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怪談遊戯~紅葉語り~  作者: 雪鳴月彦
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第四十八話:座椅子

 さて、これが今宵最後のお話となります。


 最後に話すのは、六十代の男性、吾妻あずまさんが体験された恐い出来事になります。


 この吾妻さん、言い方は失礼ですがあまり経済的に安定されていない方だったんですね。


 お仕事も簡単なアルバイトを転々とするような生活を三十代の頃から繰り返して生きて来られたような方でして、一時期は生活保護のお金だけで暮らしていたりもしたのだそうです。


 そんな生活を長く続けてきた方ですから、貯蓄も収入も雀の涙程度しかない。


 そのため、吾妻さんは若い頃からよく拾える物を探す癖があったそうなのです。


 要は、自動販売機の下に小銭が落ちていないかを調べたり、ゴミ集積所を通る際には使える道具が捨てられていないかをチェックしたりと、そういうことを日常的にされていたと。


 ある日、吾妻さんが外を歩いていると、引っ越しをされたのかそれともしている最中だったのか、ある家の前に粗大ごみと思しき物がまとめて置かれているのを見つけた。


 使い古したような布団や一部が欠けたバケツ。かなり古いとわかるミシンに段ボールの中へ無造作に詰め込まれた茶わんやコップ。


 まさに廃棄品と一目で判別できそうな山の中に、どう見てもまだ新品ではと思えるくらいに綺麗な茶色の座椅子が紛れ込んでいるのを見つけ、吾妻さんはどうせ捨てるのなら貰ってしまっても良いだろうと、それをゴミの中から取り出し抱くようにして持ち上げた。


 一応家の住民に声をかけてはおこうかと家の様子を窺ったものの、人がいる気配がなく、まぁ良いかと思いそのまま黙って家まで運んでいったのだそうです。


 そして、その座椅子を茶の間へ置いて自分用として使い始めたそうなのですが、一週間程が経過した頃から、どういうわけか体調を崩し始め、終いには四十度近い熱まで出てしまった。


 風邪かと思い薬を買って飲んでみても、一向に体調は良くならない。


 それどころか、日ごとに悪化が進み、背中や足におかしな痛みまで走るようになってしまい、まともに動くことも困難な状況へと陥り始めてしまった。


 お金がかかるのはきついけれど、これはもうどうにかしてでも病院へ行くべきか。


 男の一人暮らしで、これ以上自分でできることも思いつかない。


 明日の朝一番でタクシーを呼んで診察をしてもらいに行こうと決断し、布団の中で朦朧もうろうとしていると、ふと視界の端に何か黒い物が動いていることに吾妻さんは気がついた。


 何だろうかと思いながら、視線だけをそちらへ向けてみると、先日頂いてきた座椅子の背を預ける部分から、女と思われる長い黒髪の頭がぬぅっと生えるように突き出ているのが見えた。


 その頭は、何を考えているのかわからない上下へユラユラとした動きを数十秒間繰り返していたかと思うと、突然座椅子の中へ沈み込むようにして消えてしまった。


 ……今のは何だ?


 気味が悪い、という感覚よりも体調不良による不快感が勝り、この時の吾妻さんは恐いという感情は湧かなかったらしく、節々の痛む身体をどうにか起こし、座椅子の元まで赤ん坊がはいはいをするようにして近づいていった。


 いくら頭がぼんやりしているとはいえ、見間違いとは考えられない。


 しかし間近で見ても、座椅子には特におかしな箇所はなく、それならば中に何かあるのかとテーブルの上に置いていたカッターを手に取ると、躊躇することもせずに座椅子へ突き刺し、一気に切り開いた。


 そうして、切り口を開き座椅子の中を確認した吾妻さんは、そこで初めて小さな呻き声と共に表情をしかめることとなった。


 座椅子の中に詰め込まれた白い綿。


 その綿が、どす黒い色に染まっている。


 それは、まるで血液を染み込ませて乾燥させたような禍々しい色をしていて、吾妻さんはすぐに座椅子から手を引っ込め身体を離した。


 ひょっとして、これはまともな物じゃなかったのか……?


 そう思った吾妻さんは、すぐにその座椅子を近くのごみ集積所へ持っていき処分をしたそうで、その翌朝にはあれほど悪くなっていた体調が嘘だったかのように回復したのだそうです。


 一応、座椅子はごみ収集車が回収する対象ではありませんから、その後は暫くの間、座椅子は放置されていたそうなのですが、吾妻さん自身、もう関わることをしたくなかったため見てみぬふりをしていたそうで、やがて市か近所の方が対応してくれたのか、気づいた時には座椅子はなくなっていたということです。


 果たして、吾妻さんが持ち出してしまったこの座椅子には、どんないわくが染みついていたのか。


 今となっては誰にもその真実を知る手段はありませんが、無闇に物を拾うという行為もやはり気をつけなければならないのかもしれません。

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