そうだね、好都合だ」


「作業中にすみません、私達はこの世界に来たばかりで何もわからない状態でして。

どなたか、このような転移に詳しい方はいらっしゃいますか?」

「あぁ! 転人てんじん様だっぺな」


「テンジン? 異世界から来た人のことかな?」

「そうそう、異世界からきたつえぇ人たぢのことだっぺよ!」


五味さんと俺は顔を見合わせる。

話が早くて助かるな。


「ちっと待ってくれ。村長さ呼んでけら」

「はい、お願いします。ありがとうございます」


村人が小走りで奥へ行く。


「日本語……通じましたね」

「そうだな。よかったよ」


「いきなり異世界人だと言ってしまったが、これで良かったんだろうか……」

「え? いけないんですか?」


「いや、魔王退治に行かされたり、異世界人だから見世物になったりとか、ネガティブな転移もあり得るだろう?」

「そうですねぇ。でも五味さんめちゃめちゃ強いから大丈夫ですよ」


「まぁそうだな。転移を隠したままの行動も怪しまれそうだし」

「そうですよ。転人様って様付けでしたよ。きっと大丈夫です」


雑談をしていると、奥からプルプルと震えたおじいちゃんがゆっくりとやってくる。


…………………………



…………………………



やってくる……………………


…………………………


歩くのが遅いな。


こちらから行こう。


五味さんも同じことを思ったのだろう。

二人共進み出す。


「これはこれは……転人様ですな……」

「五味五太郎と申します。よろしくお願いします」

「一ノ瀬一です。よろしくお願いします」


「これはご丁寧に。わしはこの村の村長ダービルダベルゴヴィナです」


ん?

今なんて?


「え?」

「ダービルダベルゴヴィナです」


「すみません、もう一度お願いします」

「ダービルダベルゴヴィナです。長いようでしたら、カッサンとお呼びください」


カッサン?

いや、原型ないよね?


「わかりました。村長」


五味さん?

カッサンのくだりは無視で、村長と呼びますか。

けれど、確かにそれが良さそうだ。

俺も村長と呼ぼう。


「五味様、一ノ瀬様、とりあえず今日はうちに泊まってくだされ。

転人様について、わしが分かっている限りをお話させていただきます」

「それはありがたい」

「助かります、ありがとうございます」


村長に付いていく。


…………………………


…………………………


…………………………


…………………………


…………………おっせぇ〜


村長の家はすぐ近くにあった。


でも結構時間かかった。



「小さな村ですが、おくつろぎくだされ」

「「ありがとうございます」」


村長の家は、まわりの家よりやや大きい平屋だ。

村長だからといって、それほど大きいわけではない。


というか、大きかったら移動に時間がかかりすぎるだろうな。

2階などあっても、ヤツは階段を上ることができないだろう。


「こちらをどうぞ」


村長の奥さんだろう。

お茶……いや、お湯だな。

お湯を出してくれる。


…………………………


…………………………


…………………おっせぇ〜


こいつもか。



「ありがとうございます」


「まずお聞きしたいのだが、転人っていうのかな? 我々のような人間は他にも?」

「はい、たくさんの英雄がおりますぞ。

転人様は、みんな王都か聖都に行くのですじゃ」


「王都?」

「そうです、王都はこの国の中心ですじゃ。

王都には転人ギルドがございます。

なんでも、最初にこの世界を訪れた転人様が作ったそうな」


「おぉ、それはありがたい情報だ」

「そこに行けば、いろいろと分かりそうですね」

「ここから丸一日歩いたところに、パッサルという町がございます。

パッサルの転移魔法陣に乗れば、すぐに王都に着きますぞ」


「転移魔法陣とは便利ですね」

「どうします? すぐに出発しますか?」


「いえいえ、この時間に出れば夜になってしまいます。

夜はモンスターもでますし、盗賊も現れ危険です。

今夜はここで休んで、明日の朝出発してくだされ」

「それはありがたい」

「ありがとうございます」


今日は泊めてくれるそうだ。

助かった〜。

異世界転移ってハズレもありそうだし。







翌日


目覚めると、家………………

ではない。


異世界だ。


昨日は五味さんといろいろ話そうと思ったが、五味さんが一瞬で寝てしまったため仕方なく俺も寝た。

しかし、すさまじいイビキと歯ぎしりだったな。

あの状況で寝れたということは、俺も結構疲れてたんだな……


「おはようございます」

「あぁ、おはよう」


五味さんも起きたようなので、挨拶をする。

鎧と兜をつけていないと、本当にただのおっさんだ。

兜でM字ハゲが綺麗に隠れていたのだろう。


居間に行くと、村長がぷるぷると震えている。

「おはようございます、朝食が用意できています」

「「ありがとうございます」」


俺たちは、朝食に出されたクッソ硬いパンを食べる。

まぁ、異世界だし、文明もそんなに発達してなさそうだから食料的には豊かじゃないんだろうな。

昨日の夜はお粥っぽいやつだったし。

てゆうか、こんなに固いパンを村長たちは食えるんだろうか?


村長はぷるぷると震えた手でなんとかパンをちぎる。

そしてちぎった一口を永遠に噛み続ける。


俺と五味さんは、その間に朝食を終えた。

ジジイはまだ一口を噛み続けている。

あれだな、これ長くなるやつだ。


「村長、馬車が来ましたよ」

村人が来て教えてくれた。

うん、さっさとパッサルとかいう街へ行こう。


「……………………」

何か言おうとしているが、

ジジイはパンを噛み続けている。


「村長、ありがとうございました。我々は村を出ます」

「本当にありがとうございました」


五味さんと俺はお礼を言って家を出る。


「……………………」

何か言おうとしているが、

ジジイはパンを噛み続けている。


ふと、奥さんの方を見る。

「……………………」

何か言おうとしているが、

ババアもパンを噛み続けている。


よし、さっさと行こう。


「転人様ぁ、こちらですぁ」


馬車というより、荷台のようなものがあった。

まぁ俺たちが来ることがわかっていたわけではないので、荷台に乗せてもらえるだけマシだろう。


「「ありがとうございます」」


俺たちは荷台へ乗り、パッサルへ向かう。


道中は長いので、五味さんにいろいろ聞いてみる。


「昨日いろいろと話そうと思ったんですが、五味さんてなろうを見てたら転移したんですよね?」

「あぁ、そうだよ。一ノ瀬君もだよな?」


「そうです。あの、転移のときって何かボーナスとかがあったんですか?」

「いや、よくわからないな。なろうで評価をつけたら急に周囲が眩しくなって気がついたらっていう状態だったよ」


「ぁ、それ俺も全く同じです。でも……」

「この装備の差、だろう?」


「そうです。五味さんめちゃくちゃ強いし、俺戦ってないですけど、多分弱いですよ」

「ふーむ、まぁ王都で詳しく話を聞こうじゃないか」


「まぁそうですね。考えたってわからないですし」

「ところで、一ノ瀬くんは転移前は何をしていたんだい?」


「俺は大学生ですよ。江田エタ大学ってゆう誰でも入れるところですね」

「そうか。いいね、大学生」


「そうでもないですよ。俺、充実してなかったんで、毎日暇でした。

五味さんは、お仕事は何を?」

「あぁ、私は公務員だ。市役所で働いていたよ」


「おぉ、凄いですね、俺も市役所に就職したいですよ」

「いや、私の時代は凄くないよ。今みたいに人気なかったから」


その後、転移前の話を結構した。

どうやら五味さんは、独身で一人暮らし。

定時に帰っては、なろうを読み漁っていたらしい。

俺も暇だから、結構読んでる方だと思ったけど、五味さんは俺よりはるかになろうに詳しかった。


「一ノ瀬くんは、小説を書いて投稿したりしなかったのかい?」

「いや、俺は完全に読み専ですよ。書くのは無理ですね。そういう五味さんは?」


「私は一度だけ書いたんだけどね」

「そうなんですか! 凄いですね。なんてヤツですか?」


「性器転生というタイトルだよ」

「……ぇ?」


「自らが女性器に転生してしまう物語だ」

「……………………」


「一部からは人気があったのだが、内容が過激過ぎたらしい。すぐに規制されてしまってね」

「……………………」


でしょうね。

としか言いようがない。


「おい!止まれぃ!」


!!

街道の脇から突然声が聞こえる。

盗賊だ!


「装備と金全部置いていきな!ヒャッハー!」


いかにもって感じの盗賊だな。


「転人様ぁ、こいつらはこの辺りを縄張りにしている盗賊ですぁ」

「て、転人!?」


おぉ、ビビってるね、盗賊。

やっぱ転人てすごいのね。


でも、俺多分普通だよな。

身体能力変わってる感じしないし、装備も普段着のジャージだし。


「五味さん……」

「うむ、任せなさい」


そう言うと五味さんは、盗賊たちの背後に回り込み次々手刀で気絶させていった。


「ふぅ……」

「やっぱりめちゃめちゃ強いですね。今の感じだと装備関係なく強くないですか?」


「あぁ、だろうな。体がものすごく軽いんだ。多分魔法も撃てる」

「えぇ!!マジですか!?」


「なんとなくなんだが、魔法使える気がする」

「やってみてくださいよ」


五味さんは誰もいない方向へ手をかざす。

「ふん!」


手から火の玉が出て地面へ向かって飛んでいく。

ドガン!!

地面が1m位えぐれている。


「す、すげぇ……」

「よし、やっぱりだ」


なんなんだよ、この差……


その後、盗賊たちを縛って街へ向かう。


「それで、性器転生の内容なんだが……」


ぇ……?

何?

その話続くの……?


「…………………………」


このおっさん、クソしょーもないのかもしれない。

そして、そんなクソしょーもない話をしていたら、街に着いてしまった。








パッサルは人口500人くらいの街らしい。

街を観光したいとは思わない。

それよりも早く王都へ行って、この世界のことが知りたい。

それはどうやら五味さんも同じらしかった。


「よし、さっさと王都へ向かおう」

「ですね、いい街だとは思いますが、早く情報が欲しいです」


「ということで、転移魔法陣のところへ案内してください」

「へい、こっちですぁ」


パッサルの教会っぽいところに連れて行かれる。

村人が神官っぽい人のところへ行く。


「神官様ぁ、転人様だっぺよぉ」

「おぉ、これはこれは、ようこそいらっしゃいました」


「ご丁寧にどうも」


こういう対応は大人の五味さんにお任せしよう。


どうやら、転移魔法陣を使うには結構なお金が必要らしいけど、転人は無料でいけるらしい。

転人ギルドが負担してくれているようだ。

これは、王都の転人ギルドに期待できるかも。

すごい協力してくれそう。


そして、教会奥の転移魔法陣へ行く。

魔法陣がうっすらと光を放っている。


「おぉ、すげぇ、異世界って感じですね」

「そうだな。王都にも期待できるぞ」


俺と五味さん、それから神官が転移魔法陣へ入ると、視界が真っ白になる。

10秒くらいだろうか。

景色が変わる。


部屋のデザインがそれほど変わっていないので、おそらく王都の教会だろう。

パッサルの神官が、王都の神官に事情を説明してくれる。


「では、ここからは、この者に案内させます」

「転人様、こちらですわ」


「おぉ!すげぇ!」

外に出ると、まさに異世界王都って感じだ。

中世ヨーロッパの町並み。


「転人ギルドはこちらです」


ん?

てか近ッ!


「ずいぶんと近くにあるんですね」

「そうなんです。こちらの世界に来た転人様が、ここの転移魔法陣に来ることが多いので、場所もこちらに移しました」


「なるほど、案内ありがとうございます」


立派な石造りの建物だ。

中は3階建だろうか。


中に入ると、テーブルがたくさん並んでいる。

ギルドというより、食堂みたいだな。


テーブルには、何人か座って食事をしているな。

ぁ、みんな日本から来たっぽい。

服装と雰囲気がこっちの人と違うな。


「一ノ瀬くん、奥に受付があるぞ。行ってみよう」

「ぁ、あれですね」


奥には受付っぽいところがある。

受付には、女性がいる。


おぉ!

すげぇ美人だ。


肩くらいまでの真っ黒な黒髪。

やや目つきが鋭く、細い眼鏡をかけている。

黒いスーツにタイトなスカート。

異世界に合わないスーツをビシッと着こなしている。


「ここは受付でよろしいですかな?」


五味さんが聞いてくれる。

やっぱりこういう対応は大人の五味さんに任せよう。

まぁ戦闘も五味さんに任せてるけど……


「はい、新規の方ですね?」

「そうなんです、昨日こちらの世界に飛ばされまして」


「なるほど、では登録をしましょう。

こちらへどうぞ」


奥の部屋に案内される。

転人ギルドっていうくらいだから、さっきの人たちも、このお姉さんも転移してきた人なんだろうか。


「では、ご説明させていただきます。

私、転人ギルド事務の片桐かたぎりと申します」


名刺を渡してくれる。

この世界でも名刺とか作れるのか。


「五味五太郎です。どうぞ、よろしく」

「一ノ瀬一といいます。よろしくお願いします」


軽く挨拶をして、席に着くと、片桐さんがノートパソコンを開く。

ノートパソコンとかあるんだ。

向こうの物を持ってこれるのかな?

俺と五味さんがノートパソコンを見ていると、片桐さんが説明してくれる。


「このノートパソコンは、私の能力です。

他にもいろいろあるのですが、それらの説明もしますね」

「能力でノートパソコンですか……」


「まずはこの世界には、日本から不定期にいろいろな人が転移して来ます。

何故日本人だけなのか、よく分かっていません。

また、転移してきた人は様々な能力がある場合が多いです。

私でしたら、このノートパソコンが能力で出し入れできます。

電源は必要ありません。

それから、ノートパソコンで入力したものをプリントアウトすることができます。

先程の名刺も能力で作ったものです」

「なるほど、すごい能力ですね」


トントン……

ドアからノック音がした。


「失礼します」

ガチャッ!


「さっき受付に行ったら誰もいなくて、ここに行けって言われたんですけど」

「新規の方ですか?」


「はい、昨日こっちの世界に飛ばされてきました」

「ちょうど今新規の方に説明をしていますので、ご一緒にどうぞ」


若い男性が入ってくる。

歳は俺と同じくらいってゆうか、知り合いだった。


「おい、一宮いちのみやじゃんか」

「ぇ? 一ノ瀬?」


「おぉ、2人は知り合いなのか?」


五味さんが驚いて聞いてくる。


「そうなんですよ、大学の同級生です。

いやー、知り合いがいてちょっとホッとしました」

「俺も安心したよ。わけも分からずここに連れられてさ」


お互いに安心したようだ。

ちなみに一宮はパジャマだ。

俺はジャージ状態で転移してきたけど、パジャマよりマシだな。


「お二人は知り合いなんですね。

同時期に三人の転移ということは、おそらく神も同じでしょうね」


片桐さんが納得したように言う。


「神? 神がいるんですか?」


「えぇ、こちらに転移してくるのは、神の力が働いていると考えられています。

転移してきた人物は、その神の力によって能力が左右されているようです」

「先程言っていた同じ神、というのはどういうことですかな?」


五味さんが、あごい手をあてながら聞いている。


「そうですね。例えば私の場合は、事務の神です。

戦闘系の能力がありませんので、このギルドで事務の仕事をしております」

「あの、俺にも何か能力があるんでしょうか?」


俺は我慢できずに聞いてみた。

ここが一番気になるところだ。

何か能力があれば、俺も異世界チートしたい!


「そうですね、それは調べてみないとわかりません。

ちょっと失礼しますね」


そう言うと、片桐さんはノートパソコンを俺の方に向ける。


パシャッ!


「……なるほど、一ノ瀬さんのステータスは一般的なこちらの市民と変わらないようです」

「……ぇ?」


そんな……

さっきも能力持ってる場合が多いって言ってたのに……


「こちらを御覧ください」


壁がパッと光る。

プロジェクターだ。

壁にパソコンの画像が出されている。


名前:一ノ瀬一

神:なろう神

LV:1

HP:22

MP:0

力:7

器用さ:8

守備:6

体力:7

素早さ:4

魔力:4


「こちらが一ノ瀬さんの能力です。

こちらのパソコンにデータを入れることで、ギルドカードも作ることができます。

身分証にもなりますので、大事にとっておいてください」


そう言うと片桐さんは手をかざす。

片桐さんの手が淡い光を放って、金属のプレートが出現する。


「おぉ、すげぇ……」

「では、お二人も調べてみましょう」


そういうと、片桐さんは一宮と五味さんのほうへパソコンを向けて写真を撮る。


「これは!!英雄クラスです!!」


片桐さんが目を見開いて驚いている。

ん?

俺と変わらんような……


名前:一宮一也

神:なろう神

LV:1

HP:17

MP:2

力:6

器用さ:9

守備:4

体力:4

素早さ:6

魔力:7


いや、これ一宮か。

ってことは五味さん?


名前:五味五太郎

神:なろう神

LV:17

HP:722

MP:430

力:379

器用さ:198

守備:433

体力:344

素早さ:322

魔力:458


ちょっ……

めちゃくちゃ強えぇ〜……

グリフォンっぽいヤツと盗賊倒したからかレベルも高いな。


「このステータスは強い方なのですか?」

五味さんがややドヤ顔で、片桐さんに聞いている。


「そうですね、一般のLV17の場合、各ステータスは100前後、高くて150くらいです」


えぇ!!

それ超規格外じゃん!!


そして、五味さんの表情が満更でもない。

というか、キリッとしたドヤ顔をキープしている。


「なるほど、それで神という項目は?」


五味さんの声がさっきより低く、渋い。

完全にキメている。


「そうでした、説明の途中でした。

すぐにでもギルドマスターに報告したいところですが、最後まで説明させていただきます」


そういうと、片桐さんはこちらに向き直し、話を続けてくれた。


「先程お話した、神の力で転移するというものです。

同じ時期に転移してきたので、やはり全員同じ神でしたね。

なろう神という神は、私も初めて目にしました」

「……初めて……なんですね?」


なんだろう、五味さんの聞き方がいやらしい。


「そうですね、これまで見たことがありません」

「これまで見たことがない……つまり?」


五味さんが、片桐さんに何か言わせようとしている。


「?」


片桐さんは意味不明なのだろう。

不思議そうな顔をしている。


「初めて……なんですね?」


こいつあれか、初めてってワードを言わせたいんだな。


「えぇ、初めてです」

「ほほぅ……初めて……」


五味さんが顎に手を当ててニヤリと笑う。


……なんだろう。

これは完全にセクハラでは?


「なろう神だと、何かスキルがもらえたりするんですか?」


片桐さんがセクハラと気づく前に聞いてみる。


「それはわかりません。ただし、確認する方法はあります。

このギルド内には、神殿があります。

その神殿に行けば、神からメッセージを受け取ることができたりします。

ただ、そのメッセージは曖昧で、その神によって異なります。

何のメッセージも出さない神もいれば、神自身が現れることもあるようです。

ここでの説明が終わりましたら、神殿へ向かってください」

「了解です」

とりあえず神殿に行かないと何もわからないってことね。


その後片桐さんにギルドの仕組みやレベルアップについて教えてもらう。

だいたい予想通りだ。

ギルドはクエストを受注してこなせばランクが上がる。

レベルは魔物や人間と戦えば上がるらしい。

そして、レベルが上がるとスキルや魔法を習得するらしい。

ちなみに、俺と一宮は何のスキルも魔法も習得していない。

けれど五味さんはいろいろと習得しているようだ。


「スキルや魔法について質問してもいいですかな?」

五味さんは、やや低めの声で片桐さんに質問する。

まだキメ顔をキープしているようだ。

「このパソコンには表計算ソフトも入っていますので、魔法やスキルについてもまとめてあるんです。プリントしてお渡ししておきますね」


「あと、そうだな。この世界には奴隷制度はありますかな?」

「いいえ。大昔はあったそうですが、初期の転人たちによって廃止されたようですね」


「そうですか……」

気のせいか?

五味さんがややがっかりしたように見える。










その後俺たち三人は神殿へと向かう。

「…………………………」

五味さんは無言で魔法とスキルの表を確認している。

さすが市役所職員だ。

仕事ができるように見えるな。


「なるほど……」

「何かわかったんですか?」

五味さんがつぶやいたので、質問をしてみる。


「このスキルを見てくれ」

「【異物除去】ですか?」


「そうだ。これは非常に重要なスキルだな。絶対に習得しなければならない」

「そうなんですか?」

そんなに重要なスキルには思えないが……

強力な攻撃スキルや回復魔法のほうが必要じゃないのかな。


「この世界の文明を見る限り、ゴム製品などは恐らく使われていないだろう?」

「そうかもしれませんね」


「わかるか? 避妊する方法が限られるんだ」

「は?」

このおっさんは何を言っているんだ?


ん?

よく見ると、さっき渡されたスキル表に印がつけられている。

【魅了】【睡眠】【変身】【擬態】【透明化】


「あの……五味さん、いやらしいことを考えていませんか?」

「この【変身】や【擬態】というスキルは非常に気になるところだ。

 どの程度の精度なのか……それによっては必ず習得しなければならないな」


ダメだ。

このおっさんは話を聞いていない。










「おぉ……異世界って感じですね」

神殿はとても大きな建物で、天井も非常に高い。

大きなステンドグラスから太陽の光が入り、神秘的だ。


「では、こちらにひざまずいて祈りを捧げてください」

俺たちは言われたとおりに、ひざまずく。


「おぉ?」

大きな光が辺りを包み込み、俺たちの手に金属製の板が現れる。

「これは……」

「これ、タブレットっぽいぞ」

一宮が言う。


「ほんとだ」

金属製の板には文字が浮かび上がる。


ーーーーーーーーーーーーーーーー

我は作家の神、なろう神である。

そなたたちは、我の力により異世界へ召喚された。

我ら神は、召喚した異世界人に加護を与えることができる。

我の加護について、教えておく。


一つ、ブックマークボーナス

これまで「小説家になろう」において、ブックマークした数に応じたステータスに補正が入る。


二つ、評価ボーナス

これまで「小説家になろう」でつけた★の数に応じた固有スキルを習得できる。


三つ、レビューボーナス

これまで「小説家になろう」で魅力的なレビューを書いた分だけ特別な装備を入手できる。


四つ、異世界でも「小説家になろう」の読書可能

本機により、「小説家になろう」を読書し、ブックマーク、評価及びレビューは可能である。

その場合においても、ボーナスは付加される。

ーーーーーーーーーーーーーーーー


マジかよ!!

俺は評価が低かったしレビューもしたことない。

だからボーナスが付いてなかったんだ。


「おいおい、これってチートじゃないか?」

一宮が言う。

「確かに……ここでなろうを読んでボーナスをつければ五味さんのように最強になれるはず。

 五味さん!! 俺たちも強くなれますよ!!」

「……………………」


五味さんは、金属板の内容を一通り確認したあと、再び魔法とスキルの表を見ている。

「やはり優先スべきは【魅了】だな」

ダメだ。

このおっさんは話を聞いていない。


「おい一ノ瀬。高評価とブックマーク、レビューで俺たちも強くなろう」

「だな!! チート最高!!」

俺は金属板を使って、ブックマーク登録、高評価を次々にしていく。

実際には読んでいないが、レビューも書く。

〈最高の物語でした!〉

片っ端からだ。

これで最強になれるぞ!!


『不正行為が認められました』

頭の中に直接声が聞こえてくる。

「へ?」


『不正行為により、強制送還されます』

周囲に強い光が立ち込める。

体が宙へと浮かび上がる。

「ちょ!! 待って!!」

嫌だ!!

俺は異世界で最強になるんだ!!

周囲を見ると、一宮も同じように浮かび上がっていた……










ダルい。

今日は一限から授業があった。

午後の授業はないので、学食で飯を食って帰るか。

「よぉ、一ノ瀬」

「おぅ、昼か?」

一宮だ。

共通の趣味、ウェブで小説を読んでいる友達だ。


「最近どう? 面白いの見つけた?」

「まぁぼちぼちだな」

もちろん小説の話だ。


「なんかさ、あんまり記憶ねぇんだけど変な夢見たんだよね」

一宮に言われると、俺も変な感じがする。

「マジか。偶然だな。俺もそんな感じするわ」


「うまく言えないんだけどさ、ちゃんと評価とかレビューとかしようと思うんだよね」

一宮はそんなヤツじゃない。

無料なんだから適当に読んで、別に評価なんかしなくてもいい。

俺一人なんてどうせ影響ない、みたいなことをよく言っていた。

なんだろうか、この違和感は……

「なんかすげぇ偶然つーか、俺も今日はそんな気分なんだよね」

何故だろうか……

今日からきちんとブックマーク登録をして、評価をつけ、面白かったらレビューをしよう。

そんな気分になっている。


「あとさ、市役所のおっさんがもしかしたらすげぇ強いのかもって思うよ」

何故だろう……不思議だ。

きっと市役所のおっさんは異世界で凄まじく強い。

そんな気がするのだ……

普段は【二拠点修行生活】を執筆しています。

こんな短編書いてないで、こっちを更新しろと思う読者様、ごもっともです。


【予約開始】【9/1発売】二拠点修行生活~異世界転移したと思ったら日本と往復できるらしい。異世界で最弱、日本では全身麻痺だが、魔法が無限に使えるので修行し続ける~


TOブックス様より小説第一巻が【9/1発売】になります。

特に日本編において改稿をしております。

予約特典の書き下ろしSSもございます。


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https://www.amazon.co.jp/橋本悟/dp/4866999322

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続刊が出れば、原作の執筆圧力になり、更新が早くなります。

また、社畜ストレスによる急性胃腸炎になる可能性も減ると思います。

哀れだと思ったら買っていただけると幸いです。

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― 新着の感想 ―
不正行為で強制送還オチは想像外でした!面白かったです! 五味さんはいい人かと思いきや、かなり気持ち悪い…。 なろう神がムンラやノクタも管轄内にしているなら我が世の春でしょうが、スキルをR18行為に使う…
[良い点] 書籍化おめでとうございます(こっちに書いてどうする)。 やはりこの後、五味さんもなろう神の怒りに触れて規制…じゃなくて強制送還されたんでしょうか。どう考えても言動がノクターン神(仮称)の…
[良い点] いいお話でした! 評価やブクマ、レビューが異世界でのステータスに反映されるなんて斬新ですわ! なろう神も粋なことしてくれますね! おもしろかったです! [一言] 五味さんの活躍に期待してま…
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