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怪談遊戯~紅葉語り~  作者: 雪鳴月彦
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第四話:墓荒らし

「……さて、二つ目のお話はいかがでしたでしょうか。人の形を成す物には魂が宿りやすい、などとよく言われますが、このIさんが遭遇した怪異も恐らくはそれと同じたぐいの存在だったのかもしれませんね。人の多く集まる場所には、それだけたくさんの念が渦巻いていますから、それが人型に引き寄せられ異界の存在になってしまっていた。恐らくは、そういうことだったのでしょう」


 二つ目の話を、紅葉はそう締めくくり口を閉ざす。


 横を向けば、まるで虜にでもなってしまったかのように真剣な面持ちで話に聞き入っている和香の顔が目に映り、俺はすぐに視線を前へと戻した。


「怪談話はまだまだ始まったばかり。続けて三つ目のお話へと参りましょう。ここからは三話続けて語らせていただきます。それぞれ体験された方は別の人ですが、全て墓地にまつわる体験談となります」


 紅葉の言葉に合いの手を入れるように、部屋のどこかでラップ音が響いた。


 異様に大きく響いたその音に、つい肩を跳ねさせそうになったが、どうにか堪えて紅葉の語りへと意識を集中させるよう努める。


「では、次の話を始めます」





 この話は、八年程前になるでしょうか。言い方が失礼に当たるのかもしれませんが……当時、路上生活をされていたある男性から教えていただいた、不可思議な出来事についての話です。


 勤めていた板金工場を解雇されたのがきっかけで住む場所を失ってしまったその方は、生活を続けていくことが困難になったのと役所へ生活保護申請等の手続きにうとかったのが原因で、路上での生活をせざるを得なくなってしまったのだそうです。


 色々あったのでしょう、奥さんとは随分前に離婚をされており、親権も奥さんの方へいってしまい二人のお子さんとも離ればなれにされた状態で、正直なところ頼る人もいなかったと言っていました。


 家無し状態では思うようにお金も稼ぐこともできず、かと言って外での生活の仕方も経験がないためわからない。


 途方に暮れながら、どうにかその日暮らしをして耐えてはいたそうですが、やはりそう長くは続かず、すぐに行き詰まってしまった。


 どうにか食べ物を得ようとはするものの、路上生活をする人たちの間にも縄張りやルールがあるそうで、新参者であるその方にとってはなかなかに厳しい環境となっていたのでしょうね、まともに食事をすることができなく困ったその方は、苦肉の策としてお墓に行けばお供え物があるかもしれないと思いつきました。


 季節がちょうど夏の時期で、お盆が近いというのもあったからでしょうか。


 深夜、近場にある墓地をいくつか巡ってみると、それほどの収穫はなかったものの、少しは食べ物を得ることができた。


 それでその方、味をしめてしまったそうで、その後も二、三日おきに墓地へおもむいては、徘徊をするようになったそうです。


 そうすると、お盆が近づくにつれて食べ物やお酒を手に入れる機会が増えてきた。


 これは良いぞと、ますます供物を盗みに入ることが常習化していき、やがて八月も半ばを迎え、世間がお盆を迎えた夜に、それは起きてしまいました。


 深夜の丑三うしみつ時、もはや慣れた足取りで墓地を訪れたその方は、いつも通りに供物を回収して歩いていたそうなのですが、その最中に突然、周囲からガタガタと何かが動くような音がし始めました。


 一瞬、誰かいるのかと警戒したそうですが、人がいたというわけではなく、どうやら立ち並ぶ墓石が揺れている。


 あちらこちらの墓石がガタガタガタガタと小刻みに動き、それは徐々に勢いを強め、目に見える程に揺れと音が強くなっていく。


 地震かと慌てたその方は、一旦供物の回収を中断し、急いで道路へと走り避難したらしいのですが、そこでおかしなことに気がつきました。


 墓地の中では、まだ墓石が暴れるようにして揺れている。


 なのに、それ以外の物は何一つ揺れてはいない。


 周囲にある家屋も電柱から伸びる電線も、全て静止しているし、何よりも自分が立つ地面すら全く揺れてはいなかった。


 それに気づいて、その方やっと冷静になったんですね。


 これは地震なんかじゃない。


 自分の手と服のポケットに詰めた供物を頭に浮かべ、墓下で眠る仏たちが怒っているのだと直感したその方は、その場ですぐに踵を返し逃げだしたそうです。


 その後、問題のお墓からは供物を頂戴することをやめたとのことですが……その方、暫くは別のお墓へ移動し、懲りずに同じことを続けていたと言います。


 もっとも、不可思議な体験をしたのはその一度きりだったそうですが。

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