第四十九話:黄泉と現の狭間
この怪談会が始まる、本当に少し前でした。
わたしは、時間まで会場周辺を散策しようとこの近くを移動していたのですが、ちょうど交差点へさしかかった時でしたね、赤信号で止まっている歩行者に紛れて、可愛らしい浴衣を着た女性が目に映ったのです。
それが木京さんだったわけですが、わたしは自分の声が聞こえないだろうと軽率な判断をしてしまいまして……つい、木京さんの耳元で「お綺麗な浴衣ですね」と、声をかけてしまいまして。
結果、恐らくですが、わたしと木京さんに備わる霊気の波長が類似していたのでしょう、木京さん、いきなり声をかけられびっくりされた様子でわたしの方を振り向きましてね、すぐ間近にわたしの顔があったものですから、ひどく驚かれた様子で逃げるように道路へ飛び出してしまったのです。
そこで、交差点を右折しようとしていた車と接触してしまい……即死、してしまいました。
まさに一瞬の出来事で、頭の損傷が特に大きく、苦しむ間もなく人生を終えたことでしょう。
実際、霊体となられた木京さんに苦しみの感情は見受けられませんでしたし。
ただ、あまりにも突然の不幸に現実を受け入れられないご様子ではありました。
それでも、死んでしまった事実は覆りません。
わたしは、自分が驚かせてしまったお詫びと言いますか、困惑されている木京さんがせめて行き場を見失い彷徨うことならぬようにと、こちらの会場へ足を運ぶことを提案させていただきました。
何せ、ここは現世に留まり続ける死者が集まる、霊界と現世の境界線。
あの世でもなく、この世でもない、曖昧な空間……黄泉比良坂でございますから、木京さんと同じ、人の人生に幕を下ろした方々がたくさんおられて、寂しい思いをすることもせずに済むと、そう判断をしたのですが……。
まさか、ご自身の彼氏さんを共に連れて来られるとは、考えが至りませんでしたね。
先に一人でこの場へ戻ったりはせず、わたしがきちんとご案内すれば、目黒さんへこのようなご迷惑をおかけしないで済んだものを……申し訳ございませんでした。
しかし残念ながら……もう目黒さんは、木京さんと共に生きていくことは叶いません。
なので心寂しいとは思いますが……お帰りは、どうぞお一人で。
今ならまだ充分間に合います。貴方はここを抜け出せますから。




