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怪談遊戯~紅葉語り~  作者: 雪鳴月彦
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――幕間――

 紅葉の語りが止み、また室内に静寂が満ちた。


 観客たちのリアクションはどこまでも無反応で、イベントを楽しんでいるのかいないのか、その辺りの感覚が全く伝わってこない。


 ひたすらに静寂。このイベントの会場へ足を踏み入れてから、未だに紅葉と和香の声以外は咳払いすら聞いていない。


 怪談好きなタイプの人間とは、皆がこんな風なのだろうか。


 そっと後ろを振り返りながらそんなことを思っていると、突然紅葉が立ち上がり、客席を見渡すような仕草をみせてきた。


「さて、それではここらでお一つ、皆様からの怪談を披露していただきましょうか。わたしは今、墓地に纏わるお話をいくつかしましたが、お題は何でも構いません。自分が体験なされたお話、お知り合いから聞いた不思議な怪異。どなたか、是非この場で語りたいと思う方はいらっしゃいませんか?」


 名乗り出たい者は手を挙げろと、自らが小さく挙手して示しながら紅葉が呼びかけると、背後から一斉に衣擦れの音が響いてきた。


 驚きで咄嗟に首を回した俺は、座る客たちのほぼ七割近い数が無表情に手を挙げているのを目の当たりにした。


 ちゃんと言葉には反応できるのかと、つい失礼な言葉が頭に浮かんでしまいそうになったが、当然そんなことを口に出せるわけもなく、俺はただ呆然と天井へ伸ばされる腕たちを眺め回した。


「まぁ……嬉しいですけれど、さすがにこれだけの人数を一気にご紹介することは難しいですねぇ。それでは、まずはお二人くらい選ばせていただきましょうか」


 そう言うと、紅葉はスッと前へ移動し吟味するように挙手をする客たちを眺め、それからおもむろに人差し指を前方へと向けた。


「それでは、貴方と……そちらの黄色い服を着た貴女。お二人にお話をしていただきましょう」


 告げられたのは、五十代くらいの細い身体をした男性と、二十代前半、恐らくは俺たちと同年代くらいかと思える少しぽっちゃりした女性だった。


 紅葉の指名を聞いて、上がっていた腕が一斉に下がる。


 まるで事前に練習を積み重ねた劇団員かと思えるほど息の合ったその動作に、本気でこれはやらせではと疑いたい気分が僅かに湧いた。


「それでは、その場からで構いませんので、男性の方からお願い致します」


 長椅子へと引き返し着席しながら、紅葉はまず男の方へ話を振る。


 すると、言われた男は小さく一礼をしてから抑揚のない、それなのに部屋全体へ響き渡るような、不思議な声量で語りだした。


芳沢よしざわと申します。えー……今日は、三年程前になりますか。私が実際に体験をした、恐ろしい出来事を語らせていただこうと思います」


 示し合わせたように、再び室内は無音と化す。


 どこにでもいる気弱なサラリーマン、そんな風貌に見える芳沢という男。


 紅葉に代わりその男の平坦な声だけが、静寂へ溶け込むように広がり始めた。

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